高崎新風土記「私の心の風景」
79. あぜ道の紅い花
吉永哲郎
お彼岸を過ぎる頃になりますと、あぜ道に紅い花が群がって咲いているのが、目につきます。ヒガンバナですが、人々はこの花を単に野に咲く花として受けとめてはいませんでした。この花はイタドリとともに日本の草木の中で最も多い言い方をもっています。この花の葉の形からキツネノカミソリ、茎を細かく折って数珠にして遊ぶことからジュズバナ、墓地近くに咲くことからジャランボグサ・ヂゴクバナ・シレイグサなどと呼称されています。
これは生活と密接であったことを表しています。比較的寂しい気味悪いところに咲くことが多いので、一般には好まれない花として扱われていますが、最近はヒガンバナの中にも園芸品種ネリネのように「ダイヤモンド・リリー」の名で親しまれている花もあるようです。
ヒガンバナはミョウガ・オニユリと同様に、最も古く中国大陸から渡来したものの一つで、クワイと同じに球根を食していた焼畑農業とのかかわりをもち、球根は救荒作物(飢饉の時の非常食)として飢えを救った近世の歴史があります。また球根には強い毒性があるので、ネズミやモグラ除けとして田畑のへりや墓地付近に人々は植えました。
ヒガンバナの背景には、名もなき人々の暮らしの歴史が秘められていることを、強く感じます。ヒガンバナにはもうひとつ、親しまれた呼称「曼珠沙華」があります。梵天・帝釈天が仏の説法をたたえる時、天から降りてきた四つの花の一つ紅蓮華(ぐれんげ)のことをいいます。宗教的厳かな響きをもった花です。秋の野道の散歩、紅い花を愛でながら、いかが。
(高崎商工会議所『商工たかさき』2010年10月号)
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