8900首の短歌作品が集まる

(2013年12月日)

8900首の短歌作品が集まる写真を拡大[吉野秀雄賞 一般の部] 井田さん

8900首の短歌作品が集まる写真を拡大[吉野秀雄賞 学生の部] 近藤君

8900首の短歌作品が集まる写真を拡大[吉野秀雄賞 学生の部] 谷津さん

第12回吉野秀雄顕彰短歌大会

 第12回吉野秀雄顕彰短歌大会の授賞式が11月30日に高崎市総合福祉センターで行われた。

 吉野秀雄は明治35年に、高崎市あら町で生まれ、病気や妻の死など困難の中で、短歌を作り続け人々に感動を与えた。この短歌大会は吉野秀雄の業績を継承していくために開催され、一般の部177首、市内の小学生2110首、中学生2888首、高校生2982首、大学生740首の作品が寄せられた。応募作品は約8900首となり児童、生徒を中心に短歌の広がりを見せている。

 最高賞の吉野秀雄賞には、一般の部は健診で再検査の不安と妻への心遣いを歌った井田さん、学生の部では送り盆の伝統を語り継ぐ祖母を歌った近藤君、母の愛情を感じた瞬間をとらえた谷津さんが受賞した。

 甲子園での前橋育英高校の活躍を歌った土屋さんが優秀作品に選ばれたほか、野球のルールを知らない女子小学生が甲子園で夢と感動を歌った作品も今年の特徴の一つだった。

 優秀作品は以下の通り。敬称略。

第12回吉野秀雄顕彰短歌大会主な優秀作品

○吉野秀雄賞

一般の部
井田善啓 再検査要と書かれし健診の結果は妻に見せずに蔵(しま)ふ

学生の部
近藤征海 送り盆だんご丸めるばあちゃんと毎年同じ話聞きつつ
谷津花菜 帰り道肩に背負ったエナメルにおにぎり一つ母のぬくもり

○高崎市長賞

一般の部
湯浅茂子 吉野家の墓前にあぐる香の煙崖に這ひたる岩煙草包む

学生の部
成田素 富士登山ついに今年はせいはした足の痛みもふっとぶ景色
三浦和 墓参り乞われて両手を合わせてもなにも願えずただ立ち尽くす

○高崎市議会議長賞

一般の部
高橋恵 臨終に間に合わなくてごめんねと冷たくなった父の手さする

学生の部
小見由有 ひまわりが重い頭をたれているうつむきかげんがわたしとにてる
塩谷来美 夢の中「応援してるよ、がんばれ」と亡き祖父の声今も聞こえる

○高崎市教育長賞

一般の部
眞庭義夫 その母が名誉の戦死の名のもとに人目忍びて哭きしこの墓

学生の部
廣瀬吏 ほたるがねぴかぴかひかるよるのやみどんなおはなししているのかな
藤倉卓也 選挙など俺らは関係ないのだと鳴き続けている蝉の声

○高崎市文化協会長賞

一般の部
萩原光之 傍らの葉桜揺らす風ありて歌碑の面(おもて)にひかり文(あや)なす

学生の部
竹内孝太朗 不安気に小さくひらいたおとうとの手にどうどうといるカブト虫
下田貴士 稲の穂のたわわに実る重たさよ今年も豊作亡き祖父に告ぐ

○県歌人クラブ会長賞

一般の部
今井栄一 セシウムに汚染されたる原木を伐れぬと悩める椎茸農家

学生の部
内津悠貴 赤とんぼぼくの目の前すぎていく稲穂の先の夕焼けの空へ

○ラジオ高崎社長賞

一般の部
小林文吉 鍬担ぎ父と通ひし畑路も散歩の人等のコースとなりぬ

学生の部
町田怜美 秘密基地友と希望を語り合い月日がたてば草おいしげる
土屋瑞季 あきらめない奇跡の九回ツーアウト仲間とつなぐ勝利への道

吉野秀雄賞受賞者の声

[一般の部]

■井田善啓=
この度、第12回吉野秀雄顕彰短歌大会において吉野秀雄賞を頂きまして、誠に光栄に存じます。嬉しさもさることながら、身の引き締まる思いでいっぱいです。

 私の短歌の出発点の下滝短歌会は、地味で会員の生活詠を主に取り組んでいますので、自ずと私の短歌も生活中心になっています。

 私の今回の受賞作ですが、昨年暮れに人間ドックを受診した時のものです。再検査要があったのですが、五月まで内緒にしておきましたので、それを詠みました。

 末筆ではありますが、この度の受賞に対しての先生方のご苦労と併せて事務局の皆様のお心遣いに、心から感謝申し上げます。

[学生の部]

■近藤征海=
毎年お盆が来るたびに祖母から聞く話は「群馬や関東のことはわからないけれど、新潟では仏様にだんごを持たせて送るんだよ」、「死んだおばあさんはパパのことをうんとかわいがってね。体の弱いパパにわざわざ仕出し屋さんから魚を取って、特別に食べさせたりしてたんだよ」、「今年もまあちゃんがだんごを持たせてくれたって、おばあさん達が喜んでいるよ」など、ご先祖様や家族を大切に思う気持ちがよくわかるものばかりです。

 今回の受賞をきっかけに、祖母のこの気持ちを引き継ぎ、僕も大切にしていこうと思いました。中学生になり、毎日忙しいけれど、時間を作ってできるだけ、祖母に会いにいきたいと思っています。

■谷津花菜=
部活に没頭していた高校時代をテーマにつくりました。お腹がペコペコでくたびれた部活帰りに、母の作ったおにぎりをみつけ、心もお腹も満たされる、そんな体験をそのまま一首にしました。

ふとした日常生活の中で忘れがちな家族への感謝の気持ちやありがたさに気づき、この気持ちを大切にしようと思いました。そんな思いが短歌を読んでくれた皆さんに伝わればなによりです。

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