生きることは「樹海の中にいるようなもの」
(2013年11月26日)
「高崎は映画の熱量が高い」。山口秀矢監督と映画トーク
11月30日(土)からシネマテークたかさきで上映される「樹海のふたり」の公開に先立ち、制作した山口秀矢監督が来高し、23日に市内でトークイベントが行われた。山口監督が高崎を訪れたのは初めて。シネマテークたかさき支配人の志尾睦子さんの進行で、山口監督と高崎経済大学の学生で映画研究部幹事長の中村尚道さんが、映画について語り合った。
「樹海のふたり」は11月30日(土)から12月6日(金)まで。上映時間は午前10時30分から。料金は一般1700円。初日の11月30日の上映後に山口監督の舞台あいさつを予定。問い合わせは同館027・324・1744。
「欲望」で映画に魅了。2400本の映画が支えに
山口:高崎は映画の熱量が高いまちですね。
志尾:映画づくりを後世に伝えていきたいと思っています。
山口:高校の修学旅行で「欲望(アントニオー二監督)」を観て映画に魅せられました。学生時代は大学が学生運動でロックアウトされていたので、年に600本映画を観ました。2400本の映画がぼくの支えになっています。映画監督になりたくて上京したがテレビの仕事をするようになり、ドキュメンタリーなどを手がけてきた。映画はこれが初めてで60歳を過ぎて一歩前に進めた。
中村:多くの人を巻き込んで映画づくりをしたいと大学の中だけではなく、広く活動しています。
山口:映画は斜陽と言われています。キャリアが無くても誰でも携帯電話で動画が撮れ、1億総評論家、総映画監督といえます。ハリウッドはSF作品ばかりで、映画界も何をやっていいのかわからないカオスの時代と言えます。しかし、映画は自由に表現ができるおもしろいメディアです。
中村:私たちの場合は映画を作って、自己満足でなく広がらなくては成長につながらないと考えています。
10年前の約束がやっと実現
志尾:「樹海のふたり」はテレビディレクターを取り上げています。
山口:10年前、テレビ番組で視聴率を取れる企画を考え、富士山の樹海で自殺志願者を助ける人たちのドキュメントを企画した。ヤバネタだと思っていたが、彼らは愚直でピュアで、「自殺志願者を救っても人生に責任を持つわけではない。こんなことをしていいのか」と葛藤していた。その時、映画にすると彼らと約束した。「スケアクロウ(主演:ジーンハックマン・アルパチーノ)」のような樹海のロードムービーにしたかった。
2009年に入院したのがきっかけで生死を考え、この映画を作らなければと思い、資金集めを始め、翌年の正月休みに一気に脚本を書きました。
中村:前橋市をPRする映画を市民と撮りました。市のPRは映画でなくてもできる。まちを描くために市民と会って話すことが大切だと思いました。
山口:事実を積み重ねても面白くならない。この映画はロケハンなしで脚本を描き、ロケハンで修正しました。東日本大震災があってエンディングも大きく変わりました。どこに話しを帰結させるか、身を削る作業です。
樹海に足を踏み入れると、方角もどこにいるのかもわからなくなる。生きていくことは、樹海の中にいるようなものだと思います。道から500mくらいの樹海の中に、なぜか多くの人が自殺している所がある。溶岩を抱くようにして樹木が根を張りめぐらせ、生命の力強さを感じさせる。映像の中で表現したかったことでもあります。
樹海が導いた豪華なキャスティング
志尾:インパルス(板倉俊之さん、堤下敦さん)を主演に選んだのは。
山口:キャスティングは豪華です。「スケアクロウ」のイメージがあり、主演の一人は神経質なやせ型、もう一人は太っちょ。キャスティングに困った時、プロデューサーから面白いのがいると紹介されました。お笑いは苦手だったのですが、インパルスのDVDを見て鋭い人間観察から生まれたコントだと思いました。板倉さんの小説「蟻地獄」にも樹海が出てきて、小説を読んでキャスティングしたのかと聞かれました。半年くらい決まらなかったキャスティングが、彼らと会って15分で決まりました。樹海が導いてくれたキャスティングでした。
志尾:遠藤久美子さんもすばらしい演技で支えていると思います。
山口:元アイドルで苦労している女優を探しました。インパルスは、下手だ、良かったと評価が二つに分かれています。インパルスの二人には自然体でやってもらうようにしました。演技をしてもらおうとすると失敗する。演技は、俳優として何十年も経験してできるものです。演技をしないのも私の演出の勝負どころです。
志尾:山崎裕さんのカメラワークも見どころのポイントで楽しみでした。
山口:手撮りの部分も本当にすばらしいです。
沸騰した作品を作りたい
中村:これから映画の仕事に就きたい若者にアドバイスをお願いします。
山口:はったりでもいいから、やりたいことをはっきり言えて夢がないといけない。群馬は任侠の地でしょう。市民が喜ぶ映画でなくて、嫌がるような映画を撮ってみようよ。
志尾:乗り越えてでも何かを伝えたい、熱いものが欲しいですよね。
山口:これからやりたい題材があります。作品にサーモスタットがかかって、熱くなる前にスイッチが切れているようなことではなく、沸騰したものを作りたい。情熱をぶつけたいです。
志尾:今日はありがとうございました。ぜひ劇場で「樹海のふたり」を観てください。
(編集部まとめ)