ご当地グルメ/高崎の名物料理づくりプロジェクト発進
(2009年6月)
高崎モツ は日本屈指の流通量 ご当地グルメといえば、宇都宮の“餃子”や富士宮の“やきそば”が有名である。県内でも太田の“上州太田焼そば”や前橋の“TONTONのまち”など名物料理を観光や集客の目玉にする動きが始まっている。高崎の名物はと聞かれると答えられるだろうか。名物料理はこれだと決めるものではなく、地元の市民が食べ、認知し、名物料理と答えられるように育て上げていくことが必要なのではないか。
高崎の名物料理をつくろうと、高崎うどんと豚モツを使った新メニューの試食会が4月14日に新保町のJAたかさきで開催された。主催は群馬県飲食業生活衛生同業組合、JAたかさき、JA高崎ハム(株)を中心に構成された「高崎市の名物をつくる会」。高崎市もバックアップしている。和洋中華にアレンジした新しい味の評判は上々で、いよいよ市内の飲食店への展開が始まった。
●大衆的でなじみ深いうどんとモツ
高崎ブランドの名物料理をつくろう
高崎の名物料理づくりの取り組みは、高崎市内の飲食店どこに行っても定番メニューとして置いてあり、看板に大きく掲げていけるようなかたちを最終的にめざしている。観光地に行くと、ロードサイドにご当地料理の案内や旗がずらっと並んでいるが、名物料理というからには、そのような段階にまでもっていきたい。
そこで地産地消や郷土料理を切り口にした名物料理として注目されたのが、高崎うどんと豚の白モツ。大衆的な味わいでなじみが深い。「おっきりこみ」は、素朴で身近な家庭料理。うどんは高崎の郷土料理の象徴的な存在だ。高崎地域で生産される豚モツの市場流通量が日本屈指であることを知った高崎市の座間愛知副市長が、話題づくりになると考えたのがそもそもの発端。「高崎市の名物をつくる会」が昨年秋に立ち上がり、飲食店団体の群馬県飲食業生活衛生同業組合、高崎うどんを提供するJAたかさき、モツを提供するJA高崎ハムを中心に活動が始まった。小麦の生産量全国有数の高崎が誇る小麦から作られた高崎うどんとモツの素朴な組み合わせは、高崎市民の生活実感を伴っている。名物郷土料理として、欧米文化のパスタとは角度を変えたアプローチができそうだ。
●うどんとモツを和洋中華にアレンジ
新メニューが試食会で高く評価
群馬県飲食業生活衛生同業組合では、以前から新メニュー開発に取り組み、毎年発表会を行っている。高崎うどんと豚モツを食材にした新メニューを県下の組合員に公募したところ、12店が手を上げ4月の試食会が実現した。
試食会の参加者200人の評価はきわめて高かった。回収したアンケートの評価は九割の人が「おいしい」と評価。JAたかさきの鎌田勝常務理事は「100人のうち90人がおいしいというのは、本当にすごいことだ」と反響に驚いた。
地場産の食材を使った新メニュー開発に力を注いでいる飲食業生活衛生同業組合高崎支部の桑原勝宏支部長は「これまでの6年間で100品以上の新メニューを考案したが、定番化にいたらず、単発に終わっている」と決め手を欠いてきたのも事実。創作料理の試みとしては良かったが、各飲食店への普及にはもう一歩だった。
同組合高崎支部では、昨年の全国都市緑化ぐんまフェア高崎会場で、豚しゃぶと高崎産の梅を組み合わせた地産地消メニューを来場者にふるまったところ大好評で手応えがあった。新メニュー開発事業に平行して、名物料理に取り組み、高崎えびす講でモツ煮を販売したところ、予想以上の売れゆきで完売。コラーゲンが含まれ美容に良いと若い女性層にも人気だった。イベントでの効果は実感できたが、一過性の心配は依然ぬぐえない。
そこで桑原支部長は「名物料理が普及すればまちの活性化につながる。市民が地域に目を向け、地元の飲食店を愛してもらえるきっかけが必要だ」と地元への広がりを第一の目標に置いている。JAたかさきの鎌田常務理事も「地産地消で安心安全な地元高崎のおいしさを知ってほしい」と農産物普及PRとあわせてこの動きに期待をしている。生産した農産物が地元の飲食店で提供されていれば、「うちの野菜が、このレストランの食材に使われている」と生産者のモチベーションにもつながる。学校給食と同様に、飲食店も毎日の配達ルートにのせることが可能だと考えている。飲食店の要望に応じた農産物を作付けすることもできるという。
●倉渕の満寿池にさっそく新メニュー登場
名物料理づくりは、商店街、飲食店、生産者の活性化につながる。創造的な事業に取り組むことで、可能性に挑戦し、後継者層のやる気を引き出している。自店のメニューとして、誰が最初の一歩を踏み出すかが大きなカギだ。
飲食業生活衛生同業組合高崎支部の会員は1千店。高崎は専門店が多く、一律に試食会の料理をメニューに加えるのは難しさがあると言う。桑原支部長は「モツやうどんを共通の食材として、全市的に取り組みたいが、各個店のイメージに沿って展開できるのか。お客様の評価を得るのに時間がかかるのではないか」と心配してる。「最終的にはお客様が選択するもの。メニューをそれぞれの店でアレンジしていけるような柔軟さ、広がりも必要だ」と指摘している。そうした中、飲食業の現場では、素早い展開が見られた。
新メニュー開発の試食会で紹介されたメニユーのうち、倉渕町の満寿池(阿久津聡代表)の「ファンシークリームJパスタ」が5月下旬から同店の新メニューとしてお店に登場している。
新メニュー開発の試食会では12品の料理が発表されたが、店のメニューとして登場しているのはここが初めて。阿久津さんは、モツは油抜きをする下ごしらえの手間はかかるが、店のお勧めメニューとして新登場させた。
「ファンシークリームJパスタ」は、ネーミングは洋風だが、かつおベースのクリームスープを煮込んだ汁をうどんにかけ、きのこや山菜をトッピングする。うどんは自家製の手打ちうどんを使用し、モツも倉渕の農場で育った「倉渕産もち豚の白モツ」を使用している。
スープを一口飲むと、かつおの味が口の中に広がり“さっぱり”とした味、クリームスープと聞いていたので“こってり”とした感じを想像していたが、きのこや山菜にもぴったりの和風うどんで食べやすい。6月からは市内の居酒屋でもメニューとして登場している。
JAたかさきの鎌田常務理事は、相互の協力で名物料理の知名度を高めようと考えている。「具体的な取り組みが本当にうれしい。JAたかさきに組合員は1万1千人。地産地消メニューの情報を組合員に紹介したい。初めから成功するわけではない、継続していくことが重要だ」と言う。まずは、市民がお店に行って名物料理を味わってもらうのが第一歩だ。桑原支部長は、なによりもその点を強調。「まちの飲食店で食べて評価してもらいたい。簡単に名物料理が生まれるとは考えていない。多くの市民に盛り上げてほしい」と話している。
●流通量は日本屈指・モツのルーツは高崎か
高崎うどんとモツを使った新名物料理づくりの中で、高崎産のモツ流通量が日本一という話題が出てきているが、それを明確に示す統計資料は、残念ながら見つからない。平成20年度の豚と畜数は、群馬県全体で70万頭、全国第7位。ところが、この数字だけで計れないのがモツ市場のおもしろいところだ。
群馬県食品安全局の長井章局長によれば、玉村町の「群馬県食肉卸売市場」のと畜能力は、一日あたり豚3、000頭で日本一の規模。高崎の食肉処理施設「高崎食肉センター」とあわせれば、地域全体の能力はきわめて高い。「モツは肉の副産物で統計には出てこないが、玉村と高崎食肉センターをあわせれば、高崎産のモツ流通量はおそらく日本一と推測できる。しかしはっきりと裏付けられないので日本屈指という表現がいいでしょう」と長井局長は言う。ブランド豚からブランドモツを取り分けることもできる。長井局長の知る限り、ブランドモツは上野村のイノブタがあるそうだ。
モツをホルモン焼きとして根付かせたのは、高崎の「金華亭」がさきがけ。高崎のモツ料理のルーツではないだろうか。こうした歴史をたどるのも興味深い。焼き肉店でハラミやピートロが人気となっているが、以前はあまり目が向けられていなかった。きっかけがあれば、話題に火が着く時代であり、高崎モツの可能性も楽しみだ。どこよりも早く声を上げれば、そこがご当地になる。モツとうどんの名物料理づくりを盛り上げていこう。
●これまでも様々な取り組みはしてきたが
食は観光の重要な要素。高崎市物産振興協会では「高崎名物と聞かれると答えられないという話は、もう何度も耳にしている。高崎は多様な文化が特徴。食や物産など名物、名産に幅と奥行きがあり、消費者がこれだと絞れないのだろう」と言う。同協会では、酒、食品、工芸品など高崎名物となる物産74点をパンフレツトやマップで紹介しており、個々の品目は、市民に馴染みの品が数多い。生産者や市民は、毎日のように目にしているので、名産、名物という意識が薄いのではないかと言う。「当たり前と思っていることが、県外からの来高者には高崎の大きな魅力になっている」ことも、同協会では数多く聞いている。「高崎は名物の原石だらけ。一つひとつに光を当て、プレスリリースすると意外な反響がある」と言う。宣伝にも悩む小規模な業者をサポートしながら、ヒットを放っていきたいと考えている。
高崎でうまいものを食べさせてくれる話題の飲食店はたくさんあるが、名物料理として、特定の料理を食べさせる店が軒を連ねるようなかたちではない。そこで高崎の食文化を盛り上げ、まちづくりや都市観光へ波及させようと、「パスタのまち高崎」のPRが数年来取り組まれてきた。市内パスタ店は40店を超える。『高崎パスタマップ』も年々改訂され、活用がはかられている。JR東日本が高崎市内のパスタ店で食事付きの切符を首都圏で発売したり、高崎パスタ弁当が県の物産市への初出展、コンビニ弁当として売り出されるなどのコラボレーションも、「パスタのまち高崎」戦略の成果と言えるだろう。現在のところ各パスタ店をネットワークするような組織はなく、個店のモチベーションと第三者のパスタサポーターや行政の取り組みに依存している。高崎ブランドとして、「パスタのまち高崎」づくりをもっと強力に進めてほしいという声も少なくない。
モツの流通を担う高崎
(株)エルマ(中泉町)のモツ取り扱量は県内屈指。牛モツは、県内のほぼ100%を同社が扱っている。品川富士雄常務は「モツの取扱高として高崎地域は日本一」と言う。「群馬県食肉卸売市場」と同社関連の「高崎食肉センター」をあわせ、年間60万頭の豚が処理されている。取り扱っているのは全て県内産。精肉はセリで価格が決まるが、モツは部位ごとの単価契約で取引されている。豚一頭あたりモツは約5キロで、年間生産量は3,000トン。
国内でも食文化が違い、西日本では牛モツが中心、東日本では豚モツが親しまれている。ホルモン焼と呼ばれるのは豚で、安くておいしい庶民の味方だ。焼き肉では豚、もつ鍋には牛が使われることも多いそうだ。牛モツが普及したのはソウル五輪以降。これから夏場にかけて、焼き肉でモツの需要も高い。一般に言う「焼き鳥」も鶏肉だけでなく、豚、牛のモツが食材として使用されている。
高崎の名物料理に期待の声
4月14日に「JAたかさき」で行われた新メニュー試食会には、各方面から取り組みへの意欲と期待の声が寄せられた。
JAたかさき・五十嵐邦義理事長
高崎うどんとモツを材料に、新しい多くのメニューを開発した。おいしいものをこれからも研究していきたい。
群馬県飲食業生活衛生同業組合・加藤隆理事長
地元の食材を使ったメニューで地域おこしに取り組んでいる。まちの飲食店はきめこまかい心くばり、あたたかなサービスが持ち味。お客様のご意見、アイデアをいただき、地域の活性化に貢献していきたい。
群馬県飲食業生活衛生同業組合青年部・松田 和典さん
青年部、女性部会を中心に新メニュー開発事業を行ってきた。原産地表示、カロリー表示なども飲食業に求められており、地産地消、地域の活性化、新しい食文化の創造をテーマに取り組んでいる。
高崎市・座間愛知副市長
高崎にはすばらしいものがたくさんある。高崎うどんの評価は高く、モツの流通量は日本一とも言われる。高崎うどんとモツを全国に発信し、高崎の地産地消を促進することは観光の目玉にもなる。
群馬県農業会議・田口佐知雄会長
地産地消は、昔からの伝統で地域の風土にあった料理。生産者と飲食店が連携を深め地域の活性化をはかるのは重要だ。
高崎商工会議所・金井功副会頭
高崎商工会議所も食を通じて高崎を元気にしていこうと考えている。高崎のおいしい名物料理を考えていく企画はたいへん参考になる。旨いものでまちを元気にしていきたい。
JA高崎ハム・宮崎俊郎専務
バラエティに富んだメニューはどれをとっても絶妙な味。話題性も十分期待できる。新しい名物を作ることは並大抵なことではないが、夢があって楽しい。高崎ならではの名物メニューを作っていきたい。
(文:菅田明則・新井重雄)