第27回高崎映画祭各賞発表
(2012年12月20日)
最優秀作品は該当なし
20日に第27回高崎映画祭の開催概要と各賞が発表された。
最優秀監督賞に、井筒和幸監督『黄金を抱いて翔べ』、西川美和監督『夢売るふたり』が選ばれるなど、11人が受賞した。
映画祭は平成25年3月23日(土)から4月7日(日)まで開催され、会場は高崎市文化会館ほか各会場。授賞式は平成25年3月24日(日)午後5時より高崎市文化会館で行われる。
各賞は以下の通り。
最優秀作品賞
該当なし
最優秀監督賞
井筒 和幸監督(右)
『黄金を抱いて翔べ』
井筒 和幸監督
『黄金を抱いて翔べ』
[受賞理由]
人生のダークサイドに陥るふちをそろそろと歩いているような男たちが企てた金塊強盗計画。金欲というより人生の在処を確かめるために突き進む人間の内省が、画面を覆い尽くす。確固とした人間性が見える上での、観客に差し向けられた極上のエンターテイメントは、映画の醍醐味に溢れている。
[過去の受賞]
第20回高崎映画祭(2006年) 最優秀監督賞『パッチギ!』
第25回高崎映画祭(2011年) 最優秀監督賞『ヒーローショー』
西川 美和監督
『夢売るふたり』
西川 美和監督
『夢売るふたり』
[受賞理由]
同じ物を見つめ同じ夢と現実を育んできた夫婦が、襲いかかる災難に立ち向かおうとする。2人で1つだった基本形は、企みによって内紛から分裂し、一個人の内面性をあらわにしていく。人間性をあぶり出す事に長けた監督ではあるが、男女の性を冷静に見つめた視点がそこに一層の深みをもたらした。多くの登場人物を洞察力に優れた人間描写で豊かに描き出した手腕が光る。
[過去の受賞]
第18回高崎映画祭(2004年) 若手監督グランプリ『蛇イチゴ』
第21回高崎映画祭(2007年) 最優秀監督賞『ゆれる』
最優秀主演女優賞
松 たか子
松 たか子
『夢売るふたり』
[受賞理由]
面倒見がよく、気立てのよい、懐の深い母性をたたえた良い女。温かい人間性の内面にも、嫉妬心や懐疑心そして伴侶に対する許しがたい怒りはある。そのどれをも余すところなく浮かび上がらせる表現力にまさしく脱帽する。しなやかでありながら堅強な女性像に共感と称賛が集まった。
田畑 智子
田畑 智子
『ふがいない僕は空を見た』
[受賞理由]
女性として生を受けたからこそ直面する現実の厳しさ。その堪え難い現実から逃れるため、別世界で自己肯定をする女は、特異に見えるが実は現代女性を包括した役柄である。その繊細な心のひだが観る者の心に静かに伝わる。確かな演技力と備え持った品性がなければ成し得なかった難役を見事に演じきった。
[過去の受賞]
第8回高崎映画祭(1994年) 最優秀新人女優賞『お引越し』
最優秀主演男優賞
夏八木 勲
夏八木 勲
『希望の国』
[受賞理由]
重く深く苦しいテーマを持った難役である。国家、郷里、家族、様々な物と対比される一個人の生き様を、全身全霊で映し出している。確かな演技力はもちろんのこと、その気迫にただただ圧倒された。作品と世界を結び付ける役者としての尊い存在にただ感服せざるを得ない。
最優秀助演女優賞
安藤 玉恵
安藤 玉恵
『夢売るふたり』
[受賞理由]
騙されても、自分が苦しむ事になっても人に尽くす女。情にほだされ、身をていして人のために人生を使う女は痛々しいが、一方でその崇高な美しさにはっとする。愛しさをにじませた役作りは素晴らしく、多くの共感と支持を得た。
最優秀助演男優賞
溝端 淳平
溝端 淳平
『黄金を抱いて翔べ』
[受賞理由]
世界とのつながりを何一つ見出すことの出来ない不確かな存在。この青年は、物語の主軸と現代社会を結び付けるキーパーソンであり、今を生きる若者の象徴に思えてならない。とらえどころのない役柄を体当たりで挑み、揺れ動かされる若者の閉塞感を体現した表現力が高く評価された。
窪田 正孝
窪田 正孝
『ふがいない僕は空を見た』
[受賞理由]
取り立てて不自由さのない生活を送りながら、生きにくさにもがく主人公とは対照的に、不遇の家庭環境、生活苦の中で要介護の祖母と2人で生活する高校生を演じている。明日の糧も希望も持てない中で、生きる事への活路を必死でたぐり寄せる純真さが胸を打つ。複雑で難しい役どころを丁寧につかみ、演じ上げたことが高く評価された。
最優秀新人女優賞
高梨 臨
高梨 臨
『ライク・サムワン・イン・ラブ』
[受賞理由]
凛とした美しさを放ったかと思えば、男性たちをとらえて離さない魔性の魅力をたたえた女子大生を好演。少女から大人の女性へと移行する段階の、女性としての定まらなさが魅惑的だ。潤いのある存在感にこの先の可能性を感じる。
最優秀新人男優賞
満島 真之介
満島 真之介
『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』
[受賞理由]
生涯を思想と信念に捧げ、三島と供に自決した楯の会・森田必勝を熱演した。激動の時代を切り開こうと1分1秒を惜しみ生き抜く姿は想像を絶するが、役者を通してそのほとばしりが蘇ってくる。揺るぎない存在感と力強く役を生き抜く姿勢に圧倒された。
新進監督グランプリ
三宅 唱
三宅 唱
『Playback』
[受賞理由]
映画を映画足らしめるものは何か。この若き映画監督はそのことをごく自然に受け入れ表現しているように思う。時間と空間を自在に描き込み、人物の生活軸と人生の軸を交差させる。主人公が人生を取り戻そうとするように、映画を取り戻そうとする力が見える。今後の映画界を担う新星であろう。