高崎の学びを全国ブランドに!/飯野教育長が教育方針

(2011年6月23日)

「教育都市高崎」の創造を目指す

 飯野眞幸教育長は、教育長就任にあたって、「教育都市高崎」の創造をめざす教育行政の方針を示した。本稿は教育関係者に配布され、冒頭で引用された吉野源二郎著「君たちはどう生きるか」が、高崎市内で話題になっている。教育長が示した内容は次の通り

高崎の学びを全国ブランドに!
「教育都市高崎」の創造を目指して

たれもかれもが力いっぱいにのびのびと生きてゆける世の中
たれもかれも「生まれてきてよかった」と思えるような世の中
じぶんを大切にすることが同時にひとを大切にすることになる世の中
そういう世を来させる仕事がきみたちの行く手にまっている
大きな大きな仕事、生きかいのある仕事
吉野源二郎(注1)

 今から50年近く前、母校の中学校の図書室で出会つた「君たちはどう生きるか」(昭和12年岩波書店刊)という本の最初のページに筆者の直筆で書かれていた言葉です。この言葉を胸に、この言葉に励まされ、これまで教育に携わつてきました。発刊後70年が経過した現在もなお文庫本で販売され、多くの人達に読まれている名著です。

 高崎のこどもたちがこのように高い志をもち、毎日が楽しく、有意義な学校生活をおくることができるよう学校教育の充実に努めることと、その子どもたちを温かく見守り、かつ自分たちも生涯にわたって学ぴ続けていこうという意思と意欲をもつた地域の方々のための社会教育や文化・スポーツの振興・推進を図ることとがともに刺激し合い、響き合うことによって高崎の教育は更に発展すると確信しています。

 このような観点から、本市がこのたび中核市となったのを契機に本市の教育のプラッシュアツプ(注2)を図り、高崎で子育てをして良かつたと実感してもらえるよう、また他県から一家で高崎に移り住む方々が増えてくれるような魅力ある教育を全国に発信し、「教育都市高崎」を創造していきたいと考えています。

 就任直後のことでもあり、市の教育行政全てを見わたしたものになっていませんが、高崎の教育への期待(所信)の一端を述べさせていただきたいと思います。教育に関わる皆さんがこれから仕事を進めていく際の参考になれば幸いです。

 ※(注1)吉野源二郎(1899~ 1981):編集者・児童文学者・明治大学教授・日本ジヤーナリスト会議初代議長。(注2)ブラッシュアップ(brush-up):「磨き直す、仕上げる」の意

1 子どもたちの生命を守るための取組の強化~危機管理機能の強化

 東日本大震災や本市の内外で過去子どもたちが被害を受けたり巻き込まれたりした事故、事件等を教訓に、自然災害、火災、学校(園)事故、登下校中の事故、不審者、いじめ、虐待等から子どもたちの生命を守る取組の一層の充実を図ります。

 危機管理に「想定外」はあり得ないという認識のもと、ハード面(校舎等の耐震化等)とソフト面(学校の危機管理能力の向上、保護者、地域の方々及び関係機関とのより強固な連携、子どもたちの危機対応能力向上のための教育等)両面からの取組を強化していきます。

2 学校教育の充実

 市内外を問わず、学校教育への関心は非常に高いものがあります。学校教育も生涯学習上のライフステージの中に位置付けられていますが、学校教育の充実を「教育都市高崎」創造の核としたいと考えています。

(子どもたちの)だれもかれもが来てよかったと思えるような学校(園)
(保護者の)だれもかれもが預けてよかったと思えるような学校(園)
(教職員の)だれもかれもが勤めてよかったと思えるような学校(園)
(地域の)だれもかれもが在ってよかったと思えるような学校(園)

これが私の理想とする学校(園)の姿です。特に、以下の点に重点を置きたいと考えています。

(1)個に応じた指導の充実

 保護者の大きな関心の一つに、我が子の才能や能力を学校はどう伸ばしてくれるのかということがあります。それぞれ子どもたちには個性や特性があることを踏まえ、得意な分野をさらに伸ばすための指導、不得意な分野を克服するための指導、隠されている能力を引き出すための指導等を含め、個に応じた指導の充実とそのための環境の整備を一層図っていきます。

 特に学習指導においては画一的な指導ではなく、学習のつまずきに悩む子どもにはとことんその子どもの立場になって手を差しのべ、解決に導くような指導を、また、知的好奇心に富んだ子どもたちに対してはその欲求を満たせるような指導を更に工夫してほしいと願っています。それが子どもたちに自信とやる気を起こさせ、結果的に本市の子どもたちの学力向上にもつながります。そのためも小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の全ての学校において更なる授業改善を推進します。

(2)学ぶ意欲を高める指導の充実

 経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA調査)では、我が国の児童生徒の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの低下が依然として問題となっていますが、それ以上に問題なのが我が国の子ども達の学ぶ意欲の低さです。学ぶ意欲の低下は怠学やいじめ・暴力行為の増加等生徒指導にも大きな影を落としています。

 保護者(PTA)と一体となって、 学ぶ意欲を高めていくための取組を充実させ、学ぶ意義や学ぶ楽しさを実感させる指導の充実を図ることが喫緊の課題です。個を大切にしたきめ細かな学習指導とともに学びの意欲を高める指導とのコラボレーションによって本当の意味での学力向上も可能になると思われます。また子どもたちの学ぶ意欲を高めていくためには街全体が学ぶ姿勢や雰囲気を持っていることが重要であり、本市の「生涯学習都市宣言」は大きな後ろ盾となります。

(3)言語活動を高める指導の充実

 今回改訂された学習指導要領の特色の一つに、国語をはじめ各教科等での言語活動の充実があります。この言語活動では、記録、説明、批評、論述、討論などの学習を充実させるとありますが、読む、聞く、書く、話すといった一連の行為の重要性が再確認されています。とりわけ読む活動(読書活動)の活発化は読解力向上の鍵になると思われます。沢山本を読み、視野を広げ、感想や意見を他人と積極的に交わすことはコミュニケーション能力の。向上にもつながります。

 また現代は「感情暴走社会」とも言われ、すぐキレる大人が増えています。その傾向は子どもたちにも伝染し、小学生と中学生の暴力行為は過去最悪の事態であり、その背景の一つとして指摘されているのが言葉の貧しさ・語彙力の乏しさです。それ故、言語活動の重視はいじめ等の生徒指導上の問題を減らす特効薬になり得ます。実効ある言語活動の展開にとって図書館(図書室)の充実と保護者の理解・協力は不可欠であり、それとともに書店に沢山の人が集まる読書活動の活発な街創りも同時に進めていく必要があります。

(4)郷土を理解し郷土を愛する教育の充実

 倉渕地域、榛名地域、箕郷地域、群馬地域、新町地域、吉井地域が加わり、面積的にも人口的にも大きく拡大した中核市高崎が一体感をもった教育を展開していくためにもそれぞれの地域を理解し、地域の特性を活かした教育の展開が不可欠です。

 NPOをはじめ地域の方々や各種団体・機関等と連携し、それらを活かした体験活動を中心とした教育活動を行うことによ り、郷上の理解が深まり、郷土の魅力を感じ、郷土を大事にしていこうという気概が醸成できます。それはまた教育基本法第2条でいうところの「生命を尊び、自然を大切にし、環境保全に寄与する態度を養う」ことにもつながります。

(5)体験活動や時代が求める教育の重視

 東日本大震災で被害を受けながらも、地域の人たちのため―所懸命援助物資を配つたり、がれきの撤去に汗を流したりする中学生や高校生の感動的な姿が何度も報道されていました。

 社会の一員であることを認識する貴重な機会を提供するとともに人間的な成長をも期待できるボランティア活動、地球の懐の深さや自然の偉大さを改めて知り、さらに自然との共生を考えさせてくれる自然(野外)活動、人種や言葉の違いを超え、地球市民の一員であることを共感させてくれる国際交流活動、さらに他人の善さを発見できる機会を提供してくれる集団宿泊活動等、子どもたちが自らの行動を通じ、「気づき、考え、実行する」(青少年赤十字の態度目標)ことができるようになるための基盤づくりを地域の方々の協力のもと一層推進していきたいと考えています。

 また、従前より取り組まれてきた環境教育や国際教育をはじめ近年特に注目されている食に関する指導(食育)等についても、その指導の工夫・充実を図っていきたいと考えています。

(6)規範意識に富み、他人を思い遣る気持ちに満ちた心豊かな子ども達の育成

 子どもたちが規律ある整然とした学習環境のなかで落ち着いて学習や諸活動に取り組み、いじめなどにも遭わず楽しく、有意義な学校生活がおくれること二それは全ての保護者の願いでもあります。

 児童生徒の問題行動の背景として、前述した子どもたちの言葉の貧しさ・語彙力の乏しさの他、子どもたちの危険予知能力の低下と結果責任の重大性に関する認識の欠如も指摘されています。何が危険(問題)で、それがどういう結果(責任)をもたらすか(問われるか)ということが見通せない子どもたちが増えています。子どもたちを被害者や加害者にしないためにも、全教育活動通じ道徳的、人権的特性を涵養するための取組や遵法精神を培う法教育等を効果的・積極的に行い、学校を挙げて規範意識の醸成に努めるととともに、地域の青少年育成推進協議会(青少推)等の団体や警察・法務局等の機関等と一体となった取組を推進する必要があります。

 いじめについては、我が国の場合、いじめ対応にウエイトが置かれる傾向がありますが、より重要なのは組織を挙げていじめを未然に防ぐための取組です。道徳教育や人権教育の工夫・充実を含め、いじめを防ぐための体系的なプログラムの作成が急務です。また、それと同時にいじめは学校として絶対許さないというメッセージを発信し、時によっては毅然とした対応をすることも必要です。

 将来ある子どもたちが、いじめに悩み、自ら命を断つというようなことは絶対あってはならないし、それを防ぐのが大人の責務です。

(7)文化的・スポーツ的活動の活発化

 学校内外での文化・スポーツ活動は、子どもたちのそれぞれの能力を伸ばし、健全な精神を育てる意味においても極めて価値のある活動です。子どもたちが熱心に取り組み、自分の才能や能力を更に磨くことのできる環境の整備を積極的に行う必要があります。幸い本市は文化的にも体育的にも優れた団体が、活発な活動を全県的・全国的規模で展開しており、それらとの密接な連携を図っていくことは子どもたちにとっても非常に有益です。

(8)特別支援教育の充実

 本市はいち早く「身体障害者福祉モデル都市宣言」(昭和48年10月)を行い、障害者福祉に積極的に取り組んできましたが、ノーマライゼーションの理念の実現を目指し、障害があるなしにかかわらず、一人の人間として自立するために、子どもたちとその保護者に対し最大限め支援の手をさしのべる教育の更なる充実に向けた取組とともに発達障害等の症状に応じたきめ細かい指導の充実に努めていきたいと思っています。

(9)世界を視野に活躍できる人材の育成

 国内の企業のなかには英語を社内公用語として企業も出始め、さらに増加することが予想されています。また海外との人の往来も更に活発になると思われます。今まで以上に国際的視野を踏まえた学校教育が重要視されつつあります。そのような視点等に立って本市では姉妹都市 ・友好都市との交流事業も活発に行われています。

 中学校や高等学校の外国語活動の充実については、授業をはじめとした指導の工夫を図ることも重要ですが、前述した国際的視野を持った人材の育成という観点も大事にした国際理解 ・交流活動を活発に行うことも非常に効果があります。

 さらに今年度よりスタートした小学校の外国語活動については、初めて外国語に接する全ての子どもたちがプラスイメージをもてることを目標に本市独自の教材の開発等によりその指導の充実を期していきたいと思っています。

(10)シンクタンクとしての教育センターの機能強化

 現教育センターは教職員研修、学力向上、教育相談、不登校児童生徒のサポート等の事業を展開していますが、本市が中核市になったことに伴い、研修等一部その権限が拡大され、それと共にその責任も重く受け止められています。これまでの諸事業をさらにメリハリのあるものにし、その結果教職員のモチベーションが上がり、子どもたちをはじめ市民への教育サービスが充実したものとなるよう更なる改革に努め、本センターを高崎の教育のシンクタンクとしての機能を有する組織にグレードアップさせていきたいと考えています。

(11)教職員が全力で職務に精励できる職場環境の創出

 きめ細かな学習指導や生徒指導、成果を求められる部活動指導、懇切・丁寧さが求められる保護者対応等教職員をめぐる環境には厳しいものがあります。とりわけ、教員については、全国的に、多忙化や職務上のストレス等で体調を崩し、休職している教員が増加しています。子どもたちが好きで教員になり、子どもたちの教育に―生を捧げたいという気持ちで全力で職務に取り組む教員が少しでもゆとりを持って心身ともに健康で本来の職務に取り組むことができ、「高崎の教育に関わって本当によかつた」と思ってもらえるような教育環境の創出に向けて努力していきたいと思っています。

3 家庭教育充実のための支援

 子どもは社会全体で育てるという理念を実現するためには、社会教育、学校教育、家庭教育の連携が不可欠ですが、その中にあって家庭の責任には最も重いものがあります。

 ただ、家庭が置かれた状況は一様ではなく、子育てに悩みや課題を持つ家庭も少なくありません。その影響を子どもたちが学校まで引きずることなく、楽しく有意義な学校生活をおくることができるような支援の手立てを教育行政のみならず行政全体で連携して行ったいく必要があります。

家庭教育の充実は、学校教育に中心的役割を果たす教員が、本来の業務に専念できることにも繋がり、それは子どもの能力の開発・伸張や学力の向上、進路幅の拡大というかたちで子どもたちにフィードバックされることになります。

4 生涯教育の推進

 「人は学校教育に限らず、各人の置かれた状況の中で、自己の充実・啓発や生活の向上のために自発的意思に基づき、必要に応じ自己に適した手段・方法を自ら選んで、生涯にわたって学習していく」という生涯学習の理念が広く市民に理解され、活発な活動が行われることは 「教育都市高崎」の創造に不可欠です。

 幸い、本市においては、平成7年12月に「生涯学習都市宣言」が制定され、「いつでもどこでもだれでもたのしく学べるまち」を目指した取組が行われています。生涯学習の充実が家庭の教育力向上を牽引してくれるなら、それは学校教育充実の最大の援軍となり得ます。生涯学習の振興・推進に当たっては、生涯学習の拠点で、地域社会教育施設の代表格でもある公民館を地域の事情や利用者の要望等を踏まえるかたちでさらに使いやすい存在にするとともに活動の活発化を図ったり、蓄積型文化施設である図書館を生涯学習という観点から充実させる等の取組は重要であると考えています。

特に、本年4月に新しい中央図書館がオープンしましたが、生涯にわたって学び続けていこうとする人々のみならず学校(園)で学ぶ子どもたちにとっても知的な刺激を与えてくれるものとして大いに期待することができます。

5 文化・芸術及び生涯スポーツの推進・振興

 文化・芸術及びスポーツの重要性については既に「学校教育の充実」において述べたところですが、学校教育において一人一人の個性を尊重し、それぞれが持つ才能を開発したり、伸張させるという個に応じた教育を推進していくという視点にたった時それらが活発に展開されているということは生涯学習と同じように学校教育への大きな援軍となり得ます。

また生涯にわたってこのような取組ができるということは各自の人生を充実としたものにしてくれます。文化・芸術やスポーツに熱心に取組む団体や個人の活動を支援することともに美術館やホール等関連施設の充実や使いやすさ等も考慮した運営も重要であると考えています。

6 おわりに

 教育委員会として機関決定した「教育ビジョン」や「教育行政指針」に基づく施策が着実に成果をあげるためには途中の検証が不可欠です。私の所信が検証のためのきっかけや材料となるなら望外の喜びです。

 高崎の教育に携わる皆さんと力を合わせて、「教育都市高崎」の創造のため全力で取り組む所存でいます。高崎の子どもたちの未来のために。生涯を通して学び続ける全ての市民のために。

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