スポーツで高崎の知名度アップ

(2010年1月)

 都市や地域の知名度、ブランド力など都市間競争が話題になると、県外における群馬県や高崎市のイメージが気になるところだ。「群馬ってどこ?」、「高崎って何が有名?」などと言われると、そこに住むものとしてはいささかショックを隠せない。これまで、本誌でも地域のブランド力を特集し、高崎ブランドを全国に発信しようと呼びかけてきた。今回は、群馬・高崎の広告塔となり、全国を駆け回るアスリートに注目し、知名度アップ効果や集客力について考えていく。


スポーツで高崎の知名度アップ

群馬ダイヤモンドペガサス

●群馬を背負って四国まで

 プロ野球独立リーグBCリーグに参加2年目にして、リーグ総合優勝を果たした群馬ダイヤモンドペガサス。昨年10月には、日本一のグランドチャンピオンをかけて、四国・九州アイランドリーグ優勝の高知ファイティングドッグスと戦い、二勝三敗で惜しくも敗れた。このグランドチャンピオンシップでは、地元の群馬で二敗しながら高知球場に乗り込んで二連勝しファンを熱くさせた。四国の地元紙でも連日詳しく報じられ、群馬を四国の野球ファンに印象づけた。ペガサスの移動バスには漫画家あだち充さんが描いたイラストが大きく描かれ、その前で記念撮影する同地のファンも多かったという。


 BCリーグでは、各球団年間72試合で、ホームゲームと対戦地でのビジターゲームそれぞれ36試合が行われる。ビジターゲームでは、ペガサスバスに乗って上信越・北陸を転戦する。ホームゲームでは、ビジターチームの応援団が、新潟、長野、富山、石川、福井から群馬にやってくる。群馬ダイヤモンドペガサスの試合そのものが群馬の観光キャンペーンにつながっていると言えよう。


●観客動員は今後の課題

 チーム創設の年にブロック優勝、昨年はグランドチャンピオンシップ出場と、秦真司監督率いる我らが群馬ダイヤモンドペガサスは着実に力を付けて来た。BCリーグベストナインのうち、四人がペガサスから選ばれている。


 しかし、好調な戦績とは裏腹に、ホームゲームでの観客動員ではリーグ下位で、最も動員した新潟アルビレックスの約半分でしかない。群馬に限らず、観客動員数は開催球場の要素も多分にある。新潟市の「HARD OFF ECOスタジアム」(3万人収容)では、最高1万5千人で、各ゲーム6千人から8千人が観戦している。各球団試合会場としては、信濃には「長野オリンピックスタジアム」(3万人収容)、富山には「アルペンスタジアム」(3万人収容)がある。全てのホームゲームをここで開催するわけではないが、球場としても魅力があり、交通アクセスも含め集客の大きな要因にもなっている。2万人級は群馬の敷島球場、石川県立球場。高崎の城南球場は1万2千人。


 群馬ダイヤモンドペガサスは、県下全域を網羅するようにホームゲームを開催しているが、やはり動員数が多いのは敷島球場と城南球場だ。9月22日、城南球場で行なわれた最終戦では観客3千人と開幕戦に次ぐ動員となった。来シーズンは、球団発祥の地・高崎のファンに城南球場でペガサスの試合を楽しんでもらおうと、ホームゲーム36試合のうち10試合を城南球場で行えるよう日程調整を行っている。城南球場での試合が増えることで、ビジターチームの応援団も高崎市街地を訪れる機会も増える。ただ城南球場は、照明設備の能力が低く、プロのナイトゲームは開催することができないので、現在のところデイゲームに限られるそうだ。


●地域貢献もチーム活動の柱

 単に強ければいいというだけではなく、球団フロントと秦監督ともに、野球を通じた地域貢献を大きな柱にしており、子ども達に夢を与える選手達への規律も厳しい。地域活動・イベントにも参加し、市民にふれあう機会を積極的に増やしている。ペガサス野球教室や夏休みの小中学生無料招待など、野球に関連した事業はもとより、リサイクルなど環境活動を実施し、地域の青少年育成行事にも監督・選手が幅広く参加している。


スポーツで高崎の知名度アップ

 リーグ参戦二年目で「ようやく知られるようになった。ペガサスもBCリーグ自体もまだまだPR不足」と球団はとらえている。今季は、きめ細かいスポンサー協賛として、全県にサポートショップ1,000店の展開を計画している。「半分の500店は高崎で展開したい」と市民の力に期待している。お店や企業の状況にあわせて、ペガサスの応援やPRをお願いするもので、小さな力を大きく結集するのがねらい。サポートショップには、月々の会報を球団スタッフが手配りし、心が通う応援団を足で作っていく考えだ。球団では、高崎市の人口の1%にあたる3,700人を後援会員の目標に掲げたいと考えている。


 城南球場で試合がある日に、ペガサスのフラッグがまちなかを飾るのも一つの夢の姿だが、ビジターチームの応援団だけでなく、高崎のまちを訪れた来街者にも楽しい雰囲気を提供することができるのではないだろうか。群響がそうであるように、プロの球団が存在する都市は数えるしかない。ペガサスを高崎の都市装置として、もっと機能させることが高崎の活性化にもつながるだろう。


スポーツで高崎の知名度アップ

 秦監督は「第一に独立リーグ日本一へ挑戦。今年は読売ジャイアンツ二軍とも2年ぶりの対戦が予定されており、選手個々のアピールとチームとしても勝利したい。またNPBからのドラフト指名も達成したいと考えています。まず後援会3千人を目標にし、ファン獲得数も一位を目指したいです。スピードと躍動感のあるゲームを展開し、群馬で初のアマチュア野球との共演試合を行いたいと思います」と来季の抱負を力強く語っている。ペガサスが大きく羽ばたけば、群馬、高崎の名もその風に乗り全国に運ばれていく。


高崎市役所ソフトボール部

●男女とも日本一、ソフトボールのまち高崎

 オリンピックイヤーの平成20年は悲願の金メダルを獲得した女子ソフトボールチームの健闘が大きな感動を呼び、その話題が全国を席巻した。日本代表チームの主力はルネサス高崎、太陽誘電の在高実業団チームに所属し、高崎には世界ナンバーワンのソフトボール選手がいる。


 平成20年9月に行われた凱旋パレードには、ルネサス高崎の三科真澄(内野手)、上野由岐子(投手)、乾絵美(捕手)、峰幸代(捕手)選手、太陽誘電の坂井寛子(投手)、廣瀬芽(内野手)選手がオープンカーに分乗し、高崎駅西口から高崎市役所まで、沿道の市民の声援にこたえた。


 一昨年はオリンピックに加え、高崎市役所ソフトボール部が全日本総合男子選手権大会で優勝、ルネサス高崎が全日本総合女子選手権大会と日本女子1部リーグで優勝、安中市だが新島学園中等部が全国優勝を果たした。昨年夏は、日本代表としてカナダで行われた世界男子選手権大会に高崎市役所の原田泰光選手、チェコで開催されたユースソフトボールワールドカップに高崎健康福祉大学高崎高校の森山幸世選手が選ばれている。原田選手は日本代表の四番打者を務めた。日本の四番が高崎にいることはほとんど知られていないが、高崎市役所ソフトボール部の熊井信也監督は「ソフトボール界では高崎は有名」だと言う。


スポーツで高崎の知名度アップ

●最高の恩返しは「結果」

 「最初は全国大会に出場できるだけでうれしかったが、今は全国トップが目標。チームワークが優勝に導いた」と言う熊井監督は、選手としても出場。週数回の練習以外でも、筋トレやランニングを欠かさない選手は多いという。皮製の硬球を使い、男子ではピッチャーの国内最速は120キロの終盤で、高崎市役所が決勝で戦ったホンダエンジニアリングのエースの球速は120キロ中盤。原田選手は、この投手から2本の本塁打を打ち試合の流れをつくった。「男子のソフトはマイナーだが、迫力のある競技。本塁打も出て点の取り合いになることも多いので見ていて楽しい」そうだ。


 普段は中学校の校庭や市内のグラウンドで練習するが、グラウンドによってはフェンス越えしてしまうので打撃練習はしない。高崎は球場が少なく、試合相手を招待できないのも悩みだ。熊井監督は国体の群馬県チームの監督も務め、高崎市役所からも多くの選手が県代表に選ばれている。国体のソフトボール競技は全国で13枠しかなく、出場するだけでも相応の実力が必要とされる。

 日本リーグの強豪がしのぎを削る全日本総合男子選手権大会で、余暇で練習する市役所のチームが優勝するのは、尋常ではない。職場や家庭の理解も必要だ。原田選手が、日本代表のメンバーに「練習も遠征も殆ど自腹」と話すと、一堂顔をそろえてビックリされる。ユニフォームの肩に高崎市章を付けて戦う。「結果を出すことが最高の恩返し」と熊井監督は言う。


上武大学

「今、上武には勢いがある」雑草(あらくさ)魂を全国に

 昨年に続き、二年連続で箱根駅伝出場を果たした上武大学。今年も市民の正月を楽しませてくれた。テレビ中継の視聴率は27%と正月の箱根駅伝は国民的イベントだ。花田勝彦監督が目標に掲げていたシード権獲得は至らなかったが、10区の福島弘将選手が区間賞に輝くなど総合14位に入り、昨年の21位から順位を上げ、早くも来年への期待がふくらんでいる。


 全国の注目を集める箱根駅伝は、大学はもちろん、高崎、群馬の知名度アップ、イメージアップにつながっている。澁谷朋子理事長(写真)も自らのぼりを持って沿道から声援を送った。


スポーツで高崎の知名度アップ

 澁谷理事長は出かける先々で「箱根で頑張ってほしい」と期待の言葉をかけられる。


 「群馬から箱根へ」を掲げて戦ってきた成果が着実に現れてきている。以前までの箱根予選会では「どこの大学?」と言われてきたが、今年は明らかに周囲の視線が違った。


 昨秋公開された映画『風が強く吹いている』は箱根駅伝に挑戦する若者を描いた話題作で、上武大学をモデルにしたのではないかと思われる内容だ。実際に同じモデルのユニフォームが映画に登場し、主人公が箱根路を走るシーンは昨年の上武大が力走する映像が使われているそうだ。


 駅伝部の活躍以前から強豪として名高いのが硬式野球部で全国でも上位の実力だ。昨年の明治神宮野球大会では準優勝を果たした。近年、プロ野球のドラフト指名を受ける選手も輩出し話題性と注目度が上がっている。駅伝部の花田勝彦監督、野球部の谷口英規監督の指導に同大の「雑草(あらくさ)精神」があふれ、入学するまで無名だった学生を磨き上げ一流に育てている。


 関東圏の私学の中で頭角を現した。学業やリクルートでも成果を伸ばし「勢いがあり、学生が生き生きとしている」と澁谷理事長は実感している。大学の名が日本中に聞こえることで、OBの大きな誇りにもなった。


 学生数二千人の上武大が何万人もの学生を擁する都内の大学と四つに組む。「これから上武大がどんな風を吹かせることができるか、私達も高崎で育った大学として努力していきたい」と澁谷理事長は話している。


スポーツ観戦の土壌も重要

 ルネサス高崎や太陽誘電が所属する日本ソフトボールリーグ女子1部(12チーム)は4月から10月までの10節で22試合が行われる。全国を会場にし、どこに行っても上野由岐子投手の人気は高い。昨年5月に前橋市民球場、10月に高崎市城南球場が会場となり、大勢のファンを集めた。


 サッカーでは、2005年にザスパ草津がJ2に参入しているが、J1・J2に次ぐJFL(日本フットボールリーグ・18チーム)でアルテ高崎が北は秋田から南は沖縄まで、全国を巡り年間34試合を行っている。昨年は後藤義一新監督を迎え数年来の低迷から抜け出し順位を上げた。


 高崎を拠点とするチームが、群馬や高崎の看板を背負って全国を回ることで、当地のPRに寄与している。相手地の試合では、高崎側が集客の努力をしなくても、相当数の相手方ファンが集まるので、こうした機会を積極的に活用し高崎のPRにつなげるべきだ。


 高崎でスポーツ観戦をする機会としては、これまで城南球場でのプロ野球イースタンリーグ公式戦くらいしか知られてなかった。高崎市のスポーツ施設は、これまでアマチュアスポーツを主体に設計されてきたため、プロスポーツの施設規格や観戦客のもてなし機能については十分とは言えない。


 スポーツによる高崎の知名度・集客力アップとして、現状で取り組みやすいのは、やはり群馬ダイヤモンドペガサスとの連携ではないだろうか。来季は城南球場でのホームゲームが10試合予定されている。試合を盛り上げ、まちを盛り上げて、プロスポーツの面白さを引き出していくことで高崎の都市の魅力がまた一つ増えるのではないだろうか。


(文責/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所『商工たかさき』2010年1月号

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