大型書店出店の裏事情を探る
(2010年6月)
高崎ビブレに50万冊の大型書店が出現!
減少する出版販売額/その一方で売り場面積は拡大傾向
書店は、景気が低迷する昨今、売上が伸び悩んでいる業種。価格競争ができない上に粗利も少なく、利益をあげるためにはたくさん本を売らなくてはならない。しかし、書籍は消費者の買い控えの影響を真っ先に受け、平成21年、国内出版物の推定販売額(書籍、雑誌合計)は、1兆9,356億円。ピークであった平成8年の2兆6,563億円から約3割減。
電子書籍、ゲーム、動画、インターネットが楽しめる端末「iPad」に象徴される電子出版の登場や急速な「活字離れ」、特に文庫本などの雑誌以外の書籍離れが進んでいる。趣味趣向の多様化やインターネット・携帯端末の普及と進化が、さらに本の販売数の落込みを助長している。しかし、全国的に大型書店の出店が相次ぎ、書店の売場面積は増大している。
高崎駅周辺でも東口には「LABI1高崎」、駅構内コンコースには「くまざわ書店高崎店」、西口・高崎駅ビルモントレーには「改造社書店」があるにも関わらず、5月28日には、高崎ビブレ内の「ジュンク堂書店」が増床で新店舗をオープンした。若い女性が出入りする高崎ビブレの上層階にある書店へスーツを着たサラリーマン男性は出入りしにくいのではないか。一体どうして出店したのだろうか?高崎の書店事情を探ってみた。
高崎・前橋は全国有数の大型書店の激戦区!
近年群馬に出店した書店の特徴は、売り場面積が大きいこと。高崎でも同様だ。くまざわ書店高崎店(平成17年オープン。高崎駅東側コンコース内)は約150坪、紀伊國屋書店前橋店(平成19年3月オープン。けやきウォーク前橋内)は約970坪、ブックマンズアカデミー高崎店(平成20年11月オープン。ウニクス高崎内)は約500坪。
書店業界は、従来の大型書店対中小地元書店の図式から、大型書店同士の競争時代になった。書店が大型化するのは、書籍の「多品種少量生産化」にある。書籍の新刊点数は発行部数の減少を補完するように増加傾向にある。大量の品をそろえるには、書店の床面積を増やすしかないのだ。また、大型商業施設のテナント料の下落や大型SCの増加が書店の大型化を後押ししている。
高崎、前橋地域は全国でも有数の書店売場面積上位地域で、2008年10月の出版業界専門誌によると、「書店における市町村別 売場面積上位地域」の全国第11位が前橋、第13位が高崎である。ちなみに、前橋は書店数が43店で売場面積が 7,358坪、高崎は49店で6,745坪となっている。おそらくこの数字には、「LABI1」の書籍売場と今回の「ジュンク堂書店」の高崎ビブレ出店が含まれていないので、高崎の大型書店の売場面積は前橋を超え、全国ランキングを上げていると思われる。
書店は客を引きつけるマグネットの役割がある
5月28日に高崎ビブレ6、7階にオープンした「ジュンク堂書店高崎店」の店舗面積は、約620坪(写真)。紀伊國屋書店前橋店より売場面積は少ないが、音楽CDや文具などは扱わず書籍販売のみ、書籍数50万冊は県内一。これまで6階に系列店の「COMICSJUNKUDO高崎店」が出店していたが、店舗拡張を機会に、総合書店としてリニューアルオープンした。個人書店では扱わないような専門書が充実しているのが特徴。お客様の質問にも即座に対応できるよう、社員教育にも力を入れている。
県内だけでなく、埼玉北部からの来店も視野に入れ売上目標は3,000~4,000万円/月。高崎ビブレには5階に、「遊べる本屋」をキーワードに、書籍、雑貨、CDなどを各店舗独自のテーマで商品を選び販売する書店「ヴィレッジヴァンガード」もあるが、業態が違うので、ライバル視はしていない。
高崎ビブレ営業企画課長の高野陽一さんは、ジュンク堂書店の入居理由を「アパレル業界の著しい落ち込みと商圏の拡大を目指すために書店に出店してほしかった」と語る。
平成18年にイオン高崎、けやきウォークが相次いでオープンし、高崎の中心市街地の大型店は大きな影響を受けた。また長く続く景気の低迷、消費者の買え控えやニーズの変化もあり、来客数と売上の減少に歯止めがかからず、現在に至っている。
高崎ビブレの平成21年3月から平成22年2月までの09年度売上高は前年比90%。テコ入れが必要になった。高崎ビブレで考えたのは、これまで16歳から22歳の女性が大半をしめていた客層の幅を男性客まで広げることと、来客の店舗内での滞留時間を増やすこと。両方の条件を満たすのが書店であったという。
書店は眺めるだけでも店にいられ、気兼ねなく時間をつぶせる場所。上層階に書店を設ければ、書店に来ることを目的に来店した客が途中でほかの売り場を眺め、「ついでに」購入することが多くなる。俗にこれを「シャワー効果」という。デパートや複合商業施設はこれを狙い、書店を自社の施設に誘致することが多い。書店は性別や年齢を問わず客を引きつけるマグネットのような役割をしているのだ。
そのため、書店はデパートやショッピングセンターにとって、新たな客層を容易に店へ引き込むことができる。しかも書店を1店誘致するだけで広い空きスペースが埋まり、安定した家賃が入るありがたい業種なのだ。
一方、ジュンク堂書店では「COMICSJUNKUDO高崎店」で若者向けのマニアックな漫画を販売していたが、売り上げが芳しくなかった。高崎では、専門書も揃った総合店の業態が良いと思い直していたところだったので「ビブレさんから総合店の話をいただいたのは絶好のタイミングでした」とジュンク堂書店高崎店店長の江原正和さん。
高崎ビブレ以外の大型商業施設に大型書店が出店している理由も同じようだ。大型商業施設と大型書店の利害関係が合致した結果が、現在の書店の売場面積の拡大をもたらしているともいえる。
個人書店だからできる顔の見える顧客サービス
大型書店の多くは多店舗化し企業規模も大きく、たくさんの書籍を店内に確保できる。大型書店の進出は、地域の中小書店や個人書店の経営を脅かし売上の減少を招く。このような状況を、地域の書店はどのように考えているのか聞いてみた。
中居町にある絵本や童話を扱う書店「本の家」は、お店に置ける書籍の数に限りがあるために、店主が選んだ書籍が並び個性を出している。「子どもたちのために、良い本だけを推薦する」というスタンスは創業以来変わらない。個人店舗だからこそ「いつ、どんな風に、どんな読み方で、母親は子どもに読み聞かせをしてあげたらよいのか」などの本の読み方などの情報をお客さんに伝えることができるという。
高崎の老舗書店である天華堂書店の大沢孝輝社長は「仕入れるときは、お客様の顔が浮かんでいる」と語る。同店は、地域を代表する書店ならではの品揃えをと、群馬県に関する書籍、群馬で出版された本を多く仕入れている。「ここに来れば、あの本がある」と噂を聞きつけ店を訪ねる客も多い。対面の接客で得た顔なじみの消費者のニーズを察知、仕入れに反映させている。また、無料配達も行っているので、美容室や病院をはじめとした固定客がついている。配達することで顧客の趣味やニーズが把握でき、雑誌や新刊本の紹介をしている。
多くの出版物が発行され、インターネットやマスメディアからも大量な情報が発信されている中で、顧客に合った情報を選んであげることも個人書店でしかできない強みである。
出版業界は再販売価格維持制度(※解説)が適用され、どの書店に行っても同じ書籍は同じ価格で販売されている。この再販制度は書店経営にとって弱点でもあるが、強みでもある。つまり、中小零細の書店にもチャンスがあるということ。本の価格は一緒なのだから、自店のオリジナリティやコンシエルジュとしての役割を果たすことができれば、地域に密着した書店として存続できる可能性は高い。
本屋さんが街や地域の文化をつくる
2001年には約21,000店あった書店が、2006年には約15,500店に減少している。また、日本書店連盟加盟の書店数は、96年には1万店を超えていたが、2008年には5,600店と半分近くまで減少。「街の本屋さん」が消え、駅を中心とした都心部や郊外の大型書店のみが生き残っている。
また、当たり前のようになったコンビニでの雑誌や文庫本の販売。コンビニで販売されている雑誌は、日本で出版される雑誌のほんの一部に過ぎないのであるが、コンビニが販売しない雑誌は販売部数が伸びない現状がある。
さらに、大手取次店が大型書店を囲い込むため、出店物件の斡旋やさまざまな優遇措置で出店を促している。大型書店の競争ではなく、その裏には大手取次店のシェア競争が見えてくる。加えて出版物を印刷する大手印刷会社も大型書店との提携が大型書店競争時代に拍車をかけている。2009年3月大日本印刷は、高崎ビブレに出店したジュンク堂書店の株式の51%を取得し資本提携。書籍販売大手の丸善も大日本印刷の子会社となっている。
電子出版元年と言われる2010年に、ジュンク堂書店が出店したことは象徴的な出来事であるといえる。今後は電子出版と大型書店のコラボレーションが展開され、ますます大型書店の競争が激しくなることが予測される。大型書店の競争時代が新しい出版文化や消費構造をつくっていくことになるだろう。
かつて街の本屋さんは「その街の文化のバロメーター」だと言われた。街の書店が消えていくとは、街や地域の文化が消えていくことに繋がりかねない。街の本屋さんには、地域の人への本の配達やガイド、読書サークルや読み聞かせ会の開催など、地道な活動と積極的な情報発信をして、街の文化や読書文化を育てていってもらいたい。それがまた、中小書店の生き残る道ではないだろうか。
解説:本の流通のしくみと書籍の再販制度
日本の書籍は、大半が、出版社→取次(問屋)→ 書店というルートで流通する。これを確立させているのが、委託制と再販制度だ。
再販制度(再販売価格維持制度)とは、メーカーである出版社が、取次や書店などでの販売価格を決める制度。一般に資本主義経済の下では、商品の取引は、自由であることが原則で、メーカーが定価販売を義務づけることができないが、本や新聞などは、文化的価値を社会的に平等に享受できるように、独占禁止法の適用が除外(独禁法第23条)されている。
再販制度がなくなると、出版社や書店の倒産が増加すると言われている。初版部数の減少から、本の定価が上昇する。出版点数が激減し、本が供給できなくなる。必要な本が書店に並ばなくなるなど、読者(消費者)の不利益につながると出版界は主張している。
再販制度が実施されていると、一部の出版社を除き、一定期間内の返品が可能になる。返品できるため本を在庫として抱えないで済む。
様々な業態の書店
■絵本と童話・本の家
~育児に関する本屋情報が集まる場所~
児童書、絵本だけを扱っている書店。店舗面積約17坪。読み聞かせを通し、親子の関わりを考える「ぴよぴよの会」、大規模な絵本原画展を開催し、絵本の魅力をPRする「NPO法人時をつむぐ会」を主宰している。
高崎市中居町4-31-17
TEL.027-352-0006
■天華堂書店
~群馬の、高崎の歴史が分かる老舗書店~
中央銀座アーケード街の中に位置する。店舗面積60坪。代表取締役の大澤孝輝さんは、群馬県書籍商業組合会長を務める。デジタル化する出版界が従来からの書店の存続を危惧しているが、立ち読みといわれる中身を眺めながら本を選べる本のよさをこれからもPRしてゆきたいと前向き。群馬の地元関連の書籍も多数あり。
高崎市寄合町31
TEL.027-325-2311
(文責/菅田明則・新井重雄)
高崎商工会議所『商工たかさき』2010年6月号