インターチェンジ周辺開発の展望
前橋南IC VS 高崎・玉村スマートIC
北関東自動車道の全線開通、東毛広域幹線道の高崎・玉村町間の暫定開通によって、高崎市の交通インフラが進展し平成25年度の高崎・玉村スマートICの完成に向けた期待が高まっている。
高崎市の新たな都市拠点となる高崎・玉村スマートIC周辺整備計画の具体化が待たれる中で、前橋、高崎、玉村、伊勢崎を巻き込んだ商業環境の変化が加速してきた。
前橋南IC周辺に「㈱ベイシア」が開発を進めている「パワーモール前橋みなみ」の第二陣が姿を現し、会員制大型小売店「コストコ前橋倉庫店」の進出などが大きな話題になっている。これらは高崎商圏にも重なり動向が注目されている。インターチェンジによる広域的な集客力や今後の地域経済への影響を前橋南IC地域と高崎・玉村スマートIC地域を例に考えていく。
前橋南IC周辺に高崎の商圏を脅かす商業施設が出現
大激戦区の前橋・伊勢崎地域
北関東道、高崎駒形線沿線の前橋、伊勢崎地域は、ショッピングモールの大激戦地と化した。前橋市は、「けやきウォーク前橋」、「クロスガーデン前橋」、伊勢崎市では「ベイシア西部モール」、「スマーク伊勢崎」、「ハイパーモールメルクス伊勢崎」と、商圏が重なり合う中に、「パワーモール前橋みなみ」が出現した。オーバーストアとも見られる激戦区の様相を呈している。
ショッピングモールの形態には「イオンモール高崎」のように一つの建物の中に小売店が計画的に形成された集合商店街の形態と、街区敷地内にスーパー、ホームセンター、家電店などが別棟で出店する形態がある。また「ベイシア西部モール」のように、核施設周辺に集客効果を狙った非系列の単独店も集積し、モール街が拡大していくケースもある。
「パワーモール前橋みなみ」は、第1期オープン済みと第2期オープン予定を合わせ16店の出店が示されており、それぞれが別棟で連立している。前橋南ICを抱き込み、高速道インターチェンジに張り付いた大規模商業施設としては、群馬県内では初めてのケースとなる。高崎市東部や東毛広域幹線道からのアクセスも良く、高崎・玉村スマートIC予定地から直線で3km、高崎駅東口まで車で約20分の距離にある。大型スーパーの少ない高崎市東部地域にとっても、非常に便利な商業施設である。
パワーモール前橋みなみ
「パワーモール前橋みなみ」は前橋市の拠点施設
「パワーモール前橋みなみ」は都市計画に基づく開発で誕生した。前橋市は前橋南IC周辺の126ヘクタールを「前橋南部拠点地区」と位置づけ、このうち北関東道南側の流通ゾーン49ヘクタールについて、「㈱ベイシア」を開発代行業者とする区画整理事業として整備されている。「パワーモール前橋みなみ」の西側エリアは居住ゾーンとして、一体的な住宅団地が形成される計画だ。
前橋南部拠点地区には、「群馬産業技術センター」、ベイシア本部となる「ベイシアビジネスセンター」があり、インターチェンジ活用型の「流通・研究開発拠点」として位置づけられている。前橋市では、県庁・前橋市役所?中心商業地?前橋駅周辺の「都心核」を支える「地域核」として、集客力による「都心核」への波及効果に期待している。今回の開発が、前橋市の都市戦略として進められていることも見逃せない。
高速道のインターチェンジを活用した先行事例では、同じ北関東道の宇都宮上三川ICに「インターパーク宇都宮南」があり、ショッピングモールと住まいを複合させた開発として形態が似ている。
高速道のインターチェンジを活用した先行事例では、同じ北関東道の宇都宮上三川ICに「インターパーク宇都宮南」があり、ショッピングモールと住まいを複合させた開発として形態が似ている。
「パワーモール前橋みなみ」を含む一連の開発整備は、「前橋・高崎地方拠点都市地域」として、前橋市、高崎市、伊勢崎市、藤岡市、玉村町が協働して県央地域整備に取り組むため、平成6年に群馬県知事の認可を受けた都市整備で、前橋南部地区の他に、高崎市の高崎駅周辺地区、高崎操車場跡地周辺地区、高崎複合産業団地も含まれている。
前橋南IC周辺開発については、過去何回か、大規模商業施設の計画が浮き沈みしてきた。現在では「まちづくり三法」で、延べ床面積1万㎡を越える郊外型大型ショッピングモールの開発は、都市計画法で定められた商業地域、近隣商業地域、準工業地域の三つの用途地域のみに出店を許可しており、その他地域への出店は禁止している。前橋市は前橋南IC周辺を用途変更して開発しているので規制の対象にはならない。
一方、高崎市は平成20年に国から中心市街地活性化基本計画の認定を受けて、準工業地域においても大規模集客施設の立地制限を行っており、市内では郊外型の1万㎡以上の集客施設の進出はできない。都市計画の考え方が前橋とは異なっている。だが、市境近くの大型ショッピングモールに高崎商圏が吸引される危惧は否定できない。
パワーモール前橋みなみ/コストコ前橋倉庫店
今までに経験したことのない「コストコ」の売り方
「パワーモール前橋みなみ」は、昨年12月に「ベイシアスーパーセンター」、「カインズホーム」、「ベイシア電器」、「オートアールズ」、「GAP」、「auショップ」、「パーネデリシア(ベーカリー)」、「丸亀製麺」がオープンし、この段階で商圏を10km ・63万人と想定されていた。
今年8月に第2期として、「コストコ前橋倉庫店」、「ワールドスポーツ」、「PCデポ」、「蔦屋書店」、「マクドナルド」、「スターバックスコーヒー」、「サイゼリア」、「ABC-Mart」がオープンし、商圏はさらに広がり15km・100万人と見込んでいる。
第1期はベイシア系の店舗を中心に展開し、第2期はコストコの北関東エリア初出店、蔦屋書店は全国1400店の中で最大級と力が込められたビジネスモデルだ。
会員制大型小売店の「コストコ前橋倉庫店」では、既に6月から入会申し込みを受け付けており、「商圏は15kmと考えていたが、30kmまで広がっている。手応えがあり、予想以上の入会がある」と話している。前橋、高崎を中心に県内一円、長野、栃木、埼玉からも会員が集まっており、集客にインターチェンジ至近の立地が存分に活かされている。「入間倉庫店と商圏が重なるだろう」と、集客力は県外にも及び想定は広域だ。すでに入間店の会員となり、定期的に買物に出掛ける高崎市民も多い。
コストコは、前橋倉庫店が国内10店目で、店舗規模や品揃えは既存店とほぼ同じで4000アイテムを予定している。「パワーモール前橋みなみ」への出店については「全国展開をめざし、出店場所を探していたところ、条件のあう場所として出店を決めた」と理由を話している。ベイシアスーパーと接している競合については「年会費を払って買い物をしていただくので、ここでしか手に入らない商品、まとめ買いをする外国スタイルの買い物を楽しんでもらうのがコストコの魅力だ。お客様の滞在時間も長いと思う。スーパーで売っている商品も扱うが、それぞれスタイルが違うのではないか」と言う。
パワーモール前橋みなみ/PCデポ・ワールドスポーツ
ショッピングモールの進化形
「パワーモール前橋みなみ」について、高崎商工会議所小売部会長の根岸良司さんは「第1期を既存の形態とすれば、第2期はコストコの出店によって、ショッピングモールの今までにない進化形になっている」と感じている。
自然発生的に形成された既存の商業集積に対し、郊外のショッピングモールは、一つの巨大な建物の中で、凝縮された人工的な商店街として形成されてきた。それゆえにテナントの構成がショッピングモールの魅力を左右し、テナント間の競争、入れ替わりも厳しさを増す。ショッピングモールとコストコのドッキングは、今までの県内のショッピングモールでは考えられなかったパターンであり、「商業環境が変わっていることに対するショッピングモール側からの一つの回答だろう。さらに、ショッピングモールがこれからどう変わるか未知数だ」と警鐘を鳴らす。
「イオンモール高崎」、「パワーモール前橋みなみ」などによる、既存商業への影響を実測するのは難しいが、「あれだけの規模の商業施設ができて、影響を受けないはずがない。ボディブローのように効いてくるのは間違いない」という根岸さんの見方は、市内商業者に共通する考え方だろう。前橋市に本拠を持ち、高崎市内にも店舗展開していた中堅スーパーの「ヤナイストアー」が7月28日に営業を停止し、「欧米のようにスーパーの寡占化(一極集中化、独占化)が日本でも進むのではないか。地場の中小商業者の居場所が無くなる」とも指摘する。
中心商店街もサバイバル戦略を
ショッピングモールの集客力を注視する一方、「販売しているのは、プライベートブランドに見られるように、日常生活の必需品が主流」と根岸さんは言う。コモデティ化(商品間の差別化特性がうすれ、主に価格あるいは量を判断基準に売買が行われる)とオーバーストアは、価格面で消費者を刺激するが、「満足度を求める消費者のライフスタイルにどう組みこまれるのか注目していきたい」と根岸さんは話す。「パワーモール前橋みなみ」の手法が、消費者にどう判断されるのか、また、スクラップアンドビルドが必要になった時にどう対応するのか「今、ここで性急に判断することは難しいだろう」とも言う。
小売ビジネスの要因として、立地による集客力、時流に沿った商品や販売手法が指標の一つになるが、「パワーモール前橋みなみ」は、田園地帯を一変させる開発によって、人工的に作り出された商業集積を創出した。「中心商店街は立地を変えることはできない。消費者のニーズをつかみ時流にあった販売技術を磨かなければ生き残れない。集客面での取り組みは、極めて重要になる」と根岸さんは指摘する。
広域的な業務機能の集積と新産業の創出を
国道354高崎・玉村バイパス(東毛広域幹線道)玉村まで暫定開通(6月12日)
では、高崎・玉村スマートICの位置づけは
高崎市が、これまでに示した計画では、本市を広域業務都市と位置づけ、高崎・玉村スマートICと高崎駅東口を結ぶ高崎駅東口線(東毛広域幹線道・国道354号高崎玉村バイパス)の間を新たな都市軸として、産業副都心の形成が示されている。
現在、高崎市は、東日本大震災で、高崎市の位置づけが変わってきていることなどから、計画の見直し作業を行っており、富岡市長が政策として掲げてきた、首都圏のバックアップ機能なども盛り込まれる可能性がある。本特集では、都市集客施設も含め、高崎駅東口線の都市軸に沿った高崎市の計画について触れる予定だったが、計画見直しにより発表が延びているため後報としたい。
しかし、業務機能を中心とした産業副都心の位置づけは変わっておらず、前橋南ICが小売業を核とした拠点開発であることに対し、高崎の新産業副都心は、卸売や物流、工業を中心とした開発を行っていく方針に変更はないようだ。
平成25度中の供用開始予定
6月12日に、国道354号高崎玉村バイパスの前橋長瀞線(綿貫町)から与六分前橋線(玉村町上新田)までの2.8kmが2車線で暫定開通した。これによって、高崎駅東口から高崎・玉村スマートIC予定地が結ばれ、スマートIC建設に必要なアクセスが確保された。国道354号高崎玉村バイパスとスマートIC進入路交差点を整備するため、市道東部幹線と交差する部分を立体化するほか、スマートIC整備に伴い、地域内の通学路の歩道やIC側道部の緑地帯など東部地域の環境づくりも実施する。
高崎市は、高崎・玉村スマートICの建設について、平成23年度中に着工し東日本大震災による計画への影響はないと言う。
高崎駅東口駅前広場を再整備
高崎駅東口駅前広場も再編成
また、高崎市は、高崎駅東口駅前広場の再編整備計画よるレイアウトを5月に示し、今年12月完成、来年1月から供用を始める予定だ。
高崎駅東口のペデストリアンデッキや新駅舎整備が行われてきたが、東口駅前広場の完成によって、ペデストリアンデッキ工事の一部を残すものの、東口エリアの全貌が概ね見えてくる。
東口駅前広場は、朝のラッシュ時に、公共交通、一般送迎車両、スクールバスで混み合い、それぞれを分離することが、大きな課題だった。新しい駅前広場の整備方針では、「歩行者動線と車両動線の分離」、「一般車と公共交通の分離」などが示されている。広場北側のヤマダ電機前は、高崎・玉村スマートICとともに計画されてきた高速バスターミナルが設けられている。
高崎駅東口線の高崎・玉村スマートICと高崎駅東口の区間は、公共車両優先システム(PTPS)を導入し、バスの定時運行を確保するための優先信号制御を行う予定だ。
埼玉県北から群馬県央の拠点機能
高崎・玉村スマートICは、高崎市の広域業務機能のゲートウェイであり、高崎都心部へアクセスするパイプラインであって、その効果を高崎市の産業全体へと波及させることを大きな狙いとしている。高崎都心部・新幹線と高速道路を直結し、高速交通網を活かした高崎の都市戦略を担う施設として位置づけられる。
高崎商工会議所では、昨年高崎市への提言書の中で、「高崎・玉村スマートICの建設を契機に、高崎の都市軸を東に伸展させ、広域的な業務機能の集積や新産業の創出を図ることが高崎市全域の発展に必要である」と指摘した。高崎市が狙う「高崎新産業副都心」の開発・整備は、新潟市、さいたま市、宇都宮市、長野市などと都市間競争をする上で基盤となるものだ。
前橋南IC周辺開発や本庄新都心地区の開発は、確かに高崎の競合相手、ライバルともなるが、埼玉県北部から群馬の県央地域が個性や立地を活かし、一体的に発展することで高崎の拠点性がさらに発揮されることになる。東京から見れば、前橋南も本庄も高崎も同じエリアであり、むしろ高崎は、高崎、前橋南、本庄というトライアングルの要としての役割を果たすという視点で、今後の都市戦略を描いていくべきである。