映画のある風景
映画が生まれるまち・たかさき
志尾 睦子
先日、高崎シティギャラリーの展示室で「高崎フィルム・コミッション」支援作品展が行われたので出かけて来た。フィルム・コミッション(FC)とは映画などの撮影場所の誘致や撮影支援をする公的機関のことで、高崎市観光課が請け負う高崎FCは今年で設立10周年。テレビドラマやCM、ミュージッククリップなども含めこれまで約560作品を支援して来たといい、映画に関しては有名どころが軒並み並んでいる。
全国的に見ても、市町村別の機関としては、高崎FCの支援数は全国一を誇り、高崎は映画業界の中でもかなり評判が高い。小規模から大規模作品に渡るまで幅広く利用されるのは、実はなかなかないらしい。高崎という立地と何よりFC職員のきめ細かな対応、市民の協力が映像業界では非常に買われているのだ。
アメリカで生まれたフィルム・コミッションの形態が日本に入って来たのが2000年頃、その後2、3年のうちに全国各地にフィルム・コミッションが設立されるのだが高崎は草分け的存在でもあった。
その象徴となる作品が『半落ち』(2000年/佐々部清監督)。元上毛新聞社の記者である横山秀夫さんの小説という事も地元での撮影の一助になったかもしれないが、日本の三大映画会社の一つである東映作品を設立間もない高崎フィルム・コミッションが請け負うというのは実はすごいことだった。この成功が業界中へ高崎FCの名を轟かせたと言っても過言ではないのだ。
当時はまだどこのFCも手探り状態だったわけで、製作側の要望と地域の撮影との仲介をする立場というのは本当に大変だったに違いない。以前、高崎映画祭でお越しいただいた佐々部監督に当時の事を聞いた時「市役所が全面協力でやってくれるなんて、驚いたよ」とおっしゃっていたのが印象的だった。
どういう事かと言えば、『半落ち』に出て来る県警の撮影地は高崎市役所で、役所内の至る所で撮影がされた。そしてメインとなる県警捜査一課に扮したのが13階の商業観光課なのである。つまり映画のためにはまずは自分たちが一肌脱ぎましょうという姿勢が、あの映画の成功を導いたということになる。
映画の撮影というのは想像以上に時間と手間がかかる。数分のシーンに丸一日かかるのは当たり前だ。大手作品ともなれば撮影隊の人数は相当数にものぼるので、控え室から食事の準備も一苦労。そんな労苦を自ら買ってでた高崎FCの潔さと高崎市の理解があって、今日の映画の街・たかさきが作られているのだ。
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