高崎新風土記「私の心の風景」

橋の風景から⑫ ―鴻ノ巣二号橋―

吉永哲郎

高崎新風土記「私の心の風景」

 雁行川で一番川上に架かる、林道に通じる平成8年竣工の橋です。先月紹介した「境橋」より上流になります。橋の手前に「千人隠れ」入口の標識があります。急坂を降りて川沿いに少し下りますと、断崖の下に広い空間があります。洞窟のようなところもありますが、環境庁と群馬県の説明板と並んで吉井町の「立入禁止」の表示板がたち、下流へはいけません。「千人隠れ」とは、崖下の空間に千人が潜むことができるということから、いわれるようになったとされています。さまざまな伝承があり、古くは南北朝統合後の抗争で、東国南朝方総帥後醍醐天皇皇子宗長(むねなが)親王とその子尹良(ただなが)が寺尾城に入り足利方と抗戦、後敗走中にここ「千人隠れ」に籠ったという話。また、天明3年の浅間山爆発の時、近くの人々が避難したことなどが伝わっています。橋上から眼下の風景を眺めますと、夏は木々が覆いかぶさり雁行川の流れは隠れて見えませんが、この川には「高麗蛙」(こまかえる)というカジカカエルが生息しているところです。この地の人たちは「オコマガエル」といって、16世紀の武田上杉の勢力抗争の煽りを受けた「お駒」という少女のはかない恋物語を伝えています。雁行川は「カジカの鳴く」ところとして、知られていたところです。もしかして「お駒」の声がと、しばし橋上にたち、耳を澄ませていました。