対談/富岡市長・原会頭
原浩一郎・高崎商工会議所会頭
富岡賢治・高崎市長
4月に行われた市長選挙で初当選を果たした富岡賢治市長と原浩一郎会頭が、これからの高崎について語り合った。東日本大震災から3か月が経ち、高崎でもさまざまなところで風評被害や二次・三次被害が出始めている。この難しい時代に、高崎市のけん引役となった富岡市長には、市内経済界から期待が高まる。対談では、震災への対応、観光や文化振興など高崎のこれからについて示唆に富んだやりとりが行われた。
市長就任にあたって
原会頭(以下会頭)市長ご就任おめでとうございます。高崎市は三度の合併によって人口は1・5倍、面積は4倍になり、群馬県随一の都市になりました。富岡市長のこれまでの長い行政経験を活かして、今まで以上に幅と厚みのある高崎市にしていただきたいと市内の経済界全体で期待しています。
富岡市長(以下市長)ありがとうございます。当選が決まったその時は、多くの皆さんにお世話になって感謝の気持ちばかりだったのですが、翌日になったら「急いでやらなければならないことが沢山あるな」という気持ちが湧いてきて、緊張感に変わりました。色々な人の意見をじっくり聞いてから施策を形作っていくという手法もあるのでしょうが、スピード感を持って取り組んでいきたいと考えています。
大震災と原発事故への迅速な対応
会頭スピード感というお話しでは、東日本大震災に関連して、影響のあった中小企業者に対する震災対策資金融資制度や雇用相談助成制度の新設など緊急対策を取っていただきました。迅速な対応にお礼を申し上げます。
市長震災の影響は高崎にも押し寄せ、風評被害や二次・三次被害の影響も出始めています。しかし、被災地における復興支援と違って、国の支援はあまり期待できません。その対応策をヒアリングなどと並行して、できる施策はどんどんやっていこうと思います。 特に農業における風評被害は深刻です。正確なデータをしっかりと出して風評を跳ね返すことが大事です。
会頭市長がおっしゃるとおり、被災地の復興とは異なりますが県内も大きな問題を抱えています。例えば、群馬県は国内で3番目に酪農が盛んなところですが、仮に牧草が風評被害を受けるようなことになれば県内の酪農業は大変な打撃を受けることになります。すでに先入観だけでも、県産和牛の価格が下がっていると聞いています。
市長中小零細企業への対応策も早急に詰めなければならないと考えています。まずは企業へのヒアリングを実施し実情を把握しなければなりません。机の上だけで考えていても駄目ですから、あらゆる業種に手分けをして聞き取りをしていこうと考えています。これも片手間でなく専従チームを編成し「震災影響対策室」を新設しました。
また、やや改善されてきていますが、一部の工業製品では残留放射線量証明書がないと輸出ができないような事態も起こっています。そうしたことに対しても市として積極的に支援していかなければならないと考えています。
会頭市長もご存じだと思いますが、日本は企業数で99・7%、従業員数で70%が中小零細企業です。ここに光が当たらないと日本は良くならないわけです。今後震災の影響で倒産するような企業が万一出てくることも想定されますので、更なる金融面での支援をお願いいたします。商工会議所では高崎市による小口資金の制度融資を取り扱わせていただいておりますが、3月と4月の昨年比の利用状況は、3月が件数・金額で130%、4月が件数で150%、金額で170%でした。これだけ資金需要が増えており、経営状況の厳しい企業が急増したと痛感しています。
市長全業種のヒアリングを一斉に行うには時間が掛かってしまいますので、まず緊急性の高い課題から取り組んでいきたいと考えています。是非、会頭にも協力していただきながら早急に進めていきたいと思います。
先ほど申し上げた専従職員によるプロジェクトチームには経済界からも加わっていただきたいと思います。例えば、製造業界から6?7名のアドバイザーを推薦していただいて、その方々の意見を聞きながらヒアリングを行うことができれば、具体的な成果を上げていけるのではないかと考えています。
会頭是非、商工会議所をご活用ください。民間のことは民間が一番よく知っていますから、お役に立てると思います。
集客力のある都市であるために
司会地域経済の中で、会員企業がこれから先にどんな不安を抱えているのでしょうか?
会頭一番心配なのは、消費の落ち込みだと思います。3月、4月に比べるとやや回復はしておりますが、心理的には冷え切っていると思います。高額商品を始め当分買い控えムードが続くかもしれません。しかし、高崎は、農商工のバランスが比較的良く取れている産業構造になっておりますので、今回のような事態に際しては地域全体として見ると被害が少ないと言えるでしょう。
市長商業ということでは、以前「商工たかさき」で拝見したのですが、高崎を訪れる日帰り客が使うお金が平均3800円であるというデータがありました。同じ北関東の他都市と比べても低くはないのですが、一方で高崎駅周辺に宿泊している中国からの団体客が朝を迎えると軽井沢のアウトレットへ直行しているという話もありました。食事も買い物も全て軽井沢。これにはショックを受けました。だからといってアウトレットを作ればいいという話ではありません。現状の街なかを魅力的な消費地に繋げられるかが重要だと考えています。
会頭栃木県のシンクタンクによると北関東道が全線開通したことで栃木県内の観光関連業者が危惧していることは、群馬県だけではなく長野県も日帰り圏になってしまうことだそうです。残念ながら、群馬県は通過点としてしか見られていないというのが実情です。通過県で素泊まりの街では困ります。県も市も他にない特色を持つ必要性を感じます。
市長高崎の良さを発揮していくには、文化活動や観光振興をプラスしていくことが必要ではないでしょうか。常に何か面白い話題があるような街にしていきたいですね。
高崎駅周辺から東部への都市開発
司会商工会議所から高崎市へ提言が行われた「スマートインターから高崎駅東口線沿線の開発」や「コンベンション施設を含んだ駅周辺の開発」などについて、あらためてその意義を会頭から市長へご説明をお願いします。
会頭昨年が市制110周年でしたが、それに合わせて高崎の新しい価値の創造を目指し「高崎新都市創造推進委員会」を設置して商工会議所なりに研究いたしました。提言した内容の多くは、昨年12月に出された高崎市の「高崎都市集客戦略ビジョン」にも反映していただきました。
また、市長にも選挙戦の中でスマートインターから高崎駅までのエリアについて具体的なお考えをお聞きできたことを心強く思っています。
市長私が言ったことはもちろん商工会議所の提言がもとになっています。これをどうやっていくかは一つひとつ詰めていかなければなりませんが、基本構想はこの路線が頭にあります。また、競馬場跡地の活用も検討課題です。
会頭競馬場跡地の問題は、県主導で研究が行われました。私も委員として参加しておりましたが、なかなか結論には至っておりません。コンベンションと一体で進めていければ良いのですが、かなりの時間が掛かってしまうでしょう。
市長計画としては一体的に検討しても、具体的には個別に進めていく必要があるでしょう。
会頭競馬場跡地は約30%が私有地で、地権者が27、28人いますので、これをまとめていくのは大変です。まずは土地の権利を一つにしておくことが大事です。私有地については、高崎市でまとめ上げて欲しいと考えています。
魅力ある中心市街地づくり
司会東部地域の開発が期待される中、一方でこれまでの高崎の発展を支えてきた駅西口周辺をより活性化させていかなければならないと思います。そうした中で昨年、商工会議所が中心となって商都博覧会などの新しいイベントが始まりましたね。
会頭おそらく全国で初めてだったと思いますが、普段は競争相手である5つの大型店が全て企画から参加していただき、共同イベントとして一斉に売り出しを行いました。昨年は「花路花通り」のイベントや「マーチングフェスティバル」と同日開催だったこともあって大変賑わいました。今年も是非開催したいと思います。
市長市としても是非応援させていただきます。また、イベントだけでなく、まちなかの居住人口を増やすことも考えております。例えば、高齢者と若者が一緒に居住する場所を作ったり、高齢者が自分の経験を活かし育児に関する仕事をして、収入を得られる仕組みを作ったり、音楽家や芸術家のアトリエがあるような集合住宅のようなものがあっても良いかもしれません。
会頭高崎駅の集客力が非常に高まっていますから、これをまちなかへ誘導していくことを考えないといけないでしょうね。
市長パスタの街というコンセプトについても、パスタ店が立ち並ぶイタリア通りのような絵になるところがあって、立ち寄りたくなるような街のブランド力を発信できる場所があるといいですね。
また、大型ショッピングモールとの差別化を図る必要があります。例えば、高齢者向けに買い物代行サービスなど福祉面でもまちなかの魅力を作っていけるといいのではないでしょうか。
上州人の気質と文化力を活かしたまちづくり
司会都市基盤の整備と併せて食や文化が大事なキーワードになります。会頭は俳句を始めとして文化にも造詣が深いですが、食や文化による高崎のまちづくりについては、どのようにお考えでしょうか?
会頭高崎商工会議所は、考え方は農・商工・観光・文化まで含めて色々な事業に取り組んでいます。高崎は音楽、映画のある街としてまちの魅力を発信していますが、これに例えば「能」を加えてはどうかと思っています。高崎は「能」の街・金沢と友好都市関係にありますし、高崎出身の能役者である下平克宏さんも活躍しています。個人的にも40人ほどの経営者に参加していただき、能を鑑賞する「早蕨会」をスタートいたしました。
市長日本の伝統芸能を取り込んでいくことは良いかもしれません。フランスのポンピドゥーセンターというところは伝統的なものから前衛的なものまで、何でも取り込んでいく場所ですが、そうしたイメージでコンベンション施設を考えていくことが必要だと思います。
会頭市長が県立女子大学の学長時代に、『群馬学』を始められました。私も「私の群馬」というテーマで講演する機会をいただき、気候や風土から気が短いという県民性があり、それが俳句や短歌に向いているのではないかという話をさせていただきました。 また、新しい物好きと言われますが、これは裏を返すと無いものを憂えず、新しいものを作ろうとする進取の精神に富んでいるということだと思います。かつて全国初の卸商業団地の設立に至ったこともその表れだと言えるでしょう。
市長新しい物を取り組んでいく中で、実は若い人たちが好むものが古典的だったりすることもあります。いつの時代にも変わらないものが若い人たちにも好まれるわけです。最近つくづく思うのは、箕郷などの郊外にある繭農家や里山などは今のうちに残しておかなければならない。そうした古いものと市街地の魅力を合わせていくのはどうでしょうか。
会頭頼政神社境内に内村鑑三の「上州人」という漢詩が刻まれた碑があります。そこには、「上州人は無智で無才である。剛毅朴訥として欺かれ易い。唯、正直を以て万人に接し、誠を尽くして神による勝利を期す」という群馬県民の気質が詠われています。内村鑑三が自分自身のことを詠んだと言われていますが、その通りかもしれません。
市長高崎市も色々な気質が混在していると思いますが、そうなると例えば何か建物を造る時にも、全員が賛成する平均的な物というよりも、高崎の魅力や資源を際立たせるものを造った方がいいのかもしれません。
7月から始まる群馬ディスティネーションキャンペーンについても草津や伊香保など色々な場所や物などつなぎ合わせて回遊性を作っていくことが大事ではないでしょうか。
市と会議所の連携を深める
司会お話をお聞きしていると、ますます市と商工会議所が連携して、物事を進めていくことで新しい展開が生まれるのではないかと感じました。
市長高崎の市民力を象徴する群馬交響楽団やシネマテーク高崎など、文化は儲からないものです。しかし、そうした我々が誇れるものを支えてきたのが高崎の経済界。これからも、是非、お力をお貸しいただきたいと思います。
会頭企業のヒアリング調査など迅速な対応に感謝しております。会議所としてもできる限りの協力をさせていただきますので、よろしくお願いします。