取り戻せ!まちなかの“ファンタジー”

(2009年9月)

取り戻せ!まちなかの“ファンタジー”

高崎屋台通り事業が目指すもの

 

 11月下旬のオープンを目指している高崎屋台通り「恋文横丁プロジェクト」の概要が見えてきた。食を通して高崎のまちなかを元気にすることを目的として立ち上げられる屋台通りに寄せられる期待は大きい。


 「かつて田町界隈には毎晩のように夜店が出ていた」「まちなかに出かけるというだけで胸が高鳴った」というのは、もはや昔話のようだが、果たしてこの屋台通りプロジェクトは、そんなワクワクするような、賑っていた懐かしいまちなかを現代に蘇らせる力を秘めているのか!?


●何故、屋台通りなのか?

 帯広の「北の屋台」、福島の「こらんしょ横丁」、小樽の「れんが横丁」など、屋台を用いたまちなか活性化の事例が全国でいくつかの実績を上げている。


 そもそも屋台は常設化した飲食店ではなく、お祭りのようなイベントのときだけ作られる一時的なものであった。しかし今、その屋台が持つヒューマンサイズの魅力や開放的・自由といったポジティブなイメージを、地域の人々の活動の場であったり、来訪者とのコミュニケーション創出の場としてまちづくりにつなげていこうという動きが広がりつつある。


 地域の個性や独自性が発揮され、地域の人々にとって居心地の良い場所づくりが行われている屋台には、まちなかの集客装置としての可能性に注目が集まっている。更に、そこから生み出される食文化やまちなかとしての中心性が、新しい魅力となって外部に発信されようとしている。


●青年会議所での活動が出発点

 高崎屋台通り「恋文横丁プロジェクト」の中心となっている原寛さんは、平成19年に高崎青年会議所で「観光都市」をテーマとする委員会を担当した。その時に高崎出身で産業立地調査などを手がける本木陽一さんと出会い、「北の屋台」の成功事例を知る。


 倉渕の農産物を高崎の観光資源と捉えていた原さんと都心部と中山間地域の関係の中にビジネスとしての可能性があることを提唱していた本木さんの思惑が合致。先進地に学びながら高崎での屋台プロジェクトを進めていくことになった。


 その想いは、今年の「高崎花路花通り2009」で成功した駅前での屋台によって一層大きくなる。「まちなかに出て行く必然性があれば人は集まる」という確信を得たのである。


取り戻せ!まちなかの“ファンタジー”

 駅前の屋台を一緒に運営した高崎青年会議所の仲間を中心に、適した場所探しから始めた。いくつかの候補地から田町通りに面した約300坪の土地に決めた。現時点では人通りが多い場所ではないが、屋台通りそのものの集客力さえ備われば問題ないと考えている。それ以上にかつて一番賑っていた界隈であるという歴史的な背景が、原さん達の意欲を掻き立てる。


●地域活性のための新たな資金循環の仕組み構築に向けて

 今回のプロジェクトの特徴は、LLC(合同会社)とLLP(有限責任事業組合)の二つの組織を組み合わせているところにある。出資会社となるLLCには、企業や個人がお金を出し合う。それをLLPに出資する。LLPは事業の主体となって屋台通りを運営していく。


 これによって、お金を廻す仕組みと事業を廻す仕組みが分離され、出資者と運営者それぞれの役割が明確になる。


 また、本プロジェクトでは、地元金融機関に対して資金面のサポートを要請しており、手法等も含めて検討してもらっているところである。いくつかの形態が考えられ、もし、実現すれば地域金融とまちづくりの新たな関係が構築されると期待が集まる。


 LLPでは、屋台通りの店舗デザインの決定や出店者の募集からセレクト、PR活動やイベントの企画運営を行うことになる。現在、設計を担当する若手建築家集団のメジロスタジオと屋台通りのデザインを進めている。また、9月7日には出店希望者を集めて説明会が開催された。当日はおよそ120人が参加。この事業への注目の高さがうかがえた。今後は、PR活動やイベントを開催して話題づくりに力を入れていくという。


●上州・高崎にこだわった屋台事業/県内産食材の調達率50%へ

 “中山道”や“上州”といったキーワードへのこだわりもある。出店者には県内産食材の調達率50%を目指してもらう。運営側となるLLPでは、出店者と生産者との間で食材調達支援を行っていき、開業から一年後にはそれぞれのお店で調達率60%~70%にまで高めたいと考えている。


 農畜産物の生産者や食品加工業者のような食材提供者が、新規事業として出店することも予想されている。他の屋台通りの事例では、市民による郷土料理を提供するお店もあるそうだ。通常の飲食出店と異なり、屋台という敷居の低さ・手軽さが門戸を大きく開くことになっている。


 また、そこから生まれる高崎の食文化を発信していくこともLLPの大きな仕事となる。同じように食をテーマとして地域文化を発信している十勝、福島、勝沼などの先進地と連携したイベントなども検討している。


 何も起こらなければ、何も変わらないわけだが、この屋台通り事業は「まず事を起こす」という点で非常に楽しみである。


●飲食業のインキュベーション機能

取り戻せ!まちなかの“ファンタジー”

 屋台に出店するには、保証金や什器などの出店費用250~300万円と家賃が月々10万円掛かると想定されている。もちろんカウンター9席のみという条件もあって単純に比較はできないが、一般的な飲食店の開業費用と比べれば負担は少ないと言えるのではないだろうか。加えて3年ごとに契約更新ということになっている。


 そこで原さんたちは、ここで商売の感覚を養ってもらって、3年後にはまちなかで本格的な店舗で開業して欲しいと理想の形を思い描く。そのためのインキュベーションの場としての役目も担っていきたいということだ。


 既存店にはない新しい発想のお店を集めて、高崎のまちなかに賑わいを創出する場として、あるいはまちなかに遊びにいく必然性を生み出す場となるかどうか、期待が集まる事業である。


【地元商店主の声】

賑わいが生まれることに期待しています

ラ・メーゾン 米山誠郎さん 最初は新聞で知ったので驚きました。田町繁栄会として話し合いを行って、賑やかになることはこの地域にとっても良いことなので、協力しようということになりました。マナーのことなど課題もあると思いますが、是非、一緒にこの地域を盛り上げていって欲しいと期待しています。


高崎の名物料理づくりを共に進めましょう

メキシ小料理TIOTIA(ティオティア)松田和典さん まだ詳細が分からないのですが、街の賑わいや周辺の飲食店を含めた回遊性が生まれることに期待しています。ここ数年、飲食店組合でも高崎の名物料理づくりに取り組んでいるのですが、屋台通りでもそういった活動に参加していただけるとありがたいです。


〈LLCとLLPとは?〉

 起業に関する規制緩和、国際経済の流れの中で施行された会社法やLLP法。それによって設立が可能になったLLC(合同会社)とLLP(有限責任事業組合)のそれぞれの特徴は以下の通り。

●LLC:有限責任制、内部自治原則、法人課税、法人格あり、内部留保可、経済的二重課税(所得税と法人税の二重課税)

●LLP:有限責任制、内部自治原則、構成員課税、法人格なし、内部留保不可、パス・スルー課税(LLPには法人税がかからず出資者のみが所得税を払う構成員課税)

 内部自治とは、持ち株数によって発言力が決まる株式会社と異なり、出資額にとらわれず技術力や貢献度によって利益分配率を決めることができる仕組み。取締役会や株主総会が不要なので迅速な意思決定ができる。LLCとLLPによって、産学連携によるベンチャーや人的資産を活用するまちづくり分野、農業分野における起業がし易くなったといわれている。


(文責/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所『商工たかさき』2009年9月号

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