ご当地キャラクターとその活用法

ご当地キャラクターとその活用法左から恵比寿コウ、タカポン、ぐんまちゃん、たか丸くん

 ご当地キャラクターの人気が根強く続いている。イベントで着ぐるみを見かけることは当たり前となり、関連商品も販売されるようになった。ひとたび話題となれば、その経済効果は数百億円とも試算され、まちおこしの切り札として全国津々浦々で登場している。

 一方、ブームによる乱立でご当地キャラクターは飽和状態ともなっている。この先、ご当地キャラクターにビジネスチャンスはあるのか。ご当地キャラクターの活用やキャラクター商品について取材した。

群馬の代表格「ぐんまちゃん」

全国3位の「ぐんまちゃん」は誕生して20年

 県内でご当地キャラクターとして浸透し、キャラクター商品が最も多いのが群馬県のマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」だ。「ゆるキャラグランプリ2012・13」で2年連続全国3位に輝き、全国的にも知名度が高く「ぐんまちゃん」グッズや商品のラインアップが増えている。

 「ぐんまちゃん」は、昭和58年の「あかぎ国体」のマスコットキャラクターとして、漫画家の馬場のぼる氏に依頼してデザインしてもらった「ぐんまちゃん」が初代となる。著作権によりデザインが変えられず、その後の使用が難しかった。平成6年の全国知的障害者スポーツ大会「ゆうあいピック群馬大会」のマスコットが公募され、現在の「ぐんまちゃん」が誕生した。名前は「ゆうまちゃん」、著作権は県が所有し、使い勝手が良く広く普及した。群馬にちなんだ馬のポニーをモチーフに、年齢は7歳、男の子でもあり、女の子でもある。

 あかぎ国体の際の「ぐんまちゃん」の名前が県民の記憶に残っていたために混同されがちだった。平成20年に群馬県が東京銀座に「ぐんま総合情報センター」を開設する際、公募により名称を決め、あらためて「二代目ぐんまちゃん」を公式に襲名し、同センターも「ぐんまちゃん家」となった。こうした経緯は、ぐんまちゃんファンの間で良く知られている。

 ご当地キャラクターブーム以前から「ぐんまちゃん」は親しまれている。「長く県民に愛されてきた。群馬県とのつながりがわかりやすく、シンプルでかわいらしいことが親しまれている理由でしょう」と県イメージアップ推進室では話している。

ライセンス無料化でアイテムが増加

 県は、「ぐんまちゃん家」開設にあわせて、県のPRに活用しようと、平成21年から、ぐんまちゃんの使用料を無料化し、申請して県の許諾を受ければ使えるようになった。個人で私的に年賀状などに使う場合は申請は必要ない。有料時代はぐんまちゃんのイラストを印刷物に使用したり、ぐんまちゃんを取り入れた商品の件数は少なかったが、無料化により大きな展開を見せた。

 昨年の「ゆるキャラグランプリ」で全国3位となった話題性は大きく、平成23年度の申請件数が約300件から平成24年度は3倍増の約900件、今年度は11月までに1,200件が申請されている。県内の企業だけでなく、ご当地商品を手がけている企業を中心に、他県からの申請も増えているそうだ。

浸透のポイントはデザインのアレンジ

 ぐんまちゃんが浸透した背景は、豊富なバリエーションで、県内全市町村にあわせた衣装のぐんまちゃんを始め、印刷物や年賀状に使える様々なパターンが揃っている。他のご当地キャラクターは、イラストが数パターンしかないことが多く利用分野も限られ、同じデザインのイラストが流通するので差別化が図れず飽きられやすい。県は、ぐんまちゃん普及に力を入れ、県のホームページには、約50種類ものイラスト見本が用意されている。印刷物等では、目的に応じて様々なコスチュームでポーズも豊かなぐんまちゃんが登場している。

 ぐんまちゃんを自社の商品に利用しようとする時、最も利便性が高いのは、申請して許諾が必要となるが、基本デザインを踏まえていれば使用者がぐんまちゃんを自由にアレンジできる点だ。

 県に使用申請する際に、印刷や商品のサンプル等を添付してチェックを受け、OKが出れば許諾番号が交付される。商品には許諾番号を明示することが定められている。同じイラストに既に先行商品がある場合は認められず、コピー商品を排除するルールになっている。

 ぐんまちゃんのイメージがきちんと保持されることなどの条件はあるが、応用範囲はとても広い。

ぐんまちゃんブランドを形成

 ぐんまちゃん商品は、スイーツ、文具、ファンシー、Tシャツなど幅広く、写真集まで出版されている。ぐんまちゃんダンスも登場し、あたかも「ぐんまちゃんワールド」を形成していると言えそうだ。来年は午(うま)年でもあり、年賀状を始め、ぐんまちゃんの人気も上がりそうだ。

 ぐんまちゃんのイメージが損なわれないように、県によってデザインや使い方がコントロールされキャラクターブランドとして確立されている。後述のスター商会が販売しているぐんまちゃんのTシャツに見られるデザインは、輪郭が無くても目、口と帽子の部分でぐんまちゃんだとわかり、ぐんまちゃんが県民に浸透している現れだ。この輪郭のないぐんまちゃんのデザインは、申請時に県でも議論になったそうだが、「ゆるキャラグランプリ」で全国3位を獲得したこともあり、ぐんまちゃんが広く認知されてきたことから許諾になったそうだ。

 ぐんまちゃんの世界を壊さないよう商品のクオリティも重要だ。ぐんまちゃんのぬいぐるみなどを並べて見ると会社によって微妙な違いがある。以前は「これがぐんまちゃん?」と疑いたくなるような商品も見受けられクレームが届いたこともあったそうだが、必要な場合は県が指導を行い色や形などを標準化しているそうだ。

観光土産に群馬産を強調

 観光地のお土産品は、製造元は必ずしも地元産ばかりとは限らず、製造者の表記を見ると県外のこともある。長野県の業者が製造したものであれば「草津温泉は長野県だったの」と誤解されかねない。お土産のパッケージにぐんまちゃんを表示しておくことで、群馬のお土産だと認知してもらえるという案件もあったそうだ。かわいらしさとともに商品の差別化にも貢献する。県内各地のご当地ぐんまちゃんを使えば、地域性も強調できる。パッケージにぐんまちゃんを印刷するだけなので手軽に利用できる。

 商品のブランド力アップと付加価値を高める方策として、ぐんまちゃんが活用されている。ぐんまちゃん商品そのものが群馬土産となるので、いわゆる観光土産でない商品も観光客への販路が開ける可能性もある。8月にJR高崎駅イーサイト高崎に、県公認のぐんまちゃん商品専門店の「ぐんまちゃんSHOP」が開店し話題となっている。イーサイトには、他にもぐんまちゃん商品を扱う店舗があり、ぐんまちゃんは観光土産としての地位を築いている。

着ぐるみのかわいい動作が重要

 ぐんまちゃんの着ぐるみも引っ張りだこで、イベント等で使用でき、週末の着ぐるみの貸出予約は数カ月先まで埋まっている。ぐんまちゃんの着ぐるみの出来映えはかわいくて親しみやすいので子どもたちの人気者だ。

 着ぐるみの中に入っている人の動作やサービス精神は、とても重要だ。県の行事などは、県職員が中に入るそうだが、借りてきた場合はイベントのスタッフが担当することになる。歩くだけでも大変そうだが、子どもに手を振ったり、握手したり、狭い視野の中でがんばっている。夏期となれば中は相当な暑さになる。

 県外の観光イベントやプロスポーツの試合の応援にぐんまちゃんが登場することがあるが、着ぐるみの可動性が良いのか中に入っている人の資質なのか、ぐんまちゃんはチャレンジ精神、サービス精神がいっぱいだ。選手の真似をしたり、はしゃぎながら会場を楽しませている。ぎこちない動作が、一段とかわいさを感じさせる。エンターテイメント性もあわせて着ぐるみを活用すれば効果は大きい。

高崎のマスコットキャラクターは?

タカポンは高崎のご当地キャラなのか

 高崎市のマスコットキャラクターでは、平成20年に開催された全国都市緑化フェア群馬大会にあわせて制作された「タカポン」が浸透している。民間では、群馬県達磨製造協同組合の「たか丸くん」、榛名地域でははるなフルーツタイムスの会が制作した「フルーツ忍者ハルナ」が活躍している。11月に開催されたえびす講市のキャラクターとして「恵比寿コウ」が新登場するなど高崎関連のご当地キャラクターもある。

 今年の「ゆるキャラグランプリ」には、高崎の地域活性化をめざす非公認キャラクター「タカウサギ」が登場した。群馬ダイヤモンドペガサスのマスコットキャラクター「球馬・雷馬」もファンに愛されている。イラストだけだが、高崎市では他に、高崎市水道局、高崎市保健所、食育などでシンボルキャラクターを持っている。

 タカポンは、緑化フェア以降も高崎市などのイベントに着ぐるみが使われ、各部署が発行する印刷物にも時々登場するが、これまで高崎市のキャラクターとして正式に位置づけられたことはない。イラストも植木鉢を持ったパターンが数種あるだけで、デザインの見本や仕様書、使用規則もないので民間が使ってもいいのかどうかよくわからない。

前橋市は「ころとん」で攻勢

 前橋市は、ご当地名物の豚肉料理をPRする「TONTONのまち前橋」を打ち出し、民間組織「ようこそまえばしを進める会」と歩調をあわせて活動を進めている。平成20年に「TONTONのまち前橋」のマスコットキャラクターとして「ころとん」が誕生し、マスコミでの露出度を上げるなどプロモーション活動を精力的に行っている。

 ご当地キャラクターとして頭角を現し、注目度も上がっている。「ゆるキャラグランプリ」では市を上げて応援し38位に入った。豚肉料理だけでなく、スイーツ、文具など、ころとんグッズも登場、前橋駅の前橋物産館に専用コーナーが設けられている。ころとん公式ソングもありすそ野が広がっている。

 ようこそまえばしを進める会のホームページによれば、ころとんは、規約やデザイン例が定められており、使用する場合は、1万5千円から4万円の使用料が必要となる。

ご当地キャラクターとその活用法フルーツ忍者ハルナ 梨之助

下克上を狙うフルーツ忍者

 高崎市内のご当地キャラクターで独自の活動をしているのが、榛名地域の果物をPRする「フルーツ忍者ハルナ」。第1回高崎学検定の問題にも出題された。果物をテーマにした忍者など10ほどのキャラクターが設定され、中心人物となる梨之助の1体が着ぐるみとして制作されている。

 榛名地域の果樹農家を中心とした自主団体「はるなフルーツタイムスの会」が考案したもので、万人うけするかわいいキャラクターとは言えないが、独特のひねた感じが味わい深く地道な活動がじわじわと浸透してきた。ぐんまちゃんの座を奪い取ろうと、「ゆるキャラグランプリ」にもエントリーし、組織票の無い中で、下克上をめざしているという。今年は640位という結果だった。

 高崎市が表だって応援しているわけではないが、榛名支所では力を入れ、支所内にラッピング自動販売機が設置されるなど観光事業に活用している。

 はるなフルーツタイムスの会では、フルーツ忍者をモチーフにしたスタンプラリーやボウリング大会を開催し独自の活動を行っている。ストラップやメモ帳などの商品もある。フルーツ忍者それぞれのキャラクター設定が細かで、面白い世界観を作り上げ、まもなくフルーツ忍者の戦国冒険物語の本が出版される予定だという。

ご当地キャラクターのマーケットは

ご当地キャラクターとその活用法ぐんまちゃん「Tシャツ」

「そんなもの売れるのか」と言われたTシャツがヒット

 ぐんまちゃん商品のヒット作の一つが「㈱スター商会」がデザインしたTシャツ。ぐんまちゃんの顔が大きく描かれ、鮮やかな黄色でかわいい商品だ。群馬県の魅力度ランキングが全国最下位であったことから何かできないかと須藤浩二社長は考え、ぐんまちゃんTシャツを思いついたのが一昨年の夏。印刷業の伸び悩みもありメーカーとして小売にも進出したいと意欲を持っていた。ぐんまちゃんの顔の輪郭を取り除いたTシャツのデザインは当初は認められなかったと言う。

 販路の開拓はゼロからのスタートで、社長自らTシャツを持って扱ってくれる店を探して回った。「そんなもの売れるか」、「Tシャツを置く場所がない」、「売れなかったら、すぐに引き取ってもらう」と相手にされなかったが、頭を下げて頼み込んで回った。数カ月間は動きが少なかったが、徐々に売上が伸び始めた。Tシャツだけでは扱ってくれないので、ぐんまちゃん関連商品を増やしクリアファイルやトートバッグ、マグカップなど現在は15種類になっている。ネット販売も好調で全国から注文が入る。名入れの記念品としても需要があるそうだ。ぐんまちゃんをデザインした年賀状も印刷見本に加えてみた。「誰も使わないだろう」と須藤社長は思っていたそうだが、予想以上の需要があったそうだ。

ご当地キャラクターとその活用法ぐんまちゃん「ケーキ」

手間がかかり、数に限界

 イーサイト高崎に「ぐんまちゃんSHOP」が開店する際、イーサイト内に出店するスイーツショップにぐんまちゃんスイーツ作成が要望され、ケーキショップ「パティスリー・リアン」の岡部克孝シェフはぐんまちゃんケーキに挑戦した。平面の印刷物などと違い、立体物は前後左右から眺めてきちんと造形しなければならない。試作品を作って県に見てもらったところ「そっくりに作ってください」と厳しい評価で却下されてしまった。辞めてしまうのは簡単だったが、そう言われるとがぜん本気になって、たてがみの本数や耳に入っている線など細かいところまで再現し県の許諾がおりた。

 最初は一日限定30個でスタートした。売価は350円。ケーキのパーツは、他のケーキとの使い回しができず、しかも数が多い。ぐんまちゃんケーキだけを担当するスタッフを置いて作業を任せている。

 お客の反応は良く発売開始から徐々に人気となり、発売1週間から10日後には完売してしまうようになった。製造数も1日30個から50個に増やし、現在は土日には70個作っているが、毎日完売となっているそうだ。これ以上の増産は難しいと岡部シェフは語る。

売上よりも宣伝効果

 ぐんまちゃんケーキの場合は、「完売と言っても売上は一日に2万円ほど。スタッフはぐんまちゃんケーキに一日中拘束される。ぐんまちゃんケーキと一緒に他のケーキも購入してもらえること。特にお客様に喜んでもらってお店に来てもらう効果に期待している」と岡部シェフは語る。ぐんまちゃんケーキがメディアにも取り上げられるので、来店のきっかけになっているそうだ。

 スター商会も同様で「自社生産で在庫のリスクを最小限に抑えられることが重要。何千個というロットで外注生産したら在庫をかかえてしまいお手上げになってしまう」と言う。同社がぐんまちゃん商品を始めた頃は、ぐんまちゃん商品の認知度も低く初めは苦労した。「ぐんまちゃん商品だけで商売するのは難しい」と須藤社長は見ている。スター商会は、リスクを避け自社生産できる商品を中心に開発していく方針だ。その上で「ぐんまちゃん商品が会社にプラスになっているのは事実」と手応えを感じている。今後は販路を更に拡大していくとともに「だるまをデザインした高崎ならではの商品を開発していきたい」と意欲を持っている。

ご当地キャラクターで一攫千金は…

 嗜好が多様化し全国的に話題になっているキャラクターは、必ずしもかわいらしいものとは限らない。人気を狙うのは難しく、しかもブームが去るのは速い。コンセプトがはっきりしていないと、作っただけで終わってしまう。今年の「ゆるキャラグランプリ」には1、500件を超えるエントリーがあった。ここまで至ると、新しいキャラクターを作っても、既存のものと差違はなく新鮮味は少ない。

 しかし、ぐんまちゃんのように地域のみんなに愛されるキャラクターがいれば、そのキャラクターを中心に地域の活性化が図られ、地域の観光ブランドとなる可能性が出てくる。グッズやチラシへの利用が簡単にできれば、グッズ制作会社や市民への浸透が早くなり経済効果も期待できる。今回のぐんまちゃんのように、群馬県をPRすることが自社のPRにもつながり、新しい販路を見つけられることにもなる。

 また、キャラクターとして広く使ってもらうには、しっかりしたデザイン計画が必要だ。コンセプトがしっかりしていれば、ブランド力につながり、応用範囲も広がってくる。高崎のご当地キャラクターを考える作業は、高崎とは何かを考える作業とも言えるのではないか。

※「ゆるキャラ」は、ご当地キャラクター、団体等のマスコットキャラクターなどを含め、「ゆるいマスコットキャラクター」の略称で、商標登録されている言葉。

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