新たな都市集客の時代に突入

目前に迫った都市集客戦略の実現

交流人口が支えた高崎の発展

新たな都市集客の時代に突入

 中山道随一の商都として発展した高崎は、関東上信越はもとより、畿内などからも人が集まり、江戸と見まちがうばかりの繁栄を築いたと言われる。高崎は、歴史的にも人々が集まり行き交う都市であり、ビジネスによる交流人口は高崎の拠点性を読み解く重要な指標となっている。

 都市集客戦略のさきがけともなるビエント高崎新展示会館の建設、高崎玉村スマートICの平成25年度開業、平成26年度の北陸新幹線金沢延伸、新体育館の平成27年度完成など戦略ビジョンの実現が見えてきた中で、高崎のビジネス拠点性と交流人口について考えていく。

高崎駅東口のビジネス拠点エリア

●首都圏のビジネス前線基地

 高速交通網による利便性により、高崎のビジネス集積と拠点性が高まっている。

 群馬県がまとめている「観光入込客推計」を見ると、高崎市に県外から訪れる客数は、群馬県内で最も多い。草津・白根、伊香保、水上など県内の温泉リゾートよりも多く、平日の高崎駅新幹線ホームをスーツ姿が占めていることからわかるように、高崎の場合、そのほとんどがビジネス目的となっている。高崎は、県外からの宿泊客が多いのが特徴で、平成21年度57万6,300人、平成22年度59万4,100人、平成23年度61万9,300人で、年々増加傾向にある。駅周辺やまちなかにホテルが集中して利用しやすく、群を抜いた宿泊能力を持っているのも高崎の特長だ。

 高崎の企業に来訪するだけではなく、高崎を拠点にして県内や近県に足を延ばして営業に回るビジネスマンも少なくない。高崎は、首都圏のビジネス前線基地となっている。

オフィスビル数棟に問屋町と同規模の集積

 高崎駅を行き交うビジネスマンの流れは、高崎駅東口周辺のオフィス街を中心に生まれている。近年はヤマダ電機本社が目を引く存在になっているが、昭和57年頃の上越新幹線開業に伴う駅舎整備と高崎駅東口開発により、エリア一帯のビジネス集積が一挙に進んだ。

 東口周辺のオフィスビルには、駅直近の栄町の数棟だけで約100社が入居し、その大半は首都圏に本社を持つ大企業の支店、営業所となっている。企業数で問屋町に匹敵する。このうち、支店・営業所名に北関東、上信越、群馬など広域的なエリアを掲げているのが約半数。高崎を拠点に広域的なエリアを管轄している支店・営業所が多い。売上面では、やや古い資料になるが、平成19年高崎市商業統計で問屋町全体が1,821億円、栄町が1,082億円。栄町の場合は卸・小売に分類されない業種や、高崎市に計上されない売上も相当額がある。

 バブル崩壊後、高崎から支店・営業所が撤退した時期があったが、現在、東口周辺のオフィス需要は高まり、高崎市が進めている都市集客施設、高崎駅東口線沿線開発に伴い、東口エリアが注目されている。

 問屋町との大きな違いは、東口はデスク機能しか持たず、物流、配送機能はほとんど存在しない。東口オフィス街は紙の上だけで売上げており、物は別の場所で動かしている。前月号会報の特集で、物流拠点としての高崎の可能性を述べたが、東口エリアに集積している企業の物流にも注目する必要がある。

コンベンション施設でさらなる飛躍を

高崎は既にコンベンションシティ

 企業活動に伴う人の流れは商談だけでなく会議や研修、セミナーなど多様だ。コンベンションと言うと、規模の大きな見本市を考えやすいが、県内、近県の販社を集めた製品説明会、ユーザーを集めた技術講習会などは日常的に行われている。

 高崎に生産拠点を置くナショナルブランドの工場では、研修センターも併設し全国から、あるいは海外も含めて担当者を高崎に呼び会議を開いているという話もこれまでの本誌の取材の中で伺っている。

 高崎におけるビジネス活動は、単にセールスにとどまらず、コンベンション分野へと拡大している。東口に高崎市が計画している都市集客施設にはプレゼンテーションルームなどが盛り込まれ、こうした企業活動を後押しし高崎市のさらなる交流人口増加に貢献できる。

 企業は往来しやすい立地、人が集まり易い環境を求めて高崎駅東口を北関東、上信越エリアの拠点として注目している。こうした企業に対し都市サービスを充実させることは、ビジネスの活性化と集客力の増大につながり、地元経済へと波及させていくことができる。

新展示会館は都市集客の試金石

 日本初の卸商社団地として昭和42年に誕生した高崎卸商社街は、高崎を代表するビジネス集積地であり、平成16年のJR高崎問屋町駅開業、地区計画の実施以降、交流、集客にポイントを置いた事業にも力を入れている。

 ビエント高崎展示会館は、大型機械などの重量系の展示会も開催できる群馬県内でも数少ない施設であり、イベントや企業の展示会等に広く使われてきた。築約50年が経過して老朽化が進み、新たな利用ニーズに応えるため、現在、新展示会館の建設が進められている。完成は来年1月を予定し、面積約2,000㎡、天井高10mのアリーナ(展示スペース)を持った施設に生まれ変わる。太陽光発電を前面に配し、デザイン性も高い。あわせてエクセルホールも改修し、装いも新たなコンベンションゾーンが問屋町に誕生する。

 この建て替えは、まさに高崎市の都市集客戦略の先陣となる事業であり、高崎のビジネス拠点性を大きく向上させる。高崎都心部との連携による集客効果が期待され、高崎の交通利便性を活かした展示会、見本市を誘致し、コンベンションによる産業活性化を図る試金石となりそうだ。

交流人口は定住人口にも影響

高崎市の人口は2万人超が流動

 定住人口においても高崎市は、交流性を見ることができる。高崎市は、出生・死亡による自然動態はマイナス、転入・転出による社会動態がプラスとなっており、自然動態のマイナス分を社会動態が上回っていたため人口は増加を続けてきた。群馬県内では、自然動態、社会動態ともにプラスなのは吉岡町で、高崎市、伊勢崎市、太田市が社会動態がプラスとなっているが、多くの市町村は両者ともにマイナスで人口が減少している。

 高崎市は、転入、転出それぞれ年間に1万2千人超が移動し、合わせて2万5千人が毎年流動している。県内からは仕事や住みやすさを求めて近郊の市町村から高崎市に人口が流入している。県外からは転勤によるものが主と考えられ、転出入は、東京、埼玉が多く、時期は4月・5月がほとんどだ。

 高崎市はこれまで人口増加を続けてきたが、平成24年は微減となり、今後の動きを注視しながら、産業活性化を図ることが高崎の都市力の維持に不可欠だ。高崎市内の人口増減は地域差が大きく、都市部近郊で人口が増加している一方、人口減少している地域もあり、産業の拠点性を高めて全市に波及させる必要があるだろう。

もしも交流性がなかったら

 高崎市に交流性が失われると人口や都市の活力に、もちろん大きな影響が出る。

 国立社会保障・人口問題研究所が今年3月に示した「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」で、高崎市の人口は、基準の2010年に比べて4万人少ない33万1,094人と推計された。2040年の人口は、2010年の89.2%となっている。

 仮に、転入や転出など人口の移動が無く、出生と死亡の自然増減だけを要因として人口の変化を見た「封鎖人口」の場合、2040年の高崎市の人口は、31万9,681人となり、移動人口も含めた予測値よりも1万1千人少なくなっている。高崎市は、県内の中で、この差が最も大きく、人を流入させる求心力の維持、拡大が重要であることを示している。封鎖人口の減少幅が小さい市は他市に人が流出してしまう市でもあり、都市間競争が人口の流出入にはっきりと現れる。

ビジネス拠点戦略がカギに

 人口問題研究所は、5年前の前回推計で2005年を基準にした推計人口を示し、2010年の高崎市の人口を36万6千人と推計しているが、実人口は37万1千人で、推計人口を5千人上回っている。高崎駅東口エリアなどの都市開発を進めることで、産業集積が高まり人口減少に歯止めをかけることが期待できるだろう。

 人口減少社会に突入し人口が維持できるのは、東京などの大都市に限られる。地方都市においては、今後、全国で人口減少が加速し高崎市も例外ではない。人口縮小の生き方を選ぶのか、交通利便性やビジネス拠点性を活かした戦略を打ち出すのか、高崎市は重大な岐路に立っている。高速交通網によって2時間で結ばれる高崎の交流人口圏は4,600万人あり、戦略を打ち出せるポテンシャルを持った都市は少ない。高崎の交流拠点性は、一人勝ちではなく、県央や県域に広く波及するもので、交流人口の増加により食や観光など幅広い産業が活性化することにつながる。

高崎を中心に機動力を発揮

北関東道全線開通で利用者増加

 高崎を拠点にレンタカーで県内や北関東、上信越の取引先を回るビジネス需要が増加し、高崎駅周辺はレンタカーの激戦区だ。その中で㈱トヨタレンタリース群馬・高崎駅東口店は稼働が大きく伸びている。

 同店では312台の車両が登録されており、県内でも破格の台数を所有する。稼働率は60%台の後半。乗り捨てなどで車両が戻るまで時間を要することから、稼働率は70%が限界と言われおり、60%台はフル稼働に近い。同店の新井文宏店長は「貸出件数は10年前の約2倍に増えている」と言う。ビジネス利用が全体の7割から8割を占めており、東京や埼玉のビジネスマンを中心に、関西方面からも訪れている。

 朝8時過ぎから来店客が増え始め、新幹線が高崎に到着するごとに、お客の波が押し寄せる。男性1人の利用が多く、利用時間は多くが夕方まで。平均で一日50㎞から100㎞ほど走っている。長野、栃木、埼玉、新潟まで出かけて戻る利用者もいる。

 中には、パンフレットなどの営業資料を宅配便で前日に店舗着で送っておき、本人は身軽で高崎に来るような利用もある。リピーターが多いこともありお客側も利用方法を工夫して手慣れたものだ。

 宇都宮、水戸も同様の傾向にあるが、高崎をスタートして宇都宮で乗り捨てる利用者が多く、同じコースなのに逆回りの使い方はトヨタレンターカーの場合は圧倒的に少ないそうだ。首都圏から見た高崎のイメージを象徴しているようだ。

最新車両をお客様に提供

 高崎で新幹線を降りた後の2次交通が群馬県の大きな課題だ。訪問先が1軒であれば、公共交通やタクシーでまかなえるが、何軒も回りたい場合はレンタカーが使いやすい。カーナビが力を発揮するので、最近は地図がなくても目的地に到着できる。「最新のナビを装備しておかないとお客様に迷惑をかけてしまう」ということで、高崎駅東口店に配備されているのは真新しい車種ばかり。ビジネスマンの経費節減が徹底し利用が多いのは、料金の安い1,000㏄クラスで、今後、長距離で走る場合燃費のよいハイブリッド車の利用を伸ばしたいと言う。

 平日がビジネス客で高稼働なのに比べ週末の利用は減ってしまう。新井店長は、ファミリーなど観光利用ももっと増やしていきたいと考えている。

高崎はもっと伸びるはず

想定よりも低かった高崎の実績

 高崎駅西口の東横インの宿泊者数は1ヶ月約1万2千人で、平日はほとんどがビジネスマン。週末は温泉や観光客、ゴルフ客などが利用している。東京など首都圏からの宿泊者が半数を占め、次いで新潟、長野がほぼ同数となっている。東横インは宿泊に特化し周辺の飲食店等に経済効果を与えている。

 高崎駅西口・宇都宮駅前・アキバ浅草橋駅東口を統括している高崎駅西口総責任者の朝海正裕さんは、旅館で食事から温泉まで全てを1軒でまかなうスタイルから、地元を回遊するような観光に変化していることを指摘し高崎の取り組み不足をはがゆく感じている。

 朝海さんから管轄している高崎と宇都宮両市の客観的な評価を聞くことができた。宇都宮と比較し高崎の宿泊実績は、都市ポテンシャルから想定した数よりも低く、東横インでは、2〜3割程度の客数増加が見込めると考えている。しかし朝海さんは「集客ツールが無いと実現は難しい」と言う。

宇都宮のコンベンション攻勢に軍配

 宇都宮は人口規模や県庁所在地であること、日光などの国際観光地を後背地とすることなどを差し引いても、朝海さんが宇都宮に軍配を上げる理由は、観光イベントやコンベンションのボリューム、ホテルへの情報提供の取り組みの違いだ。「高崎にもコンベンションビューローが必要」と強調する。宇都宮に比べ、高崎は「団体予約が極めて少ない」のが大きなマイナスポイントだ。確かに現状では、高崎に団体の宿泊客が訪れるイベントは少ないと言える。

 もう一点は、夜11時過ぎから格安で宿泊できるミッドナイトプランで、宇都宮に比べ、高崎の利用者は3分の1から4分の1。高崎は夜の人の動きや人通りが少ないように感じられるが、駅周辺の居酒屋などには客が入っており運転代行等の利用による差違かも知れない。

 ホテルにとって高崎は、周辺の買い物や飲食店の情報が少ないので宿泊客の要望に応えてスタッフが独自にマップなどを作って提供したところ大好評となった。インターネットでの発信も含めホテルのロビーを情報発信基地と位置づけ、これから更に充実させていく考えだ。また、宇都宮は宿泊の1割程度が外国人客ということで、高崎も外国人客誘致に力を入れる必要があるだろう。

 朝海さんは「高崎の地の利は高い。企業誘致、観光、コンベンションに力を入れれば集客は伸びる。仕掛けてほしい。高崎駅前の人通りは寂しいと言わざるをえない」と話している。

都市集客戦略が次々に実現

新たな都市集客の時代に突入

 高崎の都心部は広域的な商圏を持ってきたが、郊外店、ショッピングモールの出現により、新たな集客を創出する戦略が急務とされている。高崎は元来"広いエリアからの集客=交流人口"によって存立してきた都市だ。

 人口減少社会に入り、定住人口を補う方策として近年、交流人口が注目されているが、江戸・明治の時代から高崎の先人達は、交流人口の重要さを認識し高崎の発展を築いてきた。中心市街地の商業集積、高崎駅周辺や問屋町のビジネス集積は、高崎の資産であり、この資産をネットワークさせながら、新たな人の流れを創出する方法をなんとか見いだそうとこれまで苦慮してきた。全てうまく行ったとは言い難いが、少なくとも高崎は中心市街地に集客する努力を放棄しなかった。

 これまで構想として描かれた新しい都市集客施設や交通基盤が整い始めた。スマートICから高崎駅東口にかけて新たな産業団地も開発される予定だ。建設が始まる新体育館はスポーツの国際大会やコンサートが行える規模の施設となる。

 こうした事業が一体となって交流人口が創出できる。新産業による経済効果が大きいばかりでなく、交流人口の増大によって多様な購買ニーズが生まれ、それに応える専門店が売上を伸ばし多様な都市文化が育つ。

 さらなる交流人口を高崎に取込むために集客施設は必要だが、その施設を活かすために情報を発信し集客を下支えする「コンベンションビューロー」などはこれからの課題となっており、今後の集客戦略を軌道に乗せられるどうか正念場は目前となっている。

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