延長合戦から一転、営業時間短縮へ
(2009年5月)
まちなかの風向きを見る高崎ビブレが営業時間を変更し短縮に踏み切った。このビブレの動きは、高崎の商業環境を予兆する出来事で、興味深い背景を持っている。不況による消費の冷え込みも大きな要因として横たわるだろうが、高崎駅前の再開発でまちは変わり、直接的・間接的な影響で商店街の風向きを少しずつ変えている。順風もあり逆風もあり、風の流れを調べてみたい。
●営業時間短縮が接客密度を高める
日本百貨店協会がまとめた平成21年3月度の売上総額は、5,730億円(全国87社277店舗)前年同月比△13.1%、13カ月連続で前年比マイナスを記録した。平成20年度の売上総額は、7兆1、741億円で前年度比△6.8%。「失われた10年」と言われた平成不況以来の最低水準となった。
これまで営業時間の延長合戦を繰り広げてきた百貨店やスーパーが短縮へと方向転換を始めた。都内を中心に百貨店では今春以降、営業時間短縮が始まっている。経費節減、効率的な人員配置など消費不況下での生き残りと環境負荷軽減をねらい、営業時間短縮は新たなトレンドとなる可能性も持っている。
この風をとらえ高崎で最初に営業時間短縮に踏み切ったのが高崎ビブレだ。2月2日から平日の開店時間を一時間遅らせて午前11時に、閉店時間を一時間早めて午後8時にした。マイカル本社の方針ではなく、高崎店独自の判断で実施した。
営業時間を短縮すれば、光熱費・人件費など経費は減るが売上の減少も覚悟しなければならない。しかし、高崎ビブレの鯉渕昇店長は「経費節減以外にも効果は大きい」と言う。
これまでの営業時間では、スタッフを早番・遅番の二交替制にしなければならなかった。出店テナントも、せっかく商品知識を持ったスタッフが二人いても、昼夜交替してしまうので常時売場にいるのは一人になり、接客密度が下がってしまう。交替勤務の必要が無くなればスタッフの配置が厚くなるので、接客ロスを防ぎ、売り上げ減少を補うことができる。鯉渕店長は「時間当たりの売上を今までの120%程度まで伸ばさないと追いつかない」と考えている。
店長からの伝達やスタッフ間のコミュニケーションも「スピーディで円滑になる」と鯉渕店長は期待している。エネルギーや資源を節減するエコ効果も検証中で、見込み以上の成果が上がりそうだ。
付加価値の高い商品を扱い接客を重視する業態では、人材をフル活用できる効果は大きい。店が扱う商品にあわせたスタッフの活用・確保、接客密度を高めてビジネスチャンスを逃さない体制づくりが、営業時間短縮のねらいの一つでもあり、こうした考え方は、商店街にも影響していくだろう。
ライフワークバランスとCO2削減で、ヤマダ電機は元旦を休日にする方針をとり営業時間拡大の流れに一石を投じた。スズラン高崎店の渋澤彰一店長は「無休の流れで水曜定休を見直したが、店休日は全館のメンテナンスのためにも必要。年間6日程度を計画している。お客様は年中無休の意識が強く、店休日にはせっかく出かけたのになんで休みなんだとお叱りを受ける」と話す。
●深夜営業は消費者のニーズか
閉店時間の繰り下げ、定休日の実質上の廃止など、営業時間はとにかく拡大の方向で進んできた。年中無休、大晦日、元旦も営業という潮目が変わりつつあるが、スーパーでは深夜帯でのしのぎあいは激しい。
平成12年の大規模小売店舗法(大店法)廃止と、それに替わる大規模小売店舗立地法(大店立地法)施行で営業時間が緩和され、午後8時以降の営業が制限されていた大型店が、一斉に深夜営業に踏み切った。当時、売上伸び悩みの打開策の一つとして、コンビニが独占していた深夜市場に乗り込んだ。延長、延長でショッピングモールやスーパーは早朝から午前0時過ぎまで営業しているのが当たり前となり、24時間営業のスーパーも出現した。
スーパーもコンビニに負けず、ライフスタイルの変化に対応し、夜遅くまで活動する人達に便利な存在になった。営業時間の拡大は、スーパーの売上増、収益増につながっているように思えるが、深夜営業が始まってからも総体的にはスーパーの売り上げは減少している。日本チェーンストア協会のまとめでは、平成8年度をピークに売上高は下がり始め、深夜営業が本格化した平成12年以降も売上回復には至っていない。
今年3月度の売上は1兆467億円(全国スーパー70社8,056店)で前年同月比△4%、平成20年度の販売総額は13兆1,703億円で、前年度比△5%、前年度からの落ち込み幅は近年で最も大きい。
本誌3月号でも取り上げたが、ベルクの向かいにヤオコーが出店するなど、高崎市内のスーパーは、新規出店と淘汰が進行し、エリア戦略が非常に激しくなっている。スーパーと美容室、ドラッグストア、ブックストア、雑貨、衣料など複合化も進む。
高崎市内の閉店時間は午後10時から午前0時の時間帯が多い。深夜2時まで営業しているベルク飯塚店、深夜1時までの同江木店では、立地に恵まれ深夜まで収益性のある時間帯だと言う。イケイケムードに見えた営業時間拡大も、当初から売上とコストの問題をはらんでいた。収益性が悪くても、他社との競合で、深夜市場から撤退できない事情もあるのかも知れない。
●高崎駅への集中が進行/大手前・慈光通りで歩行者通行量が激減
平成20年度中心市街地通行量調査(平成20年10月26日実施)の結果では、19万886人。平成18年の前回調査よりも9千500人(5%)減少した。
通行量が多いのは高崎駅周辺。西口コンコース3万4,436人、東口コンコース3万3,372人。高崎駅コンコースが全体の35.6%を占める。高島屋東入口前9,998人、ホテルメトロポリタン入口前7,420人、ビブレ西入口前6,514人、ファミリーマート駅西口店前5,740人。通行量は高崎駅からビブレ・高島屋周辺に集中し全体構成比の64%を占めている。
調査地点42カ所のうち、前回を上回ったのが17地点。東一条通り・丹下写真館前が956人で48%増、さくら橋通り・鞘町ビル前が2,766人で33%増、西口線・高崎シンフォニーP前1,488人で25%増、みずほ銀行前1,296人で23%増。
最も減少したのは、連雀町大手前通り・横浜銀行前3、788人で32.4%減少、慈光通り・安国寺入り口前3,022人で31.2%減少。駅東口ペデデッキの影響等もあり高崎タワー21前が2,544人で34.5%減となった。
中心市街地で歩行者通行量が多いのは、高崎駅西口からビブレ・高島屋など、現在、拡幅が進んでいる東二条線までの地域。大手前・慈光通りは、中心商店街の二つの商業核である高島屋とスズラン、中心市街地の東西を結ぶ動脈として機能してきた。他の路線に比べて通行量は多いが、安国寺前、横浜銀行前が最下落ポイントになった。大手前の新星堂閉店も影響している。西一条通りなど西口界隈に歩行者が分散し、昨年の緑化フェア以降、高崎駅西口線に歩行者動線が移動するなどの傾向も見られている。
前回よりも駅西側コンコースは2,300人、東側は3,000人、日本通運前でも1,100人増加し、高崎駅東西の集客力が高まっている。前回調査では、通行量全体の中で高崎駅コンコースが占める割合が31.1%で、今回は35.6%に上昇。高崎駅周辺が全体に占める割合は前回60%だったの対し、今回は64%に上昇している。
●東二条線が海峡に、拡幅が回遊を阻害か
東二条通りを境界に、駅西口から高島屋の増加と、大手前・慈光通りの減少地点がはっきり分かれた。大手前・慈光通りは厳しい風向きとなった。東二条線の道路拡幅で回遊性が低下しているのではないかと心配される。歩行者の動線に影響を与えていると考えられるのが、西口周辺の大型駐車場の配置。高島屋の北側に集中しており、東二条線が拡幅されてこのエリアの駐車が便利になっている。駅西口ブロックでは、その対角線にあるビブレ西口、タカレイパーク入り口、ファミリーマート前が20%近く減少している。ビブレの鯉渕店長は「群馬はやはりクルマ社会。利便性の戦いとなっている。高崎はまちの密度が高い一方、駐車場、駐車料金、道路拡幅は集客力に影響している」と指摘している。
高崎市では、高崎駅を中心としたまちのにぎわいを、中心商店街に波及させる考えだが、高崎駅周辺のにぎわいという面では成功しているが、回遊性を高めるには至っていない。高崎駅から中心商店街への誘導が低下している。高崎駅東口の改修が終われば、さらに高崎駅への囲い込みが進んでしまう恐れもある。
東二条線は高崎市の都心環状線の一部で、中心市街地の幹線。円滑な市街地交通を促すものだが、交通量が増えれば増えるほど、道路による分断意識は強くなる。東二条線のビブレ西、長谷川ホテル、高島屋西までの区間が本当に四車線必要なのか。思い切って二車線にし、歩道を広げて西口線から連続した“花路花通り”にして回遊性を高めてはどうだろうか。慈光通り、れんが通りと連続性を持たせた街区として見直す必要があるだろう。
ビブレの鯉渕店長は「高崎はファッション感覚が良くて、反応が早い」とブランド戦略に手応えを感じている。高崎駅界隈のファッション街の集積はクオリティが高い。まちを歩く若者がファッションを競いあう舞台として東二条線を演出するのも重要ではないだろうか。
●大型店と商店街がコラボ
「にぎわいづくりに汗をかこう」
中心市街地活性化事業として注目されているスズラン高崎店の増床は、立体駐車場整備㈱の倒産の影響で時間がかかるようだ。増床予定地の駐車場に面した通り「さやもーる」の委員長友光勇一さんは「まちの中から声を上げていかないと、商店街の存在を忘れられてしまう」とにぎわいづくりに取り組んでいる。4月の「商都フェスティバル」の責任者として知恵を絞った。
中心市街地の20カ所を回るウォークラリーもその一つ。来街者から、さやもーるを「スズランの裏通り」と言われた時は、友光さんはちょっとショックだったと言う。一方、チェックポイントの一つとなっていたスズランを知らない参加者が何人かいたことは、渋澤店長を始め、店の幹部を苦笑させた。スズランもさやもーるも知らない人達がいるのは、商業者にとっては「えっ」と思わせる出来事だろう。来街者の風が変わっている。そうした人達を開拓して、まちなかを歩かせたのは、今回の商都フェスティバルの功績と考えてもいい。スズランの渋澤店長は、まちのにぎわいづくりのために今回の商都フェスティバルで、初めて路面テントを出店。屋上を市民に開放し、遊具や屋上緑化を楽しんでもらった。「商店街といっしょにがんばっていきたい」と商店街の活性化に強い意欲を持っている。「商店街ももっと前に出てきてほしい」と言う。スズラン、高島屋ともにまちなかのにぎわいづくりに積極的な姿勢を示しており、商店街と大型店が一体となった新しい取り組みも期待されている。
友光さんは「あと五、六年が勝負。まちなかの栄枯盛衰を肌で感じている。このまちが好きだからという理由しか思いつかないが、元気な高崎のためにがんばっていきたい」と言う。
(文:菅田明則・新井重雄)