最優秀作品に『サウダーヂ』
(2012年1月10日)
第26回高崎映画祭
10日に第26回高崎映画祭の開催概要と受賞作品、受賞者が発表された。
最優秀作品賞に『サウダーヂ』富田克也監督/空族、最優秀監督賞に廣木隆一監督『軽蔑』、他11人1団体が受賞した。最優秀新人賞には男女ともに子役が選ばれ、その活躍が目立った。
映画祭は3月24日(土)から4月8日(日)に開催され、会場は高崎市文化会館、高崎シティギャラリー、シネマテークたかさき。授賞式は3月25日(日)の午後5時より高崎市文化会館で行われる。チケットなどの販売情報は2月の中旬に高崎映画祭ホームページで発表される。受賞作品、受賞者は以下の通り。
『サウダーヂ』
最優秀作品賞
『サウダーヂ』富田克也監督/空族
受賞理由
甲府を舞台に今現在そこで起きている事実を、映画の世界で表現してみせる。長く続く不況、町の空洞化、外国人労働者、若者の叫び。様々なモチーフは日本の地方都市が直面する荒廃や閉塞感を浮き彫りにする。日本で今何が起こっているのか。そのことを凝視し、社会への問題提起をふんだんに詰め込んだ野心作である。苦行を伴う等身大の映画制作の姿が目に浮かぶ。この挑戦は閉塞する現代日本映画に風穴を開ける一筋の光だ。徹底的なリアルを追求しながら、映画という虚構でそれを表現するあくなき探究心と野心に敬意を表する。
『軽蔑』
最優秀監督賞
廣木隆一監督『軽蔑』
受賞理由
文学と映画が幸せな出会いをしている。文学において時代を飛び越えて存在する空気感、時代性が映画的表現にうまく添加されている。人間の赤裸々な内面を暴き出すと同時に時代が作り出した幻想ともいえる愛の形がここにある。大胆かつ繊細な描写で作りこまれた純愛の姿に観客は引き込まれる。娯楽性と文学性の融合が高い評価を得た。
過去の受賞
第9回高崎映画祭(1995年)若手監督グランプリ『800 TWO LAP RUNNERS』
第18回高崎映画祭(2004年)最優秀監督賞『ヴァイブレータ』
鈴木杏
最優秀主演女優賞
鈴木杏『軽蔑』
受賞理由
孤独に耐えうる強さも持ちながら、男を愛した瞬間に全身全霊で身をささげていく女性像を熱演している。内面を吐露し感情をむき出しにする激しさを要求される難役だが、女性の色気と愛への渇望を見事に体現した。厚みのある表現力で新境地を開いている。
西島秀俊
最優秀主演男優賞
西島秀俊『CUT』
受賞理由
愛する映画を守るため、殴られ屋となって一人生きることに立ち向かう男を、まさしく体当たりで演じあげている。生身の人間の強さと精神の崇高さが凝縮された役柄は誰にでも演じられるものではない。ある一つの物事を信じ愛する姿にぶれはなく、心を揺さぶられる存在感に圧巻である。
過去の受賞
第20回高崎映画祭(2006年)最優秀主演男優賞『帰郷』
高良健吾
最優秀主演男優賞
高良健吾『軽蔑』
受賞理由
社会的に堕ちていく男が見つけた一筋の愛は、それゆえ狂おしい切なさを伴う。理性や理屈が及ばない領域に踏み込んだ愛を、淀みなく注ぐ男を、見事にとらえている。その繊細で豊かな表現力が高く評価された。
榮倉奈々
最優秀助演女優賞
榮倉奈々『東京公園』
受賞理由
主人公のよき理解者であり、いくつかのパートをつなぐキーパーソンを演じる。明るく快活でありながらも、自身の人生に抱える翳とひそかに戦っている繊細な女性像を伸びやかに好演した。その翳が、他者と自分をつなぐときに物語は一つの成長を見せる。作品における立ち位置を見据えた役作りと確かな演技力が高く評価された。
二階堂ふみ
最優秀助演女優賞
二階堂ふみ『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
受賞理由
夢、家族、恋愛、友情の狭間で日々揺れ動きながら、思春期を駆け抜ける少女。その疾走感を瑞々しく清らかに演じあげている。その体躯からにじみ出る有り余るエネルギーと青春の輝きに魅了される。時代のミューズというふさわしい大いなる魅力に満ち溢れている。
『マイ・バック・ページ』
最優秀助演男優賞
古館寛治『マイ・バック・ページ』
受賞理由
1960年代後半の学生運動を舞台に描かれた本作において、理想に燃える若きジャーナリストを静観する先輩役は非常に重要な要素であり、もしかするとこの作品の隠れた主人公かもしれないと思わせる。時代を背負い込んだ人物像はつつましくありながら強烈な印象を残す。その役作りと抑えた演技力に脱帽する。
『奇跡』
最優秀新人女優賞
内田伽羅『奇跡』
受賞理由
静かな存在感でありながら一瞬にして場面が華やぐ。そうした瞬間的に場をとらえる天性の魅力が輝きを放っている。不安を抱えながらも、ひたむきでまっすぐな少女の純真さを余すところなく表現している。
前田航基
最優秀新人男優賞
前田航基『奇跡』
受賞理由
子供らしさの裏側に、離ればなれになった家族や弟を思いやる兄としての責任を有した凛々しさが際立つ。自身のキャラクターをうまく役柄に転換させた思慮深さと聡明さに舌を巻く。
前田旺志郎
最優秀新人男優賞
前田旺志郎『奇跡』
受賞理由
自然とそこに存在する子供ゆえの天真爛漫さがとても魅力的。家族や友人との間で自分を見つめ成長していくリアリティが、今後の大きな活躍を予感させる。
『エンディングノート』
若手監督グランプリ
砂田麻美監督『エンディングノート』
受賞理由
事実を克明に切り取るドキュメンタリーは、それゆえの雄弁さや事物の誇張に引きずられる危惧が少なからず伴う。しかし本作は、題材は家族でありながら、プライベートフィルムに陥らない客観性と普遍性を保っている。カメラの前に生きる人間は輝きを放ち、それを見つめる観客もまた輝かせていく。ドキュメンタリーの豊かな側面を最大限に生かした構成と発想力が高く評価された。
『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
若手監督グランプリ
入江悠監督『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
受賞理由
果敢なる挑戦作である。実在するバンドを題材として劇映画に落とし込む事は非常に難題である。それを音楽の魅力を余すところなく発揮する音楽映画の王道を行きながら、数組の人生を垣間見させる群像劇へと見事に昇華させている。その技量と実力に感嘆するほかない。
『CUT』
特別賞
『CUT』アミール・ナデリ監督、キャスト、スタッフ、関係者一同
受賞理由
映画に生きる我々にとっても一つの希望の光ともいえる作品である。映画に対する愛情と、映画を取り巻く戦いを一人の映画狂を通じて具現化している。興行も製作も低迷の一途をたどる現代日本映画界において、この作品を生み出したことが重要である。真っ向から映画を捉え愛しぬく作品を作り出そうと企画した製作サイド、勝負を挑んだ監督、キャスト、スタッフ一同に尊敬と感謝の意を表したい。