第4回 インタビュー 弁士さんへ質問! 松田貴久子さん編
(2012年10月10日)
「生演奏で楽しむ映画の醍醐味『かつべん』」10月13日(土)/高崎市文化会館
今回は、実際に10月13日(土)に活弁をしていただく弁士さんお2人にお聞きしたインタビューを掲載します。
松田貴久子さん
【略歴】
会社勤務を経て、2005年より無声映画公演のスタッフとしての活動を開始。公演プロデュースの他、映写機・伴奏音楽のオペレーションも担当し、そのかたわら映画説明(活動写真弁士)の習得に努めた。
2011年7月、東日本大震災被災者支援のための避難所慰問公演で弁士としてデビュー。2012年1月より無声映画鑑賞会のレギューラー出演者に加わる。
私ならこう語ってみたい~弁士への想い~
松田さんと活弁の出会いは12年前。ご主人のお仕事を手伝っていた会場で澤登翠さんの活弁よる、キートンの「セブンチャンス」をご覧になったそうです。弁士への想いを抱き始めたのは、2009年に『福島文化元気ルネッサンス・映画の原点無声映画公演』の仕事にスタッフとして同行した頃から。澤登さんとカラード・モノトーンによる阪東妻三郎主演の『雄呂血』を見ながら、"私ならどう語るだろう、こう語ってみたい"と感じていたそうです。この時の感覚がきっかけで2011年から弁士としてデビューを果たしました。
納得いくまでただ練習あるのみ
活弁を行う際には、基本的に1人で練習をされるという松田さん。台本もご自身で書かれており、完成には1~3カ月かかるそうです。字幕以外のセリフなどは、自然と自分の言葉が出てくるまで何度も繰り返し映像を見たり、自分の活弁を録音して聞くなど、納得いくまで練習を行うのだそうです。
また弁士にとって声や喉の状態は常に良くに保っていなければなりません。松田さんはもともと喉が弱いそうで、夏でも首にタオルを巻いて寝たり、冬はほとんどタートルネックしか着ないそう。日々の鍛錬や心がけが素晴らしい活弁に繋がっています。
映画の世界にどっぷりと浸かって、没頭する
活弁でも様々なジャンルの作品を上映しますが、松田さんはジャンルを問わず、映画の世界にどっぷりと浸かって、映画に没頭するようにされているそうです。また、活弁では、弁士が1人で何人もの人間を演じないといけないので、感情を引きずりすぎないよう、切り替えるタイミングに気を付けて演じています。
松田さんの心に残る作品は、大河内傳次郎主演の『血煙高田馬場』。わずか6分間しか残っていない映画ですが、奇跡的にストーリーはまとまっており、活弁の魅力が凝縮されている作品です。また、松田さんのご主人の父である2代目・松田春翠の活弁トーキー版を御手本にして、初めてお客様の前で活弁をした作品でもあります。
多くの人に生で活弁を見てほしい
「活弁したいのは、日本のチャンバラ映画です。三味線や太鼓の入った音楽にのって、活舌鋭い名セリフを語りたいですね」と今後の意気込みを語る松田さん。
今回の上映会で松田さんは『ドタバタ撮影所』『椿姫』の2本を活弁されます。
『ドタバタ撮影所』は製作年度・監督・主役などの詳細が不明の作品で、映画制作が始まって活気に満ちていた時代の勢いが感じられるとのこと。製作現場の風景など、当時一般の人たちは憧れと驚きをもってご覧になったのではないかと松田さんは語ります。動物もたくさん出演していて、小さいお子様も楽しめるドタバタ喜劇だそうです。
『椿姫』はオペラでも有名な作品ですが、この映画は1920年ころのフランスのパリを舞台にした作品です。見どころは何と言っても、主演のアラ・ナジモヴァとルドルフ・ヴァレンチノの名演技。純愛と嫉妬、愛憎渦巻く悲劇の物語をカラード・モノトーンの演奏に乗せて、たっぷりとお楽しみいただきたいと熱く語っておられました。
松田さんが感じる活弁の魅力は、無声映画をより判り易く、より楽しむために生まれた、日本人が作り上げた文化という点。演劇でもなく、朗読劇でもない、映像と語りと音楽が一体となった時の高揚感が最大の魅力だといいます。ぜひ多くの方にライブでご覧いただきたいと締めくくられました。
坂本頼光さん編へ続く
(高崎映画祭スタッフ 狩野裕宣)