「まちづくり基本条例」案の上程見送り/高崎市
(2011年2月25日)
今会期中の上程を断念。議会から要検討の意見も
高崎市は、中核市に移行する平成23年4月1日の条例施行をめざして検討を進めてきた、「まちづくり基本条例」を、会期中の高崎市議会三月定例会に上程しない考えを24日に示した。
4月1日に条例を施行するためには、三月定例会に上程し、市議会の議決を得る必要があったが、高崎市は、この日程を断念したことになる。「まちづくり基本条例」は、これまで、「自治基本条例」として市民・職員のプロジェクトチームが2年間にわたって準備し、シンポジウムや座談会を開催しながら内容を検討してきた。
昨年12月15日から今年1月14日まで実施された当初の素案に対するパブリックコメントに、403件の意見が寄せられ、これまでにない数となっていた。高崎市は、2月14日に、寄せられた意見をもとに修正した条例案を市議会に示したが、市議会からは周知不足を指摘する意見や時間をかけて検討する必要があるといった意見が出されていた。四月に統一地方選が行われ、市長・市議会議員選挙が行われることから、今後、このまちづくり条例の検討がどのように継続されるかは、見通しが難しい状況となりそうだ。
これまでの背景
自治基本条例は、地方分権が進むなかで、自治体の自己決定、自己責任による自立した運営ルールとして制定する動きが高まった。自治体も財政に苦しみ、自治体だけでなく市民、市民団体、企業、NPOとパートナーシップを組んでまちづくりを行うことが重要になっている。自治基本条例は、これまで定義されていない市民あるいは住民の「まちづくりの権利と義務」を、条例として明確にするものだ。高崎市のまちづくり条例案は、他自治体の同様の条例とおよそ同じ内容となっており、特にまちづくりに対する記述には力が入れられている。パブリックコメントによって、「最高規範」が削除され、「まちづくり基本条例」の名称になったが、盛り込まれた内容としては、自治基本条例と言える。
一般論として、自治基本条例は、行政への市民参加や、NPO、企業などが広範に行政と協働することを促進する一方、この条例に則って首長、議会、行政運営の仕事が行われているか拘束する側面を持っている。
広い意味でのまちづくりが、広い意味での市民、多様な人達が担い手となって参加し、協働によって行われることに異議はないだろうし、現実に行われている。市長、議会、行政が、こうしたまちづくりを進めるために力を尽くすことについても、異議はないだろう。
このことを自治基本条例あるいはまちづくり条例として書き記した時に、まちづくりの意志決定に参加できるのは誰なのか、意志決定をするのは誰なのかと、条例のどこにも書かれていないことが軋轢となるのは、この条例そのものが首長、議会、行政運営を制御する働きを内在しているからだろう。
また、市民自治がまちづくりと定義されているために、自治権が、まちづくりに参加する広い意味での市民によって行使されると読んでしまうことは否めない。首長、議会の権限がこの条例によって制限されることはないが、少なくともこの条例を意識して施政にあたらなければならない。良い意味では常に市民の立場に立った施政、悪く言えば迎合した施政となる。思い切った施策は、住民投票の洗礼を受けることにもなりうる。
また、困ったことに市民が主体となる条例を制定するにもかかわらず、この条例で拘束される側が条例文を起草し、市長が議会に上程し、議会が同意議決するという、行政主導の手続きが必要となる。条例制定の趣旨と手続きが矛盾していることも、一般論として指摘されている。
パブリックコメントでは、住民投票の資格要件に伴う外国人の参政権について、組織的に反対意見を投じている動きがあったことも件数が多くなった原因で、インターネットでは、プロジェクトチームのメンバーに対する攻撃的な書き込みもあった。素案の公表とマスコミ報道で、初めてこの条例を知ったという市民の動揺も見受けられた。昨年12月以降、自治基本条例について知らないという市民の声もあったし、知らなかったから、制定すべきでないと運動する人もいた。今回、周知不足という議会の指摘もあったようだ。
一昨年来、自治基本条例について広報高崎で何度も特集され、市民シンポジウム、座談会も各地域で開催された。参加者が少なく、これで、市民の声を吸い上げていることになるのかという意見も確かにその場で出されていた。プロジェクトチームとしては手を尽くしたと思うが、その時点で、市民の関心は低かった。関心が高まったのは、自治基本条例と外国人参政権の報道に前後してからで、市民の関心がようやく喚起されたが、否定的な方向に世論が傾いた。
市民への周知というのは、どこまで尽くせばいいのか。自治基本条例について特別委員会まで持ち、市民とのパイプ役となる市議会は、この間、どう機能してきたのだろうか。市民の代表として、議決権を持つ議会の理解はとても重要だ。市民に対して市、議会の説明責任を設けようとするこの条例によって、市民に対する説明不足、説明責任が果たされていなかったことが指摘されるという、皮肉な結果になった。
自治基本条例は、地方分権の流れの中で制定が進んできたが、動きは一段落している。市民がまちの主体であることは揺るぎない。地方分権の新たな流れとして地域政党が誕生し、地域のめざす政治を実現しようとする動きも注目されている。新たな潮流が生まれる中で、自治基本条例への関心が高まり、まちづくり、自治について考えるきっかけになったことはプラスだったと評価する声もある。この条例は、中核市移行の記念碑のような意味もあったが、市民自身がまちづくりについて本質的に考えることができたのか、かえりみなければならないだろう。