映画のある風景

5. 異次元へ通じる街

志尾 睦子

映画のある風景

 高崎フィルムコミッションが発足して10年が経つ。映像に関するロケーションに協力をするわけだが、その依頼件数は年々増えていて、高崎は映画製作陣にとっても人気の高いロケ地だ。リピーターも多く、フィルムコミッションさんの対応が良い事、地域住民の理解が高く協力的な事、東京から車でも一時間で来られるなど利便性の高さがその理由に挙げられる。

 映画館でなにげなくエンディングを眺めていて高崎フィルムコミッションの名を見つける事が非常に多くなった。え?この映画のどの場面で使っていたの?という事も少なくない。特にそれは大手ヒット作品に非常に多い。

 今春邦画界を賑わした『SP the motion picture』もその一つ。岡田准一、堤真一がSPに扮し、数々の事件に対応していくもので、元々深夜枠のテレビドラマから始まり、人気が拍車をかけ映画製作に突入。スター俳優が出演する映画などは特に、地方ロケの場合撮影中は撮影がスムーズに回るように情報の公開はほとんどされない。全編ロケならいざしらず、数シーンの撮影の場合は約1年後の公開時にはほとんど撮影話など話題にもならない事が多い。それゆえに知らない人も多いし、私もそんな一人。

 映画を観てはじめてあれ?と思う事は良くあるし、そういえば、撮影していたかも?と記憶をたどってみる事も少なくない。今回も、私は最初全く気がつきもしなかった。『SP革命篇』の舞台は国会議事堂。そして撮影場所は阿久津水処理センターだという。そこは緑がほどよくあり広い敷地にこざっぱりとした建物がいくつかある。水処理場と知らなければどこかの大学か新興住宅街の一角かと思えるところで、戦隊ヒーローものでは頻繁に利用されるロケ地でもある。この青空を吸収しそうな拓けた場所がどのように使われたのか。答えはその下にあった。巨大な議事堂の地下をおりていくと高崎に通じる。つまり地下道がロケ地。議事堂本会議場は東宝のスタジオでセットが組まれ、廊下は名古屋市役所、正面入り口は滋賀県庁で撮影されたらしい。

 物語の核心を突く重要なシーンが地下通路。この撮影場所の選出にはかなりの苦労を要したろうと容易に察しがつく。どこまでも続く地下道、昼夜関係なく撮影出来る時間的余裕、撮影クルーが機材を立て込むのに十分なスペース。今年の邦画界を支える一作の重要なシーンを縁の下の力持ちで支えるのはこんな場所だったりする。そして実はこの地下利用は非常に多いのだそうだ。知らなかった。それからあの辺りの景色を見る目が違って来た。あの場所は異次元に通じるところ、そう思うとワクワクするというものだ。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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