映画のある風景
奇才を育てた街並
志尾 睦子
今月シネマテークたかさきでは『堀川中立売』というけったいな作品を上映する。京都にある“堀川中立売〟を舞台に繰り広げられる、妖怪と人間の時空を越えたアクションものだ。監督の柴田剛さんは題材や作風も変わり種系の若手監督の一人。柴田監督には初日舞台挨拶をして頂くことになったのだが、「是非ムラケンさんと一緒にやらせて欲しい。」というオファーを受けた。
ああ、ここでもこの名前が出たかーと思うのと同時に、私はにんまりしてしまった。ムラケンさんとは高崎市出身の村上賢司監督の事だ。現在41歳。高校生の時に高崎映画祭が始まって、フリー券で毎年毎年映画祭に通うようになったというムラケンさんは、若手監督時代に高崎映画祭での上映や映像個展も開催されている。セルフドキュメンタリーとも、フェイクドキュメンタリーともいえる作風から出発し、劇映画も手がけるけれども、メジャー系とは一線を画した独特の路線を突き進む、いわば知る人ぞ知る奇才の映画作家。
自主制作畑の方々は皆一様に「高崎といえばムラケン」と言い、必ずと言っていい程中央銀座商店街に興味を示される。ムラケンさんの実家があの辺りで、彼の傑作ドキュメンタリーのルーツがそこにあるからだ。各種専門店が立ち並び、映画館があり、本屋があり、ゲームセンターがあり、夜には賑やかな飲屋街と化し、猥雑な顏が見え隠れするそんな街の中心地で、村上少年はませた少年時代を過ごしたに違いなく、育まれた独特の感性は、映像による自己表現に集約されたわけである。そんな場所を見に行きたいと業界人が訪れるのだから、ムラケンさんが人々に与える影響力の大きさと人望の厚さは容易に想像がつく。
さて、今回の舞台挨拶の一件で、何故私がにんまりしたかというと、『堀川中立売』を見た時に、このテーマと中央銀座商店街が自分の中でシンクロしていたからなのだ。地球侵略を企てる妖怪と、宇宙の平和を守るギャラクシーフォースとの闘いという和製のSFとも言える題材もおかしいが、そもそもそんなストーリーは、魑魅魍魎が跋扈する土地の不可思議さから端を発しているわけである。
時代と時空を超えた何かが棲んでいそうな場所、高崎にもそんな場所があるなあと思ったのが中央銀座のアーケード街だった。それが、こんな風に繋がるとは面白いものである。あそこから映画界の異端児ムラケンが誕生しているのだから、あの場所には得体の知れない何かがうごめいている事はやっぱり間違いはないらしい。
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