高崎を商圏とする大型ショッピングセンターの新たな動き
店舗の半数以上を大リニューアルした3つの理由
「イオンモール高崎」と「けやきウォーク前橋」が今年3月から4月にかけ、大規模リニューアルを行った。4月初旬にはフォレストモール新前橋もオープン、パワーモール前橋南の好調ぶりも耳に入っており、高崎商圏への影響が気に掛かっている商業者も多いことだろう。
2大ショッピングモールがリニューアルした狙いとは何か。イオンモール高崎、けやきウォーク前橋を取材した。敵陣に乗り込むような思いで取材に向かったが、両店とも踏み込んだ考えを本音で語ってくれた。
例を見ないほどの大規模リニューアル
今春のリニューアル規模は、イオンが170店のうち、43店が新規に入れ替え、76店を改装し、約7割の119店。けやきが新規38店と改装37店で、全テナント140店の約半分の75店を刷新した。両店舗とも群馬初上陸の人気ブランドを数多く導入し、話題性も高い。
イオンモール高崎の山路展広ゼネラルマネージャー(GM)は「従来リニューアルは3割程度の入れ替えが多かった。多くても半分、高崎は群馬の経済の中心地であり、イオンモール高崎から強力な情報発信をする役割と必要があると感じて今回の大規模リニューアルに踏み切った」。けやきウォーク前橋の大木秀春支配人も「当初はここまで大きなリニューアルは考えていなかった」と、今回のリニューアル規模が極めて大きかったことを語っている。イオンは昨秋からの模様替えを含めると8割がリニューアルしている。
リニューアル効果は大きく、両店とも客足を伸ばし、売上は前年同月を上回っていると言う。来店者数や売上については残念ながら公にはできないとのことだが、業界紙ではイオンモール太田・イオンモール高崎、けやきウォーク前橋、スマーク伊勢崎の4店の売上高合計は1,000億円と試算している。
目的はコンセプトの強力な打ち出し
両店ともリニューアルの第一のポイントはシンプルで、オープンから6年を迎えたテナントとの契約の満了。ショッピングセンター(SC)はお客様に飽きられないよう定期的にテナントを入れ替え、新しい魅力を演出する必要がある。グランドオープンから6年、テナントとの契約が満了となるタイミングで、これまで群馬では販売していなかったブランド、首都圏で話題のブランドを呼び寄せ、斬新さを打ち出している。
イオンモール高崎とけやきウォーク前橋のリニューアルが重なったのは、6年目の契約満了が「たまたま同じ時期だった」というのが両店の見解だった。
第二は、6年間の実績を踏まえ客層に合わせたテナント、品揃えの強化だ。両店とも新規出店であったため、今回のリニューアルでは実際の来客層にあわせたテナントを強化している。2店に共通しているのは購買力を持っている層へアピールできるテナントを増強している点だ。特に百貨店志向の客層を意識し、新規顧客の獲得を狙っている。
第三は、2点目と重なるが、価格帯の上方シフトも含めた品揃えの充実だ。値ごろ感よりも品質、ファッション性を求める客層を取り込み、客単価の向上をはかる。
どちらの店舗も予想以上に店舗マネージャーのリーダーシップが大きく、イオンモール高崎山路GM、けやきウォーク前橋大木支配人の構想・手腕が今回のリニューアルに大きく反映されたと見て良さそうだ。
インタビュー
イオンモール高崎
山路 展広 ゼネラルマネージャー
―今回、大規模なリニューアルを実施した理由は
■山路:オープンから6年間、着実な売上があり、お客様に支持されてきたので、テナントの新陳代謝はあまり行ってこなかったが、中長期的に考え全館リニューアルに踏み切った。
2月、3月から段階的にリニューアルし、4月にユニクロ、ZARAを開店させてゴールデンウィークを迎える戦略をとった。昨年秋からのリニューアルを含めれば店舗の8割が改装している。
―リニューアルのコンセプトは
■山路:「衣・食・住・趣の専門性を追求しながら新しくモードするファッショントレンドモール」をコンセプトに、高感度なブランドを集積させた。高崎はおしゃれなお客様が多く、百貨店志向も意識した。一口に表現すれば、都市型のSCを考えている。SCは常に新しい変化を求められている。新しい価値を創造するSCとして、計画的に商業集積をはかっていかなければならない。私どものリニューアル計画に賛同してもらえるブランドが集まった。出店したいショップだけではなく、出店してほしいショップも誘致し、GMの力量が問われるリニューアルだった。
―お客様の反応や売上は
■山路:幅広い所得・年齢層に提案できるSCに生まれ変わり、ファッションを楽しみに足を運んでもらえるだけでなく、モノ、コトも充足できる施設になったと評価を得ている。
外資系のファッションブランドは注目度が高く、群馬県初出店のZARAへの反応は大きかった。1階は高感度ファッションゾーンを形成し、トレンド発信基地として話題を集めている。ユニクロは県内最大級、フランフランも都市型業態に生まれ変わって1階へ移転している。
既存店でも、例えば子ども服のショップに乳幼児の品揃えを新たに加えてもらうなど、幅を広げている。お客様にプラスアルファの提案をできるショップは、確実に売上の数字を作っている。
4・5月は前年対比で約25%の売上増となり、リニューアル効果が継続している。競合が激しい地域なので、効果が長続きしないのがセオリーだが、今回は異なっている。売上の伸びによって個店、スタッフのモチベーションも継続し良い効果があった。
―商圏や客層をどのようにとらえているか
■山路:高崎を中心に、安中、前橋、渋川、富岡、藤岡。県外は、埼玉県の本庄・児玉・深谷、長野県では軽井沢や佐久、新潟県南部。高崎は高速道の利便性が高く、広域的に集客している。客層は広く、3世代で楽しんでいただいている。平日に子供や友人と来店された方が、週末に家族連れで来店されたり、それが3世代の場合もある。つまりお客様が様々なシーンで利用されており、一人の方が一週間のうちに何度も来店されるのがこの施設の特徴であり、イオンモール高崎が地域の生活の一部になっている。
特に意識しているのは、高崎駅周辺だ。高崎駅東西口の大型店とは共存共栄していきたいと考えている。都心部から波状でトレンドは伝わってくるので、常に意識はしている。高崎は群馬県随一の経済発展都市であり、駅周辺の感度・発信力が高いため、当店に来店するお客様の感度も高いと感じている。 ―高崎市の特徴や集客に有利な点は
■山路:高崎は新幹線、高速道など交通の要衝であり、都市機能が高く、県内でも群を抜いている。お客様の感度も都内と比べて遜色がないので、イオンモール高崎は都市型モールとしてショップを備えた。群馬はヤマダ電機、ビックカメラ、ベイシア発祥の地であり、総理大臣を4人も輩出している。経済の発達が起業や大きな志を支えているのだろう。
―高崎店周辺の商業環境は
■山路:高崎渋川バイパスが開通し利便性が高い。東西方向の道路整備が進めば、前橋方面からのアクセスが便利になることを期待している。週末は3,700台の駐車場が満車となってしまう。駐車場対策は今後の課題であり、あと1,000台を確保したい。バイパス沿線の開発にも注目しており、私どもの周辺に商業集積が進むならば連携していきたいし、まちづくりにも貢献していきたい。
―新しい企画の考えは
■山路:FMぐんまで冠番組を放送し、リニューアルオープンや父の日にあわせてキャンペーンを行い好評だった。次のタイミングは七夕の時期を考えており、世界遺産で話題の富岡製糸場をPRする予定だ。県域を対象にイオンモールの魅力を知ってもらえるよう、今年からラジオでのプロモーションを強化していく考えだ。
●イオンモール高崎
運営会社:イオンモール株式会社
開業:平成18年10月
核店舗:イオン高崎店
けやきウォーク前橋
大木 秀春 支配人
―今回、大規模なリニューアルに踏み切った理由は
■大木:法改正により契約の方式が変わったこと。ショップの構成などデベロッパー側の構想が反映しやすくなったのが背景にある。どんな人気店であっても何年も売上を伸ばし続けるのは難しい。テナントとの6年契約の満期を迎えてリニューアルの大きなチャンスだった。しかしリニューアルは諸刃の剣で、抜けた専門店の後継が決まらなければマイナスにしかならない。前橋市内を見ると、ヨーカ堂やサティの閉店のように大型店は厳しい状況に置かれている。スマークの開店で売上が落ち込んだ時期もあったが、影響度合いが少なくなり、今がリニューアルのチャンスだと決断した。イオン高崎店と時期が重なったのは、意識をしたわけではない。
―リニューアルのポイントは何か
■大木:開店時はモールの主軸となるアパレルが弱く、イオンに一日(いちじつ)の長があったと感じている。ファッション系を強化するため、2年前から準備してきた。出店に興味を持ってくれるブランドが数多く、構想に近い店舗配置ができた。1階のファッションブランドに力を入れ、高感度なファッションゾーンとなった。百貨店の客層を狙ったが、手応えを感じている。
―新しいショップに対する客の反応は
■大木:けやきとして高額な商品構成の店も、今回導入した。衣料品を中心に楽器、トラベルなども人気があり良い反応になっている。オープニング時の売上記録を塗りかえた店舗もある。既存のABCクッキングスタジオは県内唯一の店舗で人気店になっている。紀伊国屋書店、無印良品は集客力があり、他のショップへの波及効果も高い。
―商圏をどのように考えているか
■大木:私どもは、前橋及び高崎を中心としたお客様を考えている。客層は幅広く、駅やまちに近いロケーションで学校帰りに立ち寄ってくれる高校生の姿も多い。前橋には大手企業の支店、金融機関、官公庁、病院、学校なども多く、お客様に恵まれている。医療関係のお客様も多い。所得の高い客層をターゲットにした店舗も好調なのは、こうした背景があるからだろう。店内で急病人があった時に、医療関係のお客様が通りかかり対応してくれたことも何度か経験している。地元に愛着を持っているお客様が多く、気に入ってもらえればリピーターになってもらえる。地域に密着し、地元に愛される店として努力したい。
―他のショッピングモールとの競合については
■大木:広域商圏を見ると、太田と高崎のイオン、パワーモール前橋南のベイシア、けやきが4つの大きな核と考えている。立地、客層が違うので棲み分けがあり、均衡を保っていると感じている。お互いの活性化につながっているのではないか。
群馬はベイシア発祥の地であり、やはりベイシアは強い。価格ではベイシア、集客ではイオンが力を持っている。同じ土俵では戦えない。食料品まで踏み込んだら、競合はキリがない。
―これからの展望は。
■大木:ケーズデンキの誘致で対外的な評価も高まっており、デベロッパーとしてこれからも努力していきたい。
住宅地の中にあり、周囲には並木も多いので散歩コースになっており、元気に歩いて来店するシニアのお客様の姿も多い。郊外のSCは週末型だが、けやきは平日の来店が多いのが特徴だ。幅広い層のお客様に支持を受けている。駐車場の確保が課題で、駐車能力を上げないと増床は難しいだろう。
前橋の中心市街地の状況を考えれば、買い物の場として機能を充実させていくことは地域のためにも重要だ。地元や行政と連携し地域貢献にも積極的に取り組んでいきたい。
●けやきウォーク前橋
運営会社:ユニー株式会社
開業:平成19年3月
核店舗:アピタ前橋店