第25回高崎映画祭の各賞を発表
(2010年12月21日)
ヘヴンズストーリー
瀬々敬久監督
井筒和幸監督
最優秀作品に『ヘヴンズストーリー』。『時かけ』仲里依紗が主演女優賞。
第25回高崎映画祭の各賞が21日に発表された。
最優秀作品賞に瀬々敬久監督の『ヘヴンズストーリー』、最優秀監督賞に『ヒーローショー』の井筒和幸監督と『ゲゲゲの女房』の鈴木卓爾監督が選ばれた。
瀬々監督は、第16回高崎映画祭、井筒監督は第20回高崎映画祭でそれぞれ最優秀監督賞を受賞している。
最優秀主演女優賞に、高崎ロケで話題になった『時をかける少女』の仲里依紗が選ばれている。
第25回高崎映画祭は、平成23年3月26日(土)から4月10日(日)まで。授賞式は3月27日(日)高崎市文化会館で行われる予定。 各賞と受賞理由は次の通り。
受賞者
◇最優秀作品賞=『ヘヴンズストーリー』・瀬々敬久監督。
◇最優秀監督賞=井筒和幸監督『ヒーローショー』。
◇最優秀監督賞=鈴木卓爾監督『ゲゲゲの女房』。
◇最優秀主演女優賞=吹石一恵『ゲゲゲの女房』。
◇最優秀主演女優賞=仲里依紗『時をかける少女』。
◇最優秀主演男優賞=長谷川朝晴『ヘヴンズ ストーリー』。
◇最優秀助演女優賞=山崎ハコ『ヘヴンズ ストーリー』。
◇最優秀助演男優賞=宮﨑将『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』。
◇最優秀新人女優賞=寉岡萌希『ヘヴンズ ストーリー』。
◇最優秀新人男優賞=後藤淳平『ヒーローショー』。
◇最優秀新人男優賞=福徳秀介『ヒーローショー』。
◇若手監督グランプリ=『さんかく』 吉田恵輔監督。
◇若手監督グランプリ=『イエローキッド』 真利子哲也監督。
◇特別賞=『海炭市叙景』 熊切和嘉監督、キャスト、スタッフ、関係者一同。
受賞理由
◇最優秀作品賞『ヘヴンズ ストーリー』 瀬々敬久監督
現代社会が生み出す犯罪や悪をモチーフに、人間の命と存在の確かさを問うた意欲作である。家族を惨殺され一人残った少女と、妻子を殺された男、という二人を軸に物語は展開するが、彼らの生き方だけを見つめるのではなく、複合的に絡まりあっていく人間の営みを、時間と手間ひまをかけて必死に描き出そうとしている。登場人物たちの8年間の歳月と人間の感情のゆらぎを、映像として克明に描き出す事で、映画作家として一つのテーゼを持って、作品を仕上げたその姿勢に敬服する。
◇最優秀監督賞=井筒和幸監督『ヒーローショー』
幼稚な思考が、取り返しのつかない大事件を生み出す若者たちの群像は、現代社会のひずみをそのままあぶり出しているかのようだった。息苦しさの中でもがき、抵抗し、暴力へ向かう若者たちの姿が生々しい。暴力には痛みが伴い、血には匂いがある事が画面からビシビシと伝わる。その上で映画作品としてのエンターテイメント性を十分に意識し、まとめあげた構成力と演出力が高く評価された。
◇最優秀監督賞=鈴木卓爾監督『ゲゲゲの女房』
現実と虚構は常に人間の精神の中では同居している。その事が実に豊かに表現されている。漫画家水木しげるとその妻、布枝の生きた時代と彼らの精神性は、今現在の我々の中にどのように映るのか、そしてどのように伝えるべきかを、目に見えるものとして具体化させようとした監督の柔軟な発想力に驚く。まさしく映画で観ないとわからない、映像力と物語性がこの作品には詰まっている。独創性と、緻密に構成された演出力が高く評価された。
◇最優秀主演女優賞=吹石一恵『ゲゲゲの女房』
妻とは、母とは、いかなる存在であるかが布枝を演じる役者から伝わって来る。見合いした5日後に結婚し、そこから相手を知り、敬い、支え続けることになった布枝の、意志の強さと包容力が、凛としたたたずまいから発せられている。優しく強い存在感が高く評価された。
◇最優秀主演女優賞=仲里依紗『時をかける少女』
若さと輝きに満ちた主人公を好演している。出逢いと経験を通して少女から大人へと移行する思春期の心の変遷をきめ細やかに豊かに表現し、観るものの心を鷲掴みにした。新たなる時代のミューズと呼ぶにふさわしいヒロインであった。
◇最優秀主演男優賞=長谷川朝晴『ヘヴンズ ストーリー』
憎悪を生きる糧とする男が、自分の意志とは別に少女によって憎悪を持ち続けねばならない絶対的存在として定められたとき、深い哀しみと喪失の淵を彷徨う男のゆらぎが画面に溢れて来る。人間の複雑な心情を吐露する様に繊細に演じ分けた表現力が高く評価された。
◇最優秀助演女優賞=山崎ハコ『ヘヴンズ ストーリー』
若年性アルツハイマーを患った人形作家という役柄は、この物語において人間の存在を提示する重要な役どころであるが、その難役を圧倒的な存在感で体現している。忘れていく事実の後に残る無垢な精神が一人の女性の体躯から滲み出ていることに感嘆の声を漏らさずにはいられない。表現者としての真髄が役柄に投影されておりその力量が高く評価された。
◇最優秀助演男優賞=宮﨑将『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』
その存在は神々しく、恐ろしい力を漲らせていた。閉塞した社会でもがき苦しむ主人公たちが、突き動かされ、絶対的存在として位置づけていくアイコンを、凄まじい力で存在させている。まさしく彼の存在がなければ物語が成立しない。素晴らしき表現力と演技力に脱帽である。
◇最優秀新人女優賞=寉岡萌希『ヘヴンズ ストーリー』
深く暗い悲しみの中に漂い、憎しみを絶えず持ち続ける事で生きる理由を作り出す少女という難役を体当たりに演じ、そのひたむきな眼差しが見る者の心を捉えて離さなかった。憎しみの果ての先にあるものを彼女の存在自体が現していた様に思える、役柄を生きた姿勢が高く評価された。
◇最優秀新人男優賞=後藤淳平『ヒーローショー』
必死に誠実に生きようとすればする程空回る、若者の焦燥感と葛藤が見ていて痛々しくなるほどリアルに表現されている。ふとした事で深みにはまってしまう主人公の、逃げ場のなさや、やり切れなさを迸る情熱で持って演じ上げている。若手らしい清々しい感性が感じられる演技に賞賛の声が集まった。
◇最優秀新人男優賞=福徳秀介『ヒーローショー』
自分の生き方に自信と情熱を持てないまま、日々をやりすごす気弱な青年が、思わぬところから取り返しのつかない事態に巻き込まれて行く姿を切々と演じ上げている。ハードな内容ながら、主人公の心根の柔らかさがキャラクターに滲み、最悪の事態から這い上がる希望の光として彼の存在は爽やかな余韻を残す事に成功している。
◇若手監督グランプリ=『さんかく』吉田恵輔監督
恋愛ドラマの形をとりながら、自分を中心に世界を見てしまう人間の性(さが)とそのおかしみを痛烈に描き出すことに成功している。深い洞察力と抜群の構成力で、非常に深みのある人間ドラマを構築している。巧みに練られた脚本と心の機微を丁寧に追いかける演出で物語展開に抑揚をつけており、その演出手腕が高く評価された。
◇若手監督グランプリ『イエローキッド』真利子哲也監督
鬱屈した若者の心の叫びが、現実と虚構という二つの世界を行き来しながら発散されていく。そうした姿は、雰囲気で押し進められるのではなくアクションとして確実に映像化されている。身体的動きと感情の起伏の一体化が緻密に計算され、その世界観をエネルギッシュなものに昇華させる事に果敢に挑んでいる。若さ漲るパワーと確かな構成力、映像力が高く評価された。
◇特別賞『海炭市叙景』熊切和嘉(くまきり・かずよし)監督、キャスト、スタッフ、関係者一同
村上春樹、中上健次らと並び評されながら、文学賞にめぐまれず、90年に自らの命を絶った不遇の小説家・佐藤泰志。彼は故郷である函館をモデルにした“海炭市”を舞台に、そこに生きる人々の姿を描き出す未完の連作短編小説を残している。函館の市民の手によってこの作品の映画化が企画され、町の人々の多大な協力のもとに市民の手で資金繰りから奔走し、冬の函館で撮影されたのが本作である。
土地で生きるという事、土地が人を形成し、人生を形成して行くという事がこの物語では語られている。その土地で息づく想いを繋ぎ、形にして行く作業が、丁寧に成し遂げられたのがわかる珠玉の作品である。いくつかのエピソードを交えながら土地と人間との関係性を豊かに描き出した監督の演出力が高く評価された。同時に、映画製作を通して後世に想いを繋げて行こうとするキャスト・スタッフ・関係者全ての方々に対して敬意を表し、特別賞とした。