データで見る高崎市の都市力
高崎市の「尖った」ところは?
■高崎の命運をわける年に
2011年は高崎においても激動の年となった。未曾有の被害をもたらした東日本大震災と東京電力福島第一原発事故による放射性物質漏れで、高崎市の産業も大きな影響を受けた。電力不足やサプライチェーン(原料や部品の仕入れから製造・流通・販売まで製品がたどる全過程)の混乱を乗り越えるため、市内産業界でも経営革新や新たな企業戦略に取り組み、震災を契機にビジネスモデルやライフスタイルの見直しが急速に進むことになった。
高崎市政も24年間にわたる松浦幸雄市長の勇退によって、新人が激突した昨年春の市長選は時代の大きな転換期を印象づけた。激戦を勝ち抜いた富岡賢治市長は、これまでの産業政策の抜本的な見直しと震災対策も盛り込んだ産業振興策を、先頭に立って迅速機敏に実施し、地元企業の活性化へ弾みをつけている。
新しいまちづくりに確かな一歩を踏み出した高崎市は、2012年、都市戦略の新たな幕開けを迎える。今年は、高崎玉村スマートIC周辺開発と高崎操車場跡地の産業集積拠点化、高崎駅東口の都市集客施設建設に向けた動きが加速し、次の都市像が鮮明になってくるだろう。
一方、高崎市の交通拠点性は急速に強化されており、平成23年3月に北関東自動車道が全線開通し、平成25年度には「高崎玉村スマートIC(仮称)」が開設予定、さらに平成26年には北陸新幹線の金沢延伸で、これら高速交通網を利用した高崎2時間圏域の人口は約4,600万人となり国内人口の3分の1にも及ぶ。しかし大きな交流人口の受け皿となる都市機能は、十分に整っているのだろうか。高崎市の優位な特徴を伸ばし、力が足りない分野を底上げしていくことが、発展のカギとなるだろう。高崎市の活力や発展の源泉となる都市力をデータから探り、成長のポテンシャルを都市間の比較から見ていく。
人々が集まる魅力ある都市
■中核市の中でも上位の人口増加率
日本全体が人口減少時代に入った。首都圏への人口集中が進み、地方都市では、限られた人口のパイを奪い合う時代だと言われている。
国立社会保障・人口問題研究所が平成20年に示した将来推計人口によれば、高崎市は、ここ数年が人口のピークで、まもなく減少が始まる。ゆるやかに減少しながら、23年後の2035年の人口は33万人に減少すると予測され、2005年(平成17年)ベースの90.7%になる。
ところが現状を見ると、2005年を基準に予測された2010年の高崎市の人口は36万6千人に対し、実人口は37万1千人で、予測値よりも、なんと5千人も多い。平成22年国勢調査で、高崎市の人口増加数は県内1位となっている。高崎市の人口増加を牽引しているのは転入による社会増加で、平成22年群馬県移動人口調査では、県内で最も多い0.19%増となった。
平成22年と平成17年の国勢調査を比較すると、高崎市の人口増加数は6,433人(1.8%増)で県内1位。群馬県内で人口が増加したのは、35市町村の中で高崎市、伊勢崎市、太田市、吉岡町、榛東村の5市町村だけで、30市町村は減少した。高崎市の人口増加は堅調で、おおむね毎月、プラス基調を維持している。高崎市と隣接する吉岡町、榛東村の増加率も高く、圏域として成長する可能性も示している。
全国の中核市41市の平成17年国勢調査から平成22年国勢調査までの人口増減率では、高崎市の人口増加率は10位となっている。中核市といえども41市の約半数、19市で人口が減少している。高崎市は平成22年度住民基本台帳の対前年人口増加率も中核市の中で5位と、上位に位置している。
■住宅新築戸数県内1位
下落傾向の中でも高い地価
人口増加と表裏一体のデータとして、新設住宅戸数が県内1位となっている。平成22年度は2,923戸で、高崎市では、特にアパートなど共同建ての戸数が高水準で都市型のライフスタイルになっており、群馬県内の約3分の1が高崎市内の住宅になっている。
また、高崎市は、商業地、住宅地の県内最高価格地点となっている。平成23年地価公示で、商業地は、高崎駅西口前の「八島町63番地1」が1㎡38万7千円、住宅地は、「柳川町147番3」が10万2千円で、県内最高価格だ。地価の下落傾向が続く中、高崎市では県内で唯一、下げ止まり感もあった。リーマンショックで下落感が強まったが、優良な宅地としての地価水準を保つエリアもある。
工場誘致においては、高い地価はマイナス要因となっていたが、全国的にも誇れる企業誘致制度の実施により、高崎市の競争力は一気に高まったと言えるだろう。
■優れた都市インフラ・交通拠点性
交通網の優位性は、高崎市の大きな強みでJR線、道路網とも高水準にある。平成22年JR東日本の資料では、高崎駅の1日平均の乗降客数が2万7,443人で、拠点駅の乗降客数は、中核市41市中8位となっている。高崎駅は、群馬県で最大の集客施設となっている。市内のJR各駅乗降客総数は中核市の中で10位となり、高崎はJR7駅と設置数も多い。
また、高崎市は、道路整備が高水準で、平成22年4月1日現在の国道・県道・市道の総延長は4,514kmで県内1位。幹線に加え、特に生活道となる市道の総延長が長く、中核市41市の中で2位に位置している。
関越自動車道、上信越自動車道、北関東自動車道、上越新幹線、北陸新幹線の高速交通網と、国道17号、18号、東毛広域幹線(354号バイパス)など高崎圏域の広域交通網は、高崎の都市戦略を支える都市インフラとなっている。一方、群馬県の物流機能は、関信越地域の中では弱く、これまで高崎市が交通網の優位性を十分に活かしてきたとは言えない。「高崎玉村スマートIC」周辺で計画している産業団地は、高崎市はもとより群馬県全体の流通機能を高める上でも、重要と言えるだろう。
特色のある県内最大の産業都市
■経済規模は県内1位
平成21年経済センサスでは、高崎市の民営事業所数は1万8,542事業所(平成18年度比105.4%)、従業者数は17万4,950人(同比102.9%)で、群馬県内で1位となっている。
産業別では、「卸売・小売業」、「宿泊業・飲食業」、「医療・福祉」が事業所数、従業者数ともに県内で最も多く、製造業は太田市に次ぐ2位となっている。
全産業の生産活動の総量を示す市町村民経済計算(平成20年度)で、高崎市は、総生産1兆1,660億円、市町村民所得1兆1,440億円で県内1位となっている。全中核市のデータが公表されていないものの、41市の中では中位と推計できる。
■食品・化学工業出荷額が県内1位
平成22年群馬県工業統計で、高崎市の工業出荷額は6,938億円で太田市、伊勢崎市に次ぎ3位。中核市の中では、平成20年工業統計値で、高崎市は41市中17位となっている。高崎市は、食品工業と化学工業が強く、出荷額で県内1位になっている。
高崎市における食品工業の集積では、ナショナルブランドの「ケロッグ」、「ハーゲンダッツ」、「第一屋製パン」、「東海漬物」、「加ト吉水産」、「クラシエフーズ(元カネボウ)」、飲料では「大塚製薬」、地場企業では、「高崎ハム」、「ガトーフェスタハラダ」、「ハルナビバレッジ」、「オリヒロ」などが挙げられる。ケロッグもハーゲンダッツも国内唯一の生産工場で、高崎ブランドと言える。平成23年8月から、高崎森永第一工場が稼働、高崎操車場跡地では、ガトーフェスタハラダの新工場計画が進み、さらに食品工業が高崎の特徴的な産業となりそうだ。化学工業では、国内有数の化学工場「群栄化学工業」が大きな存在となっている。
■ナンバーワン、オンリーワンの個性派企業
高崎市には、先端産業や高度な専門技術で全国展開する企業も数多い。「小島鐵工所」に見られるように、高崎の産業には長い伝統も備わっている。先端産業では「日本原子力開発機構高崎量子応用研究所」、バイオテクノロジーと抗体医薬の「協和発酵キリン高崎工場」、が挙げられる
燃焼技術の世界特許でグローバルに展開する「キンセイ産業」、鉄道車輌用ジャンパ連結器で日本一の技術を持つ「ユタカ製作所」、リコイルスターター国内シェア8割・世界シェア5割の「スターテング工業」、醸造プラント国内シェア9割の「三宅製作所」もオンリーワンのものづくり企業だ。「エスビック」はブロック・エクステリア資材、「IPF」は自動車照明の全国ブランドとして揺るぎないポジションを確立している。
また東日本大震災の大津波から、釜石市内の児童、生徒を救った「釜石の奇跡」の裏には、防災コンサルタントとして国内トップ水準の「アイ・ディー・エー」の活躍があった。
こうした企業は枚挙にいとまがなく、高崎市は、独自技術を誇る企業が集積する「ものづくりシティ」といえそうだ。
さらには北京オリンピックで活躍した「ルネサスエレクトロニクス高崎」、「太陽誘電」のソフトボール部も高崎市の誇りだ。
■駅周辺エリアに業務機能が集積
平成19年群馬県商業統計で、高崎市の小売業年間商品販売額は4,268億円で県内1位。卸売業販売額は、前橋市に次ぎ、1兆3,201億円で2位。小売と卸売を合計した商品販売額合計は、1位前橋市2兆3,824万円、2位高崎市1兆7,470億円となっている。なお、平成19年は「ヤマダ電機本社」の高崎移転前となる。
地方都市では中心市街地の活力が衰え、駅周辺の大型店撤退が課題となっている。高崎では、「スズラン高崎店」、「高崎髙島屋」、「高崎ビブレ」、「高崎モントレー」、「ヤマダ電機LABI1高崎」の5店の大型店、百貨店がまちなかに存在し、全国的に誇れる商業力を示している。
卸売業の販売額では、高崎駅東口エリアが問屋町とともに大きなシェアを持ち、こうしたオフィス街区は、高崎の他には県内に存在しない。これからの東口周辺開発によって業務機能の集積をはかることは、高崎の既存インフラを活かした政策であり、ビジネス全体を大きく底上げするだろう。
中核市の中では、卸売業の販売額は41市中8位、小売業は17位、卸・小売合計で9位となり、上位に位置している。
■医療・福祉が成長分野に
平成21年経済センサスで示されたように、高崎市の医療・福祉関係の事業所数、従業者数は、県内1位になっている。医療・福祉は、平成18年の前回調査からの伸び率も高崎は大きく、成長分野になっている。
医療機関だけの数では、前橋市が県内1位で、高崎市内に公的病院が少なかったことは長きにわたる行政課題だった。15年前の調査では、高崎市の入院患者の3割は、前橋市の病院に行っている実態が報告されている。国立高崎病院が建て替えられ、平成21年に高崎総合医療センターとして救急医療や小児医療が大きく前進した。
高崎市の病院数は28で中核市41市の中で22位、診療所数(平成22年)は341で21位。医師数(平成20年)は、731人で35位。人口10万人当たりの医師数は197.4人で中核市の中で32位。人口10万人当たりの病床数は1,094.8床で中核市の中で34位、中核市の平均1,579床に比べ約500床少ない。
高崎市の歯科は診療所、医師数とも群馬県内1位。診療所数(平成22年)は207で、中核市の中で23位。歯科医師数(平成20年)は295人で22位。人口10万人当たりの歯科医師数は79.7人で12位となっている。
高崎の場合は、「まち医者」的な身近な診療機関が充実し、市民の健康を支えている一方、人口に見合う病床数が不足していると思われる。人口増や都市基盤など高崎の産業ポテンシャルが高いことは、医療ビジネスにとっても潜在需要が大きいことを示している。
■高崎産食材のブランド化
平成22年農業センサスで、高崎市の果樹農家数は1,137戸で群馬県内の4分の1以上、果樹園面積は6万9,635アールで群馬県内の3分の1以上を占める。
平成18年政府農林水産関係市町村データで、高崎市の梅の収穫量は年間6,310トンで、和歌山県みなべ町、田辺市に次いで全国3位となっている。
畜産では、高崎市の豚モツの出荷量は全国でも屈指。モツは肉の副産物で、統計には表れてこないが、およそ年間3,000トンの豚モツを出荷すると言われる。牛モツも群馬県内のほぼ100%が高崎で扱われ、食肉関係者によれば「モツの取り扱い量は日本一」と話している。
高崎産の農産物を全国に浸透させるため、高崎市は都内での即売会を実施するとともに、首都圏のレストラン、国内最大の飲食サイト「ぐるなび」と連携し「高崎ブランド」の発信に取り組んでいる。群馬県の知名度やブランド力は、全国最低水準であることから、観光誘致や都市集客の面でも、飲食、特産品のブランド化は、都市イメージにもつながり、今後ますます重要な分野となるだろう。
市民生活・都市文化も高水準
■子育て環境が上位、教育環境も個性的
子育て環境では、高崎市内の保育所は、平成22年4月現在で、市立21、私立62の合計83所、入所者数は7,863人。人口に対する整備率では、保育所数が中核市の中で7位となり高い水準を示している。また市民一人当たりの都市公園面積は中核市41市の中で1位になっており、潤いのある都市環境となっているようだ。
高崎市の自校方式による学校給食は全国に誇る取り組みで、地産地消を推進するとともに、JAたかさきと共同で「高崎しょうゆ」、「高崎ソース」などを開発している。
公立図書館の蔵書数は104万1,982冊で中核市の中で11位。市民100人当たりの蔵書数は284.1冊で、第6位となっている。
■芸術文化の創造が活発
群馬交響楽団は、1945年(昭和20年)に誕生した日本初の地方オーケストラ。楽団員約70人で地方都市のオーケストラとしては国内トップレベル。高崎マーチングフェスティバルは、ストリートで行われるマーチングフェスティバルとして国内最大級。
高崎映画祭は、全国141の都市映画祭の中でも歴史があり、毎年の開催で表彰式があり開催期間、上映作品数など規模も大きい。四半世紀続き、映画界から注目される全国有数の映画祭だ。高崎映画祭とともに、コミュニティシネマ「シネマテークたかさき」も年間約160作品を上映し、個性的な活動を行っている。
高崎音楽祭、高崎マーチングフェスティバル、高崎映画祭と、一つの都市で市民による複数の芸術フェスティバルが毎年開催されている地方都市は全国でも少ない。
■県内最大の大学集積都市
高崎市内には、「群馬パース大学」、「上武大学」、「創造学園大学」、「高崎経済大学」、「高崎健康福祉大学」、「高崎商科大学」の6つの大学、「高崎健康福祉大学」と「高崎商科大学」の短期大学部、「育英短期大学」、「新島学園短期大学」の4つの短期大学があり、学生数は約1万人となっている。国立大学は無いが、県内で最も大学が集積している。上武大学は箱根駅伝4年連続出場で、高崎市の知名度アップに貢献している。
編集部の調べで国立大学のある宇都宮市は、大学数は8校、学生数は9千人、長野市は、大学数は5校、学生数は約5千人で、高崎市の集積規模は大きい。
潜在力を具現化する都市戦略
今回の都市データは高崎市の多様な可能性を示しているが、明確に都市の個性を打ち出せないと、都市間競争に埋没してしまうだろう。個性や魅力を表現する流行語で言えば、高崎市の「尖った部分」を作っていくことが都市戦略だ。
高崎市には、歴史をかけて蓄積・形成された都市基盤がある。近代以降、時代に応じた都市ビジョンが描かれ、産業創出やインフラ整備が先人によって行われてきた。現在の高崎の都市力は先人が残した資産であり、それは高崎市の潜在力を引き出す作業だった。前橋市との複眼構造の中で、高崎市が県内トップの都市力を目指してきた経緯は否めないだろう。都市間競争が広がれば、都市機能も知名度も高い都市が、目の前に現れる。例えば宇都宮市のような強力なライバル都市との競争の中で、高崎市が存在感を示し、選ばれるための戦略として「集客都市」構想が示されている。交通利便性、業務機能、芸術文化の集積など高崎の潜在力に立脚し、都市機能や産業の強化育成が期待されている。
■群馬県立女子大学 熊倉 浩靖 教授
人口減少が声高に叫ばれるが、大都市と地方圏の中枢都市では人口増が続いている。選ばれる都市が明確になり、選ばれた都市間の競争が始まった。高崎は、人が集まり多様な産業・文化を発信する「選ばれる都市」に入った。それだけに3つのことが大切だ。第1に交通事故死傷者数やごみ排出量の多さなどを早急に解消すること。多様な市民参加を通して短所を解決しないと「選ばれる都市」から脱落する。第2に「選ばれた都市」としての高崎の基本が交流拠点性にあることを再認識し、他地域との交流による拠点性をますます高めていくこと。第3に小学校区などを単位とする都市内各地域の地域力を「学び」と「集い」を通して高めること。特に企業の社会参加が強く望まれていることを意識したいものだ。
■高崎経済大学 味水 佑毅 准教授
高崎市では都市インフラ、商業、工業、教育、暮らしの分野で平均的に上位に位置づけられており、工業、医療の誘致をはかれば高崎市の全体的な競争力が上がるだろう。「高崎と言えば、これ」と、小さな市場でも良いから全国1位になることが都市には重要で、高崎市にはその基盤がたくさんある。
ワークライフバランスを地方都市で実現するのは難しいが、素地ができている。1万人の学生は卒業すれば全国に巣立ち、高崎の広告塔になる。積極的に活用する取り組みも重要だ。人口の社会動態による増加は、高崎市の成長の可能性、のびしろを示している。住宅、医療、教育をパッケージにした企業誘致が提案できればおもしろい。県内ダントツをもっとアピールしていい。
■高崎経済大学 味水 佑毅 准教授
高崎市では都市インフラ、商業、工業、教育、暮らしの分野で平均的に上位に位置づけられており、工業、医療の誘致をはかれば高崎市の全体的な競争力が上がるだろう。「高崎と言えば、これ」と、小さな市場でも良いから全国1位になることが都市には重要で、高崎市にはその基盤がたくさんある。
ワークライフバランスを地方都市で実現するのは難しいが、素地ができている。1万人の学生は卒業すれば全国に巣立ち、高崎の広告塔になる。積極的に活用する取り組みも重要だ。人口の社会動態による増加は、高崎市の成長の可能性、のびしろを示している。住宅、医療、教育をパッケージにした企業誘致が提案できればおもしろい。県内ダントツをもっとアピールしていい。