物流拠点としての高崎の可能性
高崎市の交通拠点性は、都市力を形成する大きな力となってきた。日本の中央に位置する立地や首都圏、北関東、北信越をつなぐ高速交通網により、国内拠点を置く企業も少なくない。新幹線等による人の移動では優位性を発揮する一方、物流面における拠点性はこれからの課題となっており、高崎玉村スマートインターチェンジ(IC)の開通や、スマートIC周辺に計画されている産業団地が注目されている。今回の特集では物流に焦点を当て、高崎市の課題等を考えていく。
スマートICで注目される物流拠点
これまで高崎市は工業団地に空きがなく、新たに進出する企業に対し、土地を提供する機会を逃してきた。高崎市は、ビジネス立地奨励金制度によって、誘致における競争力を高めており、今後、高崎玉村スマートIC周辺の動向が注目されそうだ。
高崎市の交通拠点性や自然災害の少ない土地柄を十二分に活かし、高崎の産業を発展させるためには、業務機能、物流能力の強化が重要となる。物流拠点の開発には、土地の用途や地価のハンデを補い都市間競争に打ち勝つ戦略が必要となる。
北関東道自動車道全線開通により状況は変化しているものの、戦略的な取り組みを推進することが重要だ。高崎玉村スマートICの供用開始により、物流面において高崎市は、大きな強みを発揮できるだろう。
北関東は国内物流で優位
全国2万社を対象に鉱業、製造業、卸売業、倉庫業の物流実態を調査し、荷主側から貨物の動きをとらえた(小売業、サービス業、個人は除く)物流センサスでは、調査の一つとして、2010年10月19日から21日の3日間調査で、実際の貨物の動きが示されている。
物流センサスの3日間調査では、物流に伴う時間やコストが算出されており、国内物流の中心となる関東、中部、近畿の中で北関東は、時間面、コスト面で、優位な結果が示されている。北関東は、東北から近畿まで、偏り無くカバーできる位置にあり、調査結果でも北関東のポテンシャルが示されている。
物流で利用している県内高速道ICは、輸送重量ベースで群馬発(群馬県から発送される物品)では、館林・伊勢崎・藤岡・高崎・前橋南の順、群馬着(群馬県に運び込まれる物品)では、伊勢崎・前橋・館林・本庄児玉・高崎の順となっている。「最後に降りたインターチェンジ」は、伊勢崎ICが北関東、信越エリアのトップで全国10位、前橋ICも全国27位となっている。
重量ベースなので、利用回数とは異なるが、県内の産業分布や、ICと接続する幹線道路、行き先方面によって使い分けている状況が伺える。群馬から発送される物品は、東毛を中心とした工業団地周辺のICが良く利用されており、また群馬に運び込まれる物品は、国道17号など幹線道路へのアクセスが良いICが利用されている。
輸送が長距離化の時代に
年間出荷量(重量ベース)は全国で減少傾向にあるが、出荷1件当たりの貨物重量は、小ロット化が進み、出荷件数が増加している。
前回の平成17年(2005)調査に比べ、顕著になったのが輸送距離の長距離化だ。出荷1件当たりの輸送は鉱業を除き、全産業で長距離化している。特に卸売業では、これまでの130km台から190kmに伸びている。物流は人の移動とは異なり、100km圏ではなく、もっと足の長いコンパスで移動圏域をとらえる必要があるようだ。
物流は、関東地方や中部地方といった地方内での移動が大半を占め、地方をまたがる移動は関東―中部、中部―近畿など太平洋側を中心としている。関東地方と北陸信越地方の移動量は、関東地方と東北地方の移動量に比べて少なく、東北地方とつながる宇都宮と北陸信越につながる高崎との差に関連してきたのではないかと考えられる。北陸新幹線の金沢延伸により、関東地方と北陸信越地方との交流が活発になり、物流に波及するようになれば、物流における高崎の位置づけも大きく変わってくる。
東日本で、物流に適した場所は北関東であり、その北関東の中で高崎が選ばれるための機能として、高崎玉村スマートICが期待されている。
エスビック株式会社
■輸送が企業の生命線
コンクリートブロック、エクステリア製品の製造メーカーであるエスビックは、国内屈指の生産量を持つ。生産拠点は箕郷、島野、綿貫など高崎市に5工場と茨城県のつくば工場の6カ所で、一日に20万本のコンクリートブロックを生産。原料と製品の輸送で一日に約400台のトラックやダンプカーが稼働している。
ブロック1個の価格は安いものでは100円代から取り揃えており、トラック1台で運べる量は決まっているので、単価や原価率の面から輸送システムの構築は同社60年の歴史の中で、常に最重要課題だった。同社は東日本エリアを商圏としており、柳沢佳雄社長は「物流コストを考えると輸送距離は150kmが限界。数をこなす上で物流が最も重要だ」と話す。
大消費地である東京方面への輸送・販売を効率化するため、昭和46年に県外拠点の第一号として練馬営業所を開設。きめ細かい顧客サービスをノウハウとして蓄積し、他社との差別化をはかってきた。練馬営業所をベースに、流通システムのビジネスモデルを確立し、関東一円、甲信越へと拠点を展開、国内屈指のブロックメーカーに成長した。
■顧客サービスの心臓部、高崎物流センター
エスビックが取り扱う商品は、自社製品のブロックに加え、エクステリア製品や輸入の敷石材など3、000アイテムに及ぶ。平成16年に物流の心臓部として島野町の高崎工場南側に4万4千㎡の高崎物流センターを開設し、機能強化をはかった。「物流センターの方が工場よりも面積が広い」と柳沢社長は物流に力を入れる。
物流センターでは、多品種少量化や迅速な配送を求める顧客からの注文に応え、施工に必要な資材を揃えて翌日に届けられるよう配送準備作業が行われ、仕分けされた商品は忙しくトラックに積み込まれていく。個人宅を施工する工務店からの注文などは、文字通り多品種少量で、ほとんどホームセンターで買い物するような感覚で利用している。しかも施工現場まで配送するサービスの徹底ぶりだ。
本来、こうしたサービスは販売店が行うべきことだが、販売店では極力在庫を減らしているため、メーカーのエスビックにしわ寄せが集まってしまう。エスビックは、こうしたニーズをとらえて顧客サービスにつなげ、「エスビックに頼めば全て揃う」と言われるほどの信頼を築いた。
■他社に真似のできない物流サービス
高崎物流センターは、全商品について1カ月分の在庫を常に備え、生産、在庫、輸送のバランスを調整し、商品の動きをコントロールしている。輸入品など届くまでに一カ月を要するものは、その期間分の在庫を備えている。
物流センターと各県の営業所を結ぶ輸送の動脈と、営業所から客先まで輸送する毛細血管を滞りなく巡らせた物流ネットワークが、同社の強みとなっている。特に客先までの配送体制を商圏全域で確立するには、一定数の車両を確保しなければならない。同社の場合は、商品が重量物のため、積み降ろし用クレーンを備えたトラックが必要だ。リスクを伴ったが、他社にできない戦略を貫徹した。
「都内は地価が高い上に、道路が混雑し、物流拠点には向かない」と柳沢社長は語る。「高価な商品ならまだしも、一本100円代からの商品を置くには、都内ではコストがあわない」と苦笑する。都心を通らずに全国をカバーできるのも、群馬のメリットと言う。
松村乳業グループ
■業界最大規模の物流センター
冷凍・冷蔵食品の製造、卸の株式会社松村乳業は、グループ9社の物流センターとして、昨年11月、新町に「関東物流センター」を完成させた。物流センターは、これまで高崎市内、県内に分散していた倉庫を集約し、敷地内には920坪の冷凍倉庫、50坪の冷蔵倉庫、550坪の常温倉庫を備える。業界最大規模の物流倉庫となっている。
松村乳業は、高崎を中心に北は宮城県、南は愛知県まで展開しており、松村武社長は、関東物流センターを松村グループの物流拠点として位置づけている。
冷凍倉庫内はマイナス20度以下、扱う商品がアイスクリームや冷凍食品であるため、ピッキング室や出荷待ちの保管室も、マイナス20度以下に冷やされている。扱う商品にあわせて温度管理が行われており、常温庫も一定の温度に保たれている。
倉庫棟全体が巨大な冷蔵庫になっており、品質の保持に徹底的に重点を置いている。
■新分野進出を視野に機能化
倉庫内では、防寒衣で身を固めたスタッフが作業を行っている。取り扱い商品は、4千アイテムになり、音声指示で出庫商品をピッキングするシステムなど、最新鋭のIT設備を導入し、作業のスピードアップや安全性向上、誤出荷防止をはかっている。
物流センターでは、新分野への進出を狙った食品加工室を配置し、独自の冷凍食品を開発していく考えだ。大量ロットで仕入れた冷凍食品の小分けや、複数商品を組み合わせたギフト商品など新たな商品を市場に投入していく。インターネットショップも開設しており、昨年暮れは、社員が考案したギフトセットがヒットして夜遅くまで作業に追われていたそうだ。
■東日本大震災がセンター建設のきっかけに
2年前の東日本大震災で物流がストップし、松村社長は「食品卸事業者として、被災地にも食品を供給していくことが使命。物流拠点の備蓄能力も高めなければならない」と強く認識したという。冷凍食品は災害時の備蓄食料としても有効だ。震災時のような計画停電が行われても、扉の開閉を控えれば庫内の温度は低温に保てるので問題ないそうだ。
「これだけの備蓄能力を自社で備えている会社は少ない」と松村社長は自負している。
■半歩でも時代を先取りしたい
松村乳業では、これまでも「まちのアイス屋さん」ブランドを展開するなど、卸売業の枠を越えて業務分野を開拓してきた。飲料メーカー各社の製品を自由に品揃えできる自動販売機も引き合いが多く、ビールなどアルコール飲料とソフトドリンクを組み合わせられるのも、松村乳業ならではのアイデアだ。
調理機能を備えた移動販売車も考案し、「たかさき光のページェント」会場で試験営業したところ好評だった。松村社長は、「半歩先、一歩先を先取りしビジネスチャンスを広げていきたい」と意気込む。
■交通利便性を活かし顧客満足度日本一を目指す
高崎は、関越自動車道、上信越自動車道、北関東自動車道が交差し「物流に不可欠な交通利便性が非常に高い」と松村社長は語る。新倉庫の建設場所は、何カ所か候補地があったそうだが「高崎で創業した会社であり、これからも高崎とともに発展していきたい」と軸足は高崎から離れない。
「食品を扱う企業として、安心、安全、健康の提供を第一とし、既存の事業領域にとらわれず、松村グループのネットワークを最大限に生かして高品質のサービスを提供していきたい」と抱負を語る。顧客への感謝を忘れず、目指すのは「顧客満足度日本一の企業」。
ギャレリア・ニズム
■ショッピングモール開店で打撃
バッグ、シューズ、服飾雑貨を販売する「ギャレリア」は、高崎市と伊勢崎市に店舗を展開し、男女を問わず幅広い世代に支持される人気店だ。1990年に設立し、高崎ビブレのテナントから路面店へと展開、長野哲士社長のセンスあふれる個性的な店づくりで業績を伸ばしてきた。
順調に推移する中、イオンモール高崎、けやきウォーク前橋などのショッピングセンターのオープンが店の売り上げに影響を受けた。路面店の業績が伸び悩む中で、長野社長はギャレリアのスタッフと激論を交わし、インターネットショップ(eコマース)への参入を決断した。「経営資源には限りがあり、一点に集中して力を入れていく必要があった」と長野社長は振り返る。
■楽天でショップオブザイヤー連続受賞
ネットショップに参入後の数年間は、なかなか大きな売上には結びつくことはなかったが、長野社長は「店舗と同じ接客を心がけ、お客様を大切にしてきた」と、顔が見えないお客様に対しても丁寧な対応を徹底した。ホームページ制作のスタッフを増強し、ネットショップに掲載する写真なども工夫、ブランドイメージと情報の質に徹底的にこだわった。
その結果ネット売上の伸び率は大きく推移し、eコマース参入の数年後には実店舗の売上を上回り、会社の業績は平成22年度期と24年度期の比較で倍増。今期は22億円の売上を見込み、その内ネットショップの売上が全体の9割ほどを占める。
現在、ネットショップとして、ヤフー、楽天、アマゾンなどに6店を持ち、2010年、2011年の2年連続で「楽天ショップオブザイヤー」を受賞。「ギャレリア」は、バッグ・ブランド雑貨販売の日本のトップブランドに輝いている。
■駅東口エリアに熱視線
ギャレリアは飯塚町の高崎店を拠点に事業も展開してきたが、ネット売上の伸びに伴い、在庫の商品を抱えるため周辺の空き事務所など複数の場所を借りており、さらには撮影スタジオやホームページ制作部門なども配置している。
商品は3,800アイテムあり、品揃えを重視し、在庫を切らさないようバックヤードを管理している。倉庫だけでも7カ所あり、分散している事業所を統合しようと考えているが、「高崎駅東口エリアに適地を見つけたい」と、長野さんは高崎市が進めている駅東口の開発に注目している。高崎市内にこだわっているのは、現在の社員やパートスタッフが通勤しやすいロケーションを維持したいのも大きな理由であり、会社を支えている人材を何よりも重要視していることが伺える。
高崎玉村スマートICから高崎駅東口にかけて、売場と倉庫を兼ねた新しいスタイルの店舗を作りたいと構想が広がっている。例えば、全国の他のネットショップの人気店にも呼びかけを行い、eコマースと実店舗が連動した新機軸の店舗をこのエリアに大きく展開させたいとのアイデアも持っている。高崎のブランド力につながると夢の実現に向けて一歩を踏み出したい考えだ。
今回の特集では、メーカー、卸、小売り各分野から、高崎における物流の可能性を探った。付加価値の高い物流システムを基盤に競争力を高め、顧客サービスの向上や新たなビジネスモデルの構築につなげて業績を伸ばしている企業の取り組みが伺えた。しかし「高崎の物流ポテンシャルは抜群に優れているのに、地の利を活かしきれていない。東日本の拠点として高崎は優れていると思うが、今後の対応が遅いと他都市に物流拠点を持っていかれる恐れがある」との声も聞かれた。東日本大震災以降、災害に強い物流システムの構築も求められており、高崎のビジネス立地の優位性を存分に活かした都市戦略を、高崎玉村スマートICの供用開始に合わせて打ち出す必要があるだろう。