親しまれて半世紀/庶民のおやつ「たいこ焼き」

(2010年5月)

親しまれて半世紀/庶民のおやつ「たいこ焼き」たいこ焼き(あずき・うぐいす・クリーム各50円)

とみや菓子店

 

●ワンコイン(五百円)で10個

 小麦粉に水あめや砂糖を入れて溶いた、とろみのある生地をいくつも並んだ丸い焼き型に流し込む。さらに自家製の餡子をそれぞれの型に配分し表と裏をひっくり返して焼くこと約10分、生地が狐色になって出来上がり。通りを歩く子どもたちが、リズミカルな手馴れた一連の作業をガラス越しに覗き込む。店の中はほんわか甘い香りで、幸せな気分に包まれる。


 通常の“今川焼き”よりちょっと小ぶりな直径5センチ、厚さ2センチ強の「たいこ焼き」(50円)には、あずき・うぐいす・クリームの3種類。この小さめサイズがちょうどいい。食べる気になれば一度に3種類の味が楽しめる大きさ。 「かっぱ橋」特注のこの型は3代目。


 あずきとうぐいすの餡子は自家製で、北海道産の良質な小豆に砂糖と塩を加えて、3時間半かけて30キロの小豆を一度に炊き上げる。出来立てのホッカホカの“たいこ焼き”は、中身の餡子も熱々で素朴な甘さが口の中に広がる。子どもたちには特にクリームが人気で、購買層が一気に広がった。また、冷めても翌日になっても、皮が硬くなりすぎず、餡子が落ち着き、それはそれでおいしい。


 価格は20年以上変わらず50円を維持しており、ワンコイン(500円)で10個というお手ごろ感も受けて、雨の日でも客足が途切れることがなく、平均1日800個売れるという根強い人気のほどが伺える。


●家族仲良く、たいこ焼き一筋に五十余年

 店主の秋谷稔さんは3代目。太鼓の形に似ていることから名前を付けた“たいこ焼き”は父親が始め、以来五十余年“たいこ焼き”一筋にやってきた。口コミで広がり前橋や伊勢崎からも買いに来る人、電話で店の場所を問い合わせてくる人などもいて、いまや新町名物と言われるほどに定着している。


 稔さんが東京の洋菓子店「クローバー」の営業としてデパートの店舗にいたとき隣の「モロゾフ」の店舗で働いていた喜美江さんと出会い結婚。十数年前に家業を継いだ稔さんは、力仕事となる餡子づくりを担当し、“たいこ焼き”を焼くのは80歳になる母節子さんと喜美江さん。特に朝と夕の喜美江さんが家事に追われる時間帯は節子さんが熟練した“たいこ焼き”の腕前を披露し、夫の代から息子の代まで50年以上も店の看板役を担っている。この家族三人の仲の良さがまたお店の魅力で、お馴染みさんがつい足を運びたくなる温かい雰囲気をかもし出している。たわいないやりとりを楽しみにやってくる年配者も少なくない。


 「昭和40年ごろまでは紡績工場の女工さんや自衛官などで、この通りは賑わっていて、通称“上海通り”と呼ばれていました。この“たいこ焼き”のようなものを蒸かしながら売っていた屋台があって、蒸かすときのピーという音から“ピーパン”と呼ばれて親しまれていましたが、今ではウチだけとなりました」。稔さんはそんな賑わいがまた見たくて、商工会や商店街の役員として、“ひなまつり”や“七夕祭り”、“商工祭”などを通して、この街の活性化に熱心に取り組んでいる。


●名物をつくろう

 「とみやのたいこ焼き」は、小ぶりなサイズと低価格、そして半世紀以上にわたって一筋にやってきたひたむきさで、地域にしっかり根をはり、口コミでじわじわとファンを獲得してきた。そんな“たいこ焼き”が、7月・9月・11月の第一日曜日には、なんと40円で販売される。7月はお店のある銀座通りの“七夕祭り”で、街の賑わいも一緒に楽しみながら、是非「たいこ焼き」を味わってみて。


親しまれて半世紀/庶民のおやつ「たいこ焼き」

とみや菓子店
店主 秋谷稔(あきや・みのる)
高崎市新町2488-1
電話:0274-42‐1428
営業時間:9:00~19:00月曜定休


※メニュー・価格等は取材時点のものです

高崎商工会議所『商工たかさき』2010年5月号


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