五周年を迎えたシネマテークたかさき
(2009年12月)
高崎が多様な映画を観ることのできる都市であり続けるために、映画ファンと市民が支えてきた試行錯誤の5年間
平成16年(2004年)12月4日に開館した「シネマテークたかさき」が五周年を迎えた。当初1スクリーンで開館し、平成19年12月15日に念願の2スクリーン目を増設した。
平成20年11月、「シネマテークたかさき」と高崎映画祭の顔であった総支配人の茂木正男さんの逝去という悲しいできごとに直面した。そして早くも一年が経過し、茂木さんの頑固とまで言える遺志を継いだ若いスタッフたちが一丸となって運営を続けている。
●高崎の芸術文化を象徴する「都市装置」シネマテーク
「シネマテークたかさき」と高崎映画祭は、市民が築いた高崎の都市文化である。亡くなった茂木正男さんのひたむきな気持ちが多くの人たちの心を動かし、高崎のまちに映画文化を育てた。そして、こともあろうに映画祭に集まる人たちの夢を結実させ、「シネマテークたかさき」を作り上げてしまったのだ。
「シネマテークたかさき」(NPOたかさきコミュニティシネマ)は、大作やメジャー作品よりも〝いい映画〟を上映するいわゆる単館系映画館、ミニシアターである。こうした映画館は、都内では映画ファンを集客しているが地方都市では事情が違う。開館の時に「半年もてば良いほうだろうと言われた」と、茂木さんの後を継いだ支配人の志尾睦子さん。実際に半年で閉めたミニシアターもあり冗談ではなさそうだ。
「シネマテークたかさき」の台所事情はきわめて厳しいが、それでも地方都市でミニシアターが経営的に自立しているのは、まさに奇跡に近い。「シネマテークたかさき」をなんとかしようと、市民・企業が集まり支えてくれるのが高崎の真骨頂である。年間130本の上映作品をほとんど見てしまうような熱烈なファンもいる。年に数回しか来館しないが、「自分が守ってやるんだ」と正義の味方のような気持ちで応援してくれる人もいる。「シネマテークたかさき」は、高崎に必要な都市機能、都市の装置なのだとみな感じ始めているのだ。
●4人のスタッフで365日操業
「シネマテークたかさき」の運営は、四人のスタッフと数人のアルバイト。仕事はチケットの販売や半券を切り取る「もぎり」から始まり、映写、場内誘導、アナウンス、館内の清掃、スケジュール表の製作や広告の営業、映画の宣伝、経理、資金繰りなどなど。上映は午前10時から終演は午後10時過ぎ。一日五、六作品を上演し、映写回数は10回以上。アルバイトを使いながら、この仕事量をたった四人で分担している。毎日開館上映し、年間に数日の休館日は館内点検にあてる。「シネマテークたかさき」に休みはない。
「営業力がまだまだ弱いのも悩みです」と話すのは副支配人の小林栄子さん。街なかのお店とのコラボや企業とタイアップした企画を増やしていきたい。食や家づくりなど、作品によっては企業の方から協力・協賛を申し込んでくるケースも出てきた。作品のテーマが企業や商品に合うことや、「シネマテークたかさき」への協賛そのものが企業のイメージアップにつながるのもメリットのようだ。
●ケチで招待券を出さないのではない!
上映作品を選ぶために、志尾さんは年間400本くらいの映画を観る。邦画、洋画、アジア作品、あるいはドキュメントやコメディ、音楽など全体のバランスを取りながら良い作品を選ぶ。
映画館の興業は、配給会社の力が思いのほか強い。なんと入場料売上の概ね半分を配給会社に支払うルールになっているそうだ。作品によっては六割を支払うこともある。毎日の観客動員を通信社に報告しなければならない義務もある。
無料の招待券にも配給会社からの縛りがあり、配れば配るだけ映画館側の負担が大きくなる。招待券を使って営業活動をしたいし、また「招待券を持ってきてほしい」と頼まれることもあるが、そのたびに小林さんは苦しい思いをする。招待券を発行できないのは、決して「シネマテークたかさき」がケチで入場券を出さないわけではない。
●会員は初年度の600人から倍増
「シネマテークたかさき」の会員数は、初年度600人でスタート。現在は1,100人とほぼ倍増し、地方のミニシアターとしてはかなりの好成績だ。特典の会員手帳には、鑑賞した映画チケットを張り、六の倍数回が入場無料になる。五周年を機に、来年度は2,000人を目標に会員を増やしたいと考えている。
シネマテークでは、監督の舞台あいさつやミニトークが頻繁に行われている。高崎映画祭が作った映画業界とのパイプもあるのだと思うが、これほど映画監督が訪れている映画館は、全国を探しても少ないのではないだろうか。
ひざかけの貸出やロビーでのちょっとしたサービス、厳しい財政の中で駐車場の無料サービスも実施している。観客一人ひとりを大切にし、映画への情熱だけでなく、スタッフの温かい気持ちが伝わってくる映画館だ。
新しいお客様が増え、初めて「シネマテークたかさき」にやって来る。いまだに受付で「チケットの受付はどこですか」と尋ねられたこともある。「こちらです」。シネマテークを気に入ってもらって、また来てほしいと願いながらご案内をする。
「開館して一、二年は我慢して頑張ろうと思い、なんとかなりそうだと思ったら、2スクリーンになって、また新たなスタートライン。そしてまた5年目のスタートラインに立って頑張りたい」と言う。
支配人・志尾睦子さん
副支配人・小林栄子さん
鈴木萌さん
●シネマテークたかさき 2010年度〈第5期〉
メンバーズ会員(鑑賞会員)を募集しています。
(スケジュールは毎月送ります)
◇メンバーズA(鑑賞会員)年会費7,000円
6回分無料招待、7回目からは割引あり。
◇メンバーズB(鑑賞会員)、◇シニア・学生(鑑賞会員)もあります。
09年度の1,100人の会員の中には、手帳が9冊以上の会員(鑑賞が80回を越える会員)が6名います。市内2人と児玉・前橋・伊勢崎・邑楽です。又1冊目が使いきれないが、劇場の運営に寄付します、という方もたくさんいます。
●シネマテークたかさき 2009年度(09.4~10.3)
サポーター会員(協賛会員)を募集しています。
◇個人サポーター(協賛会員)3,000円会員 10,000円会員
◇法人サポーター(協賛会員)20,000円会員 100,000円会員
既に今期は多くの協賛会員さんから寄付金をいただいています。
(文責/菅田明則・新井重雄)
高崎商工会議所『商工たかさき』2009年12月号