平成の合併「一区切りついた」国が方針転換/効果は10年後
(2010年3月7日)
総務省は5日、平成の大合併について現在までの状況をまとめ、概要を発表した。 平成の大合併により、平成11年3月末に3232だった市町村数が平成22年3月末見込みで1730となった。合併推進から10年が経過したことで、全国的な合併推進に一区切りを付け、国や都道府県の積極的な関与を止め、今後は市町村の自主的な合併の円滑化に方針を転換する。
●合併の状況
平成の合併は、新旧・合併特例法に基づき、平成11年から平成17年までは合併特例債や合併算定替といった財政支援措置、平成17年以降は、国や都道府県の積極的な関与で推進された。
平成の合併推進と同じ時期に、地方分権の観点から、国庫補助負担金改革、税源移譲、地方交付税改革をその内容とする三位一体改革が進められた。地方交付税については平成16年から平成18年の3年間でおよそ5兆円程度抑制され、地方自治体の巨額の債務や社会福祉経費の増大などもあり、地方財政を大幅に悪化させる結果となった。
合併特例債に代表される手厚い財政措置の期限が平成17年度までの合併となっていたこともあり、各市町村の合併時期は、平成17年度に集中し、財政的な理由で合併を選択する市町村が多かったと考えられる。
平成の合併推進の結果、市町村数が3232から1730となり、当時の与党の目標であった1000には及ばないものの、平均人口は3万6387人(平成11年3月)から6万8947人(平成22年3月)、平均面積は114・8k㎡から215・0k㎡とほぼ倍増した。人口1万未満の市町村は1537から459と大幅に減少するなど、全体として見た場合には、市町村合併は相当程度進捗したものと考えられる。
今回の合併により全般的に市町村の人口規模は大きくなっているものの、地方自治法上の市の人口要件である5万人に達しない市町村が、1185と、全体の約7割を占めている。
これを旧合併特例法及び現行合併特例法で特例的に市の要件とした人口3万という基準で見た場合でも、これに満たない市町村が926と半数以上有り、特に人口1万未満の小規模な市町村が459とそのまた半数を占めている。
合併の組合せについては、2市町村ないし3市町村の合併が全体数の3分の2を占める一方、10以上の市町村が合併した事例もある。
市町村の地域類型別の合併パターンを見た場合、平地及び中山間の7割弱が合併したのに対し、都市で合併したのは4割にとどまっている。中山間で合併したもののうち半数以上は、中山間同士の合併だった。
合併に都市が含まれる場合には、編入合併の割合が高くなり、平地同士、平地と中山間、中山間同士の合併の場合には、新設合併の割合が高い。
旧市町村の合併前のつながりを見てみると、一部事務組合や広域市町村圏など日常生活圏を基本とする枠組みを元に合併した事例が多く見られた。今回の合併は、行政運営の単位を住民の日常生活圏に近づけることに寄与したと考えられる。今回の合併により、政令指定都市、中核市、特例市となり、権限の強化が図られた団体もある。
●平成の合併の評価
市町村合併は地域の将来を見据えて行われるものであり、その本来の効果が現れるまでには、市町村建設計画等で一般的に定められている10年程度の期間が必要であると考えられる。大半の合併市町村で合併後3~4年しか経っていない現時点においては、短期的な影響の分析に止まらざるを得ないが、多くの合併市町村において、合併の評価は大きく分かれている。
特に行政側の評価と住民側の評価が必ずしも同じものとはならず、各種アンケート等によれば、住民の反応としては、「合併して悪くなった」、「合併しても住民サービスが良くなったと思わない」、「良いとも悪いとも言えない」といった声が多く、「合併して良かった」という評価もあるが、相対的には合併に否定的評価がなされている。
平成の合併の評価については、全国町村会が「平成の合併をめぐる実態と評価」(平成20年10月)をまとめている。その中で、合併によるプラス効果として、「財政支出の削減」、「職員の能力向上」を挙げる一方、マイナス効果として、「行政と住民相互の連帯の弱まり」、「財政計画との乖離」、「周辺部の衰退」を挙げ、「市町村を合併に向かわせたのは、財政問題、国・府県の強力な指導」であり、国の合併推進策の問題点を指摘している。その上で、今後の市町村の課題として、地域共同社会の実現が必要であるとしている。
●合併の効果
① 専門職員の配置など住民サービス提供体制の充実強化
経営中枢部門の強化や保健福祉等の専門職員の配置など、地方分権の受け皿としての行政体制が整備されつつある。
約9割の474市町村が、合併によって組織が専門化したり、人員が増加したりすることで体制を充実している。ほとんどの専門職員(栄養士、保健師、土木技師、建築技師、司書等)については、合併前の各市町村が配置していた職員数と比較して、合併後の職員数の方が充実している。
②少子高齢化への対応
人口減少少子高齢社会への備えとして、強化された行財政基盤を活かし、地域の将来を左右する少子高齢化対策などの取組が行われている。
合併後の住民サービスの充実の中では、少子化対策、高齢化対策、障害者福祉などの福祉分野での住民サービスについては、大部分の合併市町村において拡充が図られている。
③広域的なまちづくり
今回の合併は、行政運営の単位を住民の日常生活圏に近づけるものであると評価でき、合併市町村では、日常生活圏の拡がりに応じたまちづくりや住民サービスの提供、公共施設の効率的配置とネットワーク化、受益と負担の適正化に向けた条件の整備が図られた。
グローバリゼーションの進展の中で地域間競争を勝ち抜くためには、中心市を核として、日常生活圏内の旧市町村の地域資源をネットワーク化することにより、地域振興を図る必要がある。合併により、地域のマネジメント主体の充実が図られることにより、地域資源を活かした広域的な地域活性化の取組が新たに始められている。
④適正な職員の配置や公共施設の統廃合など行財政の効率化
適切な職員配置により住民サービスの水準の確保を図りつつ職員総数を削減するなど、効率的な行政運営の取組が行われている。
今回の合併により、市町村の三役・議会議員が約2万1000人減少し、年間約1200億円の歳出削減が図られる見込みであり、また、一般職員の定数削減目標については、合併市町村は未合併市町村に比べ、高い削減目標を掲げている。
平成10年末から平成20年末の間で、実際に議会議員数は20803人減少している。 概ね合併後10年経過以降においては、人件費等の削減等により、年間1・8兆円の効率化が図られると考えられる。
直接的な効果ではないが、平成の合併においては、多くの住民投票や合併協議会設置に向けた住民発議が行われた。また、合併のプロセスにおいて、多くの市町村が住民アンケートを実施した。このような過程を通じて、合併の問題は市町村行政に対する住民の関心を高め、自分のまちの将来について考える契機となったものと考えられる。
●合併の否定的評価とその背景
効果があった反面、合併後の問題点・課題も多く指摘されている。
合併による問題点としては、「役場が遠くなり不便になる」、「中心部と周辺部の格差が増大する」、「住民の声が届きにくくなる」といったものが挙げられる。また、合併後の残された課題として、「旧自治体の事業の継続・調整」「旧自治体間の一体化策」といったものが挙げられている。
このような否定的評価がなされる背景は、地域ごとに様々だが、以下のようなことが考えられる。
◇合併当初、年金の受給申請など多くの手続きが本庁でなければできなくなった。-高知県政策企画部作成「合併自治体の行財政運営やまちづくりの状況について」より抜粋-
◇役場及び会議や催し物等の行事が遠くなったという実際の距離が遠くなったことに伴うものと、支所等の職員が減少したことや新市町村の一体感の醸成ができていないと感じていることから役場と住民との間、または住民同士の心理的な距離感を感じるという大きく2つの意見が多かった。
「住民の声が届きにくくなった」に関する事例
◇市議選で、合併された旧四町の選挙区は全市一区に変更されたが、旧町選出の市議は引退し、立候補者はゼロとなった。人口約四十六万人の市で旧町は約三千人。 「合併で(地方自治に)地元の声が伝わりにくくなった罪は大きい」と埋没への不安が募る。-平成21年4月6日日本経済新聞朝刊より抜粋-
◇支所の権限が小さいため、林道整備事業・災害復旧事業(林道・農業用施設)・ 治山事業の対応等は本課でやっており、範囲もかなり広範囲の為、移動時間もかかり職員も少ないため敏速な対応が困難となっている。-奈良県地域振興部市町村振興課「合併効果と課題」より抜粋-
◇産業政策や事業計画の策定・実施等、市全体の施策にかかわる事項を決定する機能は、中心市町村の本庁に集約された。そのため、支所・出張所等に住民・企業から要望が寄せられた場合、本庁の指示や承認を仰がなければならず、即応できないケースもみられた。-新潟経済社会リサーチセンター月報No.426から抜粋-
「中心部だけがよくなって周辺部はさびれた」に関する事例
◇市と町の合併で旧町は総合支所になり、職員が約二十人削減された。五小学校、一分校の統合で教員も三十一人減。-平成21年3月13日河北新報朝刊より抜粋-
◇JAが運営していたス-パ-は三年前に撤退。市中心部へ向かう高齢者の足となる路線バスの減便も検討されている。-平成21年4月3日神戸新聞から抜粋-
◇支所の近くにある商店街は、買い物客でにぎわうはずの昼間も閑散としている。支所近くにあった地銀の支店は、合併から1年とたたずに隣の旧町の支店に統合。子どもたちの楽しみだった潮干狩り大会などのイベントも補助金が打ち切られて中止になった。 -平成21年3月6日西日本新聞より抜粋-
●主に指摘される課題と対応策
① 周辺地への対応
合併により面積が大きくなった市町村において、周辺部の旧市町村の活力が失われていると指摘される。旧市町村役場である支所等の職員数が減少した地域においては、旧役場の職員数が減ったことや、支所等の権限の少なさなどが合併に対する住民の不満につながっている場合もあると考えられる。
こういった課題に対応するため、合併後の住民サービス維持のため、半数近くの市町村において総合支所方式、約3分の1の市町村において分庁方式がとられており、その他の市町村は、窓口サービス中心の支所方式、出張所方式がとられている。
支所を単なる窓口機関化してしまうのではなく、旧市町村地域の活性化やきめ細かなサービスの提供を図るなど支所機能の見直し等を通じて実質的な対応を行ったり、支所長に一定の権限を付与するなど住民ニーズにあった工夫を行うことが必要である。
②住民の声
合併により市町村の規模が大きくなることによって、人口当りの議員数も減り、役場が支所となるなど、住民の声が届きにくくなっていると指摘される。
地域の実情を踏まえつつ、地域審議会、地域自治区、合併特例区といった法制度上の仕組みや、条例等に基づく任意の仕組みを旧市町村単位で設置し、新しいまちづくりの中で、地域の声をできるだけ行政に反映する仕組みを整備・活用している。
このほか、自治会、町内会などの既存地域組織に対する支援が6割強の合併市町村で行われ、新たなコミュニティ組織等を設置した合併市町村も2割弱ある。先に述べた住民の意識の変化と併せて、今回の合併により、合併を契機にコミュニティ活動がより活発化したのではないかと考えられる。その結果、合併を契機に、住民が自ら地域活動を主体的に行うようになり、行政依存型コミュニティから本来あるべき住民自立的コミュニティへの変化の契機となった面もあると考えられる。
③住民サービスの変化
厳しい地方財政の状況を踏まえ、行財政改革の観点から、合併市町村においても住民サービスの取捨選択や水準の見直しが行われている。特に行政改革やサービスの適正化の観点から、敬老・結婚等の各種祝い金など、個人や団体に対する助成金等について削減・廃止される例が多く、また、編入合併の場合、サービス水準を原則として中心市の水準に合わせる例も見られる。
この結果、合併により住民サービスが低下したという評価になることがあると考えられる。 住民負担についても、合併市町村の約9割で、住民負担の見直しを行っており、使用料・手数料等の項目ごとでは、それぞれ「引き上げのみを行った市町村」、「引き下げのみを行った市町村」、「引き上げと引き下げの両方を行った市町村」が概ね同数程度となっている。
地方を巡る厳しい財政状況、負担の適正化の観点からしても、一方的に負担を下げることは必ずしも適当とは言えず、合併市町村においては、財政状況やサービスと負担の関係等を勘案して、適正な負担水準としたものと考えられるが、住民からすれば負担増が合併による影響と受け止められ、合併に対する否定的な評価につながっているものと考えられる。
合併を契機としたサービス内容の見直しの例
100歳敬老祝金の見直し。敬老式典の対象年齢の引き上げ(70歳→75歳)。結婚祝金・金婚式典の廃止。出産祝金(最高50万円)の廃止。村民温泉割引事業の廃止。小中学校の修学旅行助成の支給割合の見直し。
④地域の伝統・文化の継承・発展
合併に伴い、旧市町村地域の伝統・文化、歴史的な地名などが失われてしまうという課題に直面している地域がある。
地域の伝統文化が存続の危機に瀕しているとして、日本民俗音楽学会、民俗芸能学会等から伝統文化の継承・発展に関する要望書が総務大臣に提出されたところであり、総務省においても調査の実施や関係者とのヒアリング等に努めてきたところである。
地域の伝統・文化の保存や伝統ある祭り等の継承、これらの活動を行う団体などへの支援に取り組むとともに、伝統・文化に関する研究調査、人材育成などに取り組んでいるところがある。
合併前の旧地名の保存のため、町・字名、地域自治区等の区名等として旧地名を残すなどの取り組みも行われている。
●今後の合併に対する考え方
近年、都道府県から市町村への権限移譲が進展し、また、法令により市町村に新たな事務が位置付けられるなど、市町村の役割が一層重要なものとなっていること、更に現在政治主導で進められている地域主権改革の取組を踏まえれば、基礎自治体である市町村の役割は今後益々重要となってくる。
今後の基礎自治体は、住民に最も身近な総合的な行政主体として、これまで以上に自立性の高い行政主体となることが求められており、これにふさわしい十分な権限と財政基盤を有する必要がある。
平成11年以来推進されてきた平成の合併により、多くの合併市町村において行財政基盤が強化されており、我が国の市町村は、全体として見た場合には、このような基礎自治体の姿に近づいたものと考えられる。
一方、今後の人口減少・少子高齢化の進行や厳しい財政状況を踏まえ、基礎自治体としての重要な役割や市町村が抱える課題に対応するためには、今後とも、引き続き、市町村の行財政基盤を強化していく必要がある。
しかしながら、平成11年以来、強化された財政支援措置等により全国的に行ってきた合併推進も10年が経過し、これまでの経緯や市町村を取り巻く現下の状況を踏まえれば、従来と同様の手法を続けていくことには限界があると考えられる。
したがって、平成11年以来の全国的な合併推進については、現行合併特例法の期限である平成22年3月末までで一区切りとする。
その上で、平成22年4月以降は、自主的に合併を選択する市町村に対して、合併の円滑化のために必要な特例措置を講ずることとする。
また、旧合併特例法及び現行合併特例法の下で合併を実現した合併市町村については、なお多くの課題に直面していることを踏まえれば、その一体的な振興や周辺地域への対応を適切に行えるよう、国及び都道府県は、引き続き、これらの合併市町村に対する確実な支援を行っていく必要がある。
(2010年3月7日)