第二十四回高崎映画祭受賞者発表
(2010年1月14日)
最優秀作品賞=是枝裕和監督「空気人形」
受賞理由:空気人形がある日心を持つこの物語はファンタジーでありながら、描き出すのは生と死という普遍的なテーマである。他者が他者を補い紡いでいくいのちの営みを、人形と人間の形を借りながら描き上げる独創的な切り口に洞察眼の鋭さと構成力の高さが感じられる。その上で、軽やかな語り口も忘れない柔軟性に富んだ演出力はすばらしく、その手腕が高く評価された。
最優秀監督賞=園子温監督「愛のむきだし」
受賞理由:独自の切り口で描き出す壮大なる愛の物語である。多感な思春期の心情を余すところなく包括しながら、彼ら若者の目線に通して現代社会の歪み、人間のもつれあう情愛を切り出していくこのエネルギッシュな作品は、後にも先にも誰にも真似する事の出来ないものであろう。人間探求と映画製作への飽くなき欲求が、作家性とエンターテイメント性とを見事に融合させておりその力量が高く評価された。
最優秀主演女優賞=ペ・ドゥナ「空気人形」
受賞理由:ある日心を持ってしまう空気人形という特異なキャラクターを、ごく自然にそこに存在させてしまった類い希なる表現力と演技力の高さに唸ほかない。生まれたての赤ん坊のように人間の世界を感じ、吸収していく喜びが体全体から滲み出ている。一方で、決して超えられない人形としての己の存在を受け止める深い哀しみが、観ている者の心になだれ込んでくる。すばらしい才能と実力に打ちのめされた。
最優秀主演女優賞=小西真奈美「のんちゃんのり弁」
受賞理由:それなりに年を重ね、母親でもあるけれど、どこか独り立ちしきれない大きな女の子であった小巻が、成長していく姿は実に爽快であった。必死に何かにしがみつき、がむしゃらに突き進む主人公の姿は観るものの心を鷲掴みにする。映画全体を牽引し、物語世界へ観客を巻き込む吸引力は確かな演技力あってこそである。
最優秀主演男優賞=ARATA「空気人形」
受賞理由:心を持った空気人形が恋をする青年は、実はいつの間にかどこかに心を置いて来てしまっている。純朴な青年であると同時に、都会の片隅、無機質な部屋で生きる中で悲しくも体得してしまった人間の残酷さが、純一という人物に見てとれる。一側面では表現できない複雑で奥深い役柄を涼やかに演じ上げる力量に感服する。
最優秀主演男優賞=松山ケンイチ「ウルトラミラクラブストーリー」
受賞理由:ピュアで素直で、それでいてクセの強い一風変わった人物を、実にしなやかに好演した。強烈な個性の強いキャラクターだけに表現が過度に一方向に行きがちなところを多角的に捉え、どこからも魅力的な人物として演じあげている。役柄を自分のものとして噛み砕き、作り上げて行く構築力の高さと演技力の高さが評価された。
最優秀助演女優賞=星野真里「空気人形」
受賞理由:空虚な毎日に苛まれる現代女性の悩み、苦悩、けだるさ、哀しみがアパートの一室の空気に淀んで見えてくるようだった。深い洞察力に裏付けられた確かな演技力でもって、空間全体をその人物のものとして表現しきっている。深く暗い渕にひっかかるように生きている女性が見せる再生の兆しに、多くの観客の心は奪われただろう。
最優秀助演男優賞=オダギリジョー「空気人形」
受賞理由:人形を生み出すこの技工士は、最も人形を理解し、そして最も人間を理解している、いわば神に近い存在として描かれている。ファンタジーと現実を繋ぐ重要な役どころを、冷静さと情の深さを併せ持つ神聖かつ柔和な人物像として演じ上げている。豊かな感性に裏付けられた、きめ細かな役づくりが高く評価された。
最優秀助演男優賞=森山未来「フィッシュストーリー」
受賞理由:日常に転がり込んで来る悪に、常に果敢に立ち向かう正義の味方を、実に魅力的に好演。キレのある動き、真に備わった内面の強さがなければ演じ上げられない役である。人を強くするのは、鍛え抜かれた肉体と、強靱な精神力であるということを伝える、物語の核たる役柄を見事に体現していた。
最優秀新人賞=安藤サクラ「愛のむきだし」
受賞理由:自らのトラウマから、十代にしてカルト教団にのめり込み、絶大なる力を誇る女性幹部を、豊かな表現力で演じきった。画面から滲み出るカリスマ性に誰もが取り込まれてしまったに違いない。徹底した悪役ぶりはその表情一つにも曇りがなく、複雑な事情で作り上げられた人物の血肉をすんなりと観客に提示した表現力と高い演技力に圧倒された。
授賞式は三月二十八日(日)の夕方から高崎市文化会館。
授賞式券の販売は三月上旬。授賞式券の購入方法、受賞者の出席などの詳細は後日発表。映画祭は三月二十七日から四月十一日。プログラム発表は二月中旬。問い合わせは高崎映画祭事務局℡326・2206。