映画のある風景
映画文化を支える映写機
志尾 睦子
群馬音楽センターの35mm映写機
先日、高崎音楽祭のイベントの一つとして群馬音楽センターで『ここに泉あり』の上映が行われた。言わずもがなの群馬交響楽団の黎明期を描いた作品で、映画史上において重要な名作であると同時に群馬県民にとっては特別な一作だ。名作は何度観ても新しい感動をもたらしてくれるわけだが、今回の上映は一際感慨深かった。映画をどこで上映するか、どこで観るかというのは、映画体験を構築する上で一つの重要な要素となるわけで、題材とされている群馬交響楽団の拠点である群馬音楽センターでこの映画を上映する意義は非常に大きかったと思う。そしてもう一つ、重要なポイントが今回の上映にあったことを記しておきたい。
群馬音楽センターには35 映写機が設置されている。開館当時に導入したはずなので、もう50年も前の機械という事になる。1961年に開館した当初、高崎市内には8つの映画館があり、これだけ近い距離で、公共ホールが興行館と同じ設備を要するという事は普通では考えられないことだった。しかし、音楽ホールに35 映写機を入れたのは地方の芸術文化の発展に強い想いがあったからなのだろう。高度経済成長期、音楽を聴き音楽を奏でるための「音楽の場所」を創ろうという想いを具現化するだけで画期的なことだったはずだ。その上で、音楽にとどまらず、伝統芸能や演劇を視野にいれた舞台構造が考慮され、映写機が備えられた。文化芸術にかけた意気込みが、どれだけのものだったのかがわかる。
そうして設置された当時最新鋭だったはずの映写機は、今現在では、ほとんど見ることのない仕様をしている。素材や機能の変化に伴って部品を変えた個所も数か所あるが、映写機自体は50年前のままだ。各パーツごとに蓋がつけられているのは、当時フィルムがまだ可燃性だった頃の特徴であり、磁器だった音声読み取りの部品はついたまま残っている。
そんな映写機が現役で稼働するというのは全国を見渡しても稀だと思う。近年出回っている上映素材に対応できないところもあるために、この映写機はここ数年出番が少なくなっていた。機械は動かさなければ急速に劣化してしまう。『ここに泉あり』の上映で映写機を動かすことは、これからもずっと現役でい続けてもらうためのおまじないのような気がした。
時代は急速にデジタル化に進行している。そんな中だからこそ、これからもこの映写機には高崎の映画文化を語り継いでもらわねばなるまい。生涯現役で。
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