建具職人、三代揃踏み
(2010年10月)
左から、勉さん、秋三さん、健太さん
秋三さんの手ほどきを受ける健太さん
中島建具店
「重いものはさすがに持てなくなったね」。腕がよくて真面目が取り柄の建具職人の秋三さんは80歳になった今でも現役。勤めていた市内の建具店から27歳で独立した。現場では愛想の一つも言わないが、確かな腕と奥さんの社交術に助けられ、仕事は引きもきらなかった。かつて昭和天皇が新幹線の乗降の際に使われた手すり付きスロープを作ったことは夫婦の“大切な自慢話し”として語り継いでいる。
勉さんは、職人気質の父親とは少し異なり、職人でも周囲への気配りや愛想は必要と、現場での取り付け作業の際などは、冗舌な会話でお客様の心を掴み、建築業者との関係も良好に保つよう心がけてきた。「作業場で作った建具を、現場で上手く取り付けるのが実は一番大変。家にうまく馴染むように手を加えるときは花嫁の父の心境」と笑う。
そんな親子が営む建具店に、孫の健太さんが加わった。勤めていた会社や給料に不満は一切なかったが、家業の行く末が気掛かりになった。家族は一言も跡を継いでくれとは言わなかったが、健太さんは勤めていた会社を「建具職人なるので」と辞めた。職人が務まるか疑心暗鬼の家族が見守るなか、「木製建具手加工作業・二級技能士資格」を取得し、週に一度同業者が主宰する組子研究会にも熱心に足を運び建具作りの勉強に余念がない。
高崎だけで100軒以上あった建具店が、今ではすっかり減ってしまい、受注は北関東全域に及ぶ。
勉さんにとっては、息子の未熟なところが目につき、心配の種は尽きないようだが、秋三さんはかわいい孫が建具店を継いでくれるのは大歓迎で、作業場でのやり取りの様子がほほ笑ましい。
この道60年以上の秋三さんでさえ、自分の腕を「まだまだ」という職人の世界。長くて遠い道のりで健太さんの前途は未知数だが心強いことに身近に頼れる先輩が二人すぐそばにいる。
がんばれ! 若大将。
ちょっと一言
同店では、スペインの有名な建築家アントニ・ガウディを研究する大学教授から、イメージに合う建具の依頼をしばしば受け、学生も見学に訪れる。建具職人の可能性は広がり健太さんの興味も深まる一方だ。
この取材は地元の同業者から推薦されたことがキッカケ。地域からも同業者からも信頼、愛されている三人だ。
中島建具店
初 代 中島 秋三(80歳)
二代目 中島 勉 (54歳)
三代目 中島 健太(24歳)
高崎市石原町3358
TEL:027-322-6730
高崎商工会議所『商工たかさき』2010年8月号