映画のある風景
2. 映画の魔法
志尾 睦子
去る4月10日、第25回高崎映画祭が閉幕した。のべ4500人の方々にご来場頂くことが出来た。3月11日の震災の影響を多分に受けての開催、動員数は予想を遥かに下回ったものの、多くの方々に支えて頂きこれだけの人々に足をお運び頂けた事、この場をお借りして改めて感謝を申し上げたい。そして予定していた54作品全てをプログラム通りに実行出来たことが何より嬉しかった。
開幕初日3月26日の高崎エリアの計画停電予定は、午前10時のオープニング上映に重なっていた。オープニングが出来ないかも、と思った時は正直授賞式を中止にしたときより落胆が大きかった。毎年の事ながら開幕を告げるオープニング上映には力が入る。華々しく、力強く、爽やかにスタートしたいという気持ちで作品を選び抜くわけで、今年は更に格別な思いがあったからだ。
今年のオープニングには、高崎フィルムコミッション支援作品の『時をかける少女』を選んだ。人を想う事の大切さ、時の尊さを伝える青春映画で、市民エキストラも多く参加している。
更に、この作品のクライマックスであり印象深いシーンには群馬音楽センターが使われている。面白いのが劇中音楽ホールとして登場するのではなく、1970年代の新宿のバスターミナルに姿を変えているところ。普段見慣れた景色を全く違う装いに変えるのも、映画だから出来る魔法だ。
高崎の音楽のアイコンであるこの建物が、映画の力でまた違った魅力を放っているところも重要なポイントだった。市民の協力と高崎の魅力ある建物や街並があってこそ出来上がったこの映画から、第25回高崎映画祭を始めるのには大きな意味があると思えた。計画停電が回避され、上映が出来るとわかった時の歓びはひとしおだった。
音楽のまち高崎と映画のまち高崎が、この作品で面白い融合をみせてくれた気がしている。その後計画停電が実施されず全ての上映が出来たのも、そんなオープニングの力なのかもしれない。
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