エリアマネジメントで高崎の活性化を
(2009年12月)
東二条通り、高崎駅周辺地域で新たな動き
ビジター、経営者、住民がともにつくるまちづくり
地域の良好な環境や価値を維持・向上させるために、「エリアマネジメント」という考え方による住民・事業主・地権者等による主体的な取り組みが高崎駅周辺地域で始まった。
東二条通り「チーム・ハナハナ・ストリート」と「高崎駅周辺地域エリアマネジメント協議会」が産声を上げ、高崎駅周辺の創生と高崎都心(まちなか)集客力アップに新たな息吹を吹き込もうとしている。
東二条通りや高崎駅周辺地域を訪れる方々に、この街を好きになってもらい、より多くの人々にファンとなって愛着を感じてもらえること。そして、このエリアに暮らす住民が快適に暮らせ、さらにビジネスや商売をしている経営者やスタッフが気持ちよく働ける環境づくりをめざしていく活動が「エリアマネジメント」だ。
東二条通りの活性化・賑わいづくり「チーム・ハナハナ・ストリート」誕生
■夢と挫折が交錯するファッションストリート
「高崎には遊びや、ショッピングを楽しみたい若者が群馬県内から集まって来る」と言う清水良一さんは、東二条通りでアパレルショップ「GOODY」を経営する30歳。伊勢崎市出身で、自身も高崎のファッション性に引かれ、高校生の頃から高崎に買い物に来て、おそるおそるショップの中を覗いていたそうだ。「いつか高崎で店を持ちたい」と考えていた。高崎のアパレル店で8年働き、2年前に夢だった自分の店を持った。高崎で働いて10年。アパレル分野では、ビブレからさやもーるまで続いていた高崎の力も徐々に衰えているのではないかと感じている。東京での出店も考えたが、清水さんには、高崎へのこだわりがあった。「ここで私はファッションを教えてもらった」。
区画整理による再開発で、あらたな通りに生まれ変わった東二条通り。かつての一方通行の路地は四車線になり、建物は改築され、真新しい建物が通りに並んだ。若者をターゲットとするファッション性あふれる店舗が集まっている。雷舞フェスティバルのまちなか会場や、高崎音楽祭の学生イベント「プライム」ファッションショーの舞台になるなど、高崎駅前の好立地と集客力も注目されている。清水さんもこうした東二条の立地にひかれた。
ファッション性の高い通りだが、良くみると店の名前がかなり頻繁に変わっている。清水さんのように高崎でがんばってみたいと出店してくる若者たちの光と影が映っている。
古くからここに店を構えるそば処「きのえね」の菅家恵子さんは、まちの変化を見つめてきた。菅家さんは「20代、30代の若者が店を持つなら高崎でと、ここにやってくる。しかし現実とのギャップで店を閉めたり、郊外に出て行ってしまう。道路が広くなってから特に入れ替わりが激しくなった」と感じていた。
隣のテナントの人と話しをする機会など無かった。「2年前はお店同士のつながりはゼロだった」と清水さんは言う。歩道の掃除などをしながらあいさつをかわすようになり、世間話もできるようになった。何人か歩道に寄り集まり、店や通りのこと、普段何気なく感じていることを口にしあった。清水さんの店は、「きのえね」のならびで、そんな縁で顔なじみになった。
清水さんたちは、高崎を若者の舞台にしたいと考える一方、自分たちに何ができるのかわからずにいた。いつの間にか菅家さんが若いショップの相談相手のようになっていた。まるで「お母さん役」と菅家さんは苦笑する。「みんな同じ思いを持っている。みんなの気持ちを訴えあう方法はないか」と考えた。
菅家さんは今年4月に「愚痴でもいいから、みんなで語りあおう」と思い切って呼びかけてみた。東二条の全店舗にお知らせを出すと、14人が集まった。仕事で出られない人は意見をびっしりと書き込んで提出してくれた。まちづくりの勉強会をしようと、次第に輪が広がり、自然にかたちができてきた。若い力をあわせて、まちの活性化に取り組もうとする気持ちが盛り上がった。
■「チーム・ハナハナ・ストリート」の立ち上げ
11月5日、満を持して、東二条通りの活性化や賑わいづくりをめざし、同通りの商店36店による「チーム・ハナハナ・ストリート(正式表記team hana hana street)」が発会した。菅家さんが世話役の会長、役員には清水さんをはじめ、ショップの若い経営者、顧問に高崎高島屋が選ばれた。
東二条通りの高島屋駐車場入口の交差点から慈光通りにかけて、ビブレや高島屋の西側の通りの店が参加している。組織づくりの準備の中で、拘束のゆるやかな集まりにして、多くの店舗に参加してもらおうという方向になった。通りの特徴を反映してメンバーはとにかく若い。会の名称から「商店街」をはずし、「チーム・ハナハナ・ストリート」と名付けたのも、若者たちの力を生かしていくのが目的。全国都市緑化ぐんまフェア高崎会場で、「花路・花通り(はなみち・はなどおり)」事業が成功したのを受け、花の文字をもらって「ハナハナ」に決めた。緑化フェアにならい、にぎわいと潤いのあるまちをめざす。
代表の菅家さんは「楽しい元気のあるまちにしていこうと、みんなで意見を出し合って、設立にこぎつけた。手を取り合って、通りのにぎわいづくりを進めていきたい。地道にコツコツとできることから取り組んでいきたい。お店ごとの温度差は確かにあるが、枠からはみ出してもOK、突っ走ってもOK」と考えている。また高島屋では「趣旨に賛同し、一緒に東二条通りを元気にしたい。当社の若手を参加させ、活動をバックアップしたい」と話している。
「高崎駅周辺地域エリアマネジメント協議会」の設立
■テーマは競争+連携へ、「つくること」から「育てる」へ
東二条通りの「チーム・ハナハナ・ストリート」や、高崎商工会議所の高崎新都市創造推進委員会の研究活動の動きと連動して、このほど設立された「高崎駅周辺地域エリアマネジメント協議会」は、高崎駅周辺地域でビジネスを展開している企業・商店が、協力・連携して高崎駅周辺地域の「まちづくり」を推進し、高崎駅周辺地域を訪れる人々に愛着を持ってもらえる活動をめざしている。
エリアマネジメントは地域の住民・事業主・地権者等が関わり合いながら進めるまちづくり活動の新たな取り組み。快適で魅力に富む環境の創出や美しい街並みの形成、資産価値の保全・増進等に加え、人をひきつけるブランド力の形成、安全・安心な地域づくり、良好なコミュニティの形成、地域の伝統・文化の継承等、ソフト的な領域のものも含まれる。
高崎駅周辺では、区画整理事業により道路拡張などの整備が進んでいるが、そうした開発で、来街者の動きがどのように変化しているか、周辺地域やまちなか全体の商業にどのような影響を与えているかに対して、地域全体として具体的なアクションを起こす場はこれまで無かった。
例えば東二条通りの四車線化によって、同通り以西への歩行者が激減したことが通行量調査で示され、各商店街の苦悩が浮き彫りになった。再開発による都市整備は、まちの発展にとって必要不可欠な事業であるが、その結果を生かし、まちなか全体へと効果を広げていけるような受け皿が今までなかったことも原因の一つではないかと考えられている。単一の商店街、町内会を越え、企業やまちづくり組織まで含んだ制度は見あたらないのが現状と言えるだろう。
今、まちなかでは、開発=「つくること」だけでなく、その後の維持管理・運営(マネジメント)の方法=「育てること」を考えた開発を行うこと、また、既成市街地等においても維持管理・運営を行い、地域を「育てること」が求められている。 行政主導ではなく、住民・事業主・地権者等が主体的に進めることが重要だ。
地域における住民の定住の促進や事業主による事業の継続等、地域の求心力が高まることで、さらなる効果が見込めるだろう。
協議会は魅力的な高崎都心をめざすプロジェクト
■東二条拡幅問題へのアプローチも
同協議会は、高崎駅周辺地域をより一層活性化させ多くの人々が集う、魅力的な高崎の都心部をつくりだしていくためのプロジェクトとなる。
群馬県最大の集客施設「高崎駅」を中心とした周辺地域は、高崎の顔、高崎の要としての役割を果たしている。この特性を生かすためには、都市基盤や都市景観の整備とともに、「より質感の高く活気のある街の楽しさやサービスの向上」をマネージメントしていく機能の充実が、より一層重要となっている。
協議会では、高崎商工会議所と連携しながら活動し、必要に応じた提案を行政や関係機関に働きかけていく考えだ。活動の主眼としては、
1.整備された高崎駅前広場、ペデストリアンデッキ、シンフォニーロード、東二条通りなどを高崎都心部への集客を図るために有効に活用していく。特に東二条通りについては具体的には歩行者天国の実施、歩道スペースの拡大、自転車レーンやパーキングの設置、飾花などによる景観整備を推進していく。
2.高崎駅周辺地域の企業、商店、地権者、住民が主体となった「まちづくり活動」やイベントを支援していく。また、高崎駅周辺地域の大型商業施設、文化施設、エリア内の商店街、ショップなどの連携による共同催事の開催やキャンペーン・広報活動を展開する。
4.アートインキュベーション事業や光のページェント、花路花通り、プライムなどのイベントとの連携を図っていく。などが示されている。
■めざすは北信越・北関東最大の「まちなか」に
高崎の集客力は、商業、観光、文化、情報など、若年層、ファミリー層、年輩・高齢者層をはじめ、高い来街者ニーズが展望されているが、現状は必ずしも十分な対応ができているとはいえない。北関東道全線開通・北陸新幹線金沢延伸を視野にいれたスマートICと高崎駅東口線沿線開発、また高崎市の新たな観光政策が動き出すのもこれからだ。高崎の集客力、観光・ビジネスによる交流人口の増加には大きな期待と可能性がある。
「高崎駅周辺を北信越・北関東最大の『まちなか』に」などと掲げると、大風呂敷のように感じられるかもしれないが、高崎の持つポテンシャル(潜在力)は、北信越、北関東の都市と比べても遜色はない。潜在力をかたちにするため、実行力を伴った都市戦略が強く求められてきている。高崎の高いポテンシャルとまちなかの現状との間に感じるギャップや危機感が、今回のエリアマネジメント協議会設立の背景にあるとも考えられる。
高崎では、規制や慣習等の影響で依然として古い事業形態が多いこと。また一方で、業態の確立していない新しいビジネスが多いことなども指摘されている。こうした新旧のはざまを埋める動きが「チーム・ハナハナ・ストリート」とも言える。
ハナハナの清水さんは「高崎を若者が集まるまちにしようとよく言われる。若者を集めようと考えるなら、角度を変えて若者が楽しめる企画が必要だ。このイベントはこの層のお客様を集めるというコンセプトをはっきり出したほうがいい」と、東二条通りを舞台にした事業を計画している。東二条通りの楽しさを創出することで、高崎駅とまちなかをつなぎ、レンガ通りや慈光通りと連動させて、まち全体の活性化につなげたいと考えている。菅家さんは「東二条通りが土日のイベントスペースになるよう考えていきたい。道路幅の問題も、高島屋駐車場に入庫されるお客様の利便性を考慮しながら取り組みたい」と言う。
エリアマネジメントは、都市戦略の一つであり、それ自体が集客活動、まちづくり創造活動でもある。高崎という都市を構成する個の集積やネットワークを掘り起こすことで、次のステージが見えてきそうだ。
(文責/菅田明則・新井重雄)
高崎商工会議所『商工たかさき』2009年12月号