高崎に食の卸売りセンター
メトロキャッシュアンド キャリージャパンが上陸
食の卸売りセンター・メトロが高崎市菅谷町に進出する。経営するのは、メトロ キャッシュ アンド キャリー ジャパン。ドイツ資本の会社で、小売・流通において、世界有数の企業であるメトログループの中の1事業だ。キャッシュ アンド キャリーだけでも、世界31カ国で、約670店超。従業員は全世界で10万人以上。2009年の売り上げは、310億ユーロに上る。そんな大企業は、なぜ群馬に進出するのだろうか。
新鮮さ、品揃え、役立つ情報が魅力の卸売り店
メトロは食のプロ専用の卸売り店。セルフサービス型卸売センターだ。登録制で、食に関わる事業を行っている店だけが購入できる。
元旦を除く年364日、午前6時から午後7時まで営業。鮮魚は築地から毎日2便。品質保持のために、産地や安全性にこだわっている。飲食業では欠かせないドリンク類や調味料などは、とくにプライベートブランドも充実している。現金払いで、箱売りだけでなく、必要な量だけを小ロットで仕入れられるため、在庫を抱えなくて済み、その日の客入りによって仕入れることも可能だ。そのため「冷蔵庫の代わり」と1日に3回訪れる人もいる。また、「商品が店に到着するまで良品であってほしい」という配慮から、商品をその温度のまま持ち帰れるように、クーラーバッグなどの販売も行っている。
これにより、利用者は、安くてよいものを仕入れることができるだけでなく、仕入れ時間の短縮、原価管理ができる。
地域特性をふまえた商品展開とコミュニケーションを重視した営業展開
メトロの目標は、当面、関東圏の地固め。高崎出店は、千葉店、 川口安行店、多摩境店、宇都宮店、流山店、横浜いずみ店に続く、7番目にあたる。
高崎店は、市内菅谷町に建設中で、今年9月オープン予定。敷地13,221平方メートルの中に約3,000平方メートルの店舗を構える。駐車場は、約150台。約12,500の商品が店に並ぶ予定。従業員100人の地元雇用も考えている。
扱う商品は生鮮食品が6割。ほかは、米、日配品、調理用品など。地方の食文化の傾向も考慮した品揃えにする方針だ。高崎は、パスタの街なので、ワインやチーズなどは特に品揃えを強化。ヨーロッパから直輸入するものも多数ある。日本ではメトロでしか扱っていないワインなどもあるので、売り場にはソムリエやワインアドバイザーを配置し、無料相談サービスを行う。
販売だけでなく、メニューやイベントなどの提案、トレンドの情報発信も行う。宇都宮店では、ワールドカップにちなんだイベントをしかけたいと訪れた飲食店主と同店のアドバイザーが協力し、新メニューを考案し、成功させた事例もある。個々のケースで掴んだ顧客のニーズと業界の動向を、自社の品揃えやサービスに反映させる、双方向コミュニケーションを重視した業務展開が、同店の最大の特徴といえる。
会員確保のために、すでに地元の飲食店、1件1件にカスタマーコンサルタントと呼ばれる営業担当者が足を運び、コミュニケーションを始めている。良質なものを低価格で提供は当たり前。お客様と味や調理方法、販売方法を一緒に考える。同社はかゆい所に手が届くサービスを目指している。
高崎、伊勢崎、前橋は関東でも魅力のエリア
高崎進出の理由として、同社・代表取締役社長の石田隆嗣さんは、商圏の大きさと食に対する関心の大きさの2点を挙げる。
高崎と前橋の飲食店は合わせて25,000件から30,000件ほどといわれている。伊勢崎市も含め、3市のエリア同士が近く、高崎に出店すれば、隣接エリアの飲食店も取り込むことができる。
また、高崎はパスタの街、前橋はトントンの街、太田は焼きそばの街。群馬は、地域全体が食に対して非常に関心を持っているエリアである。
2つの理由で、同社の出店を歓迎してくれるのではないかと考え、現在その目論見は外れていない。「地元の反応は」の問いに、高崎店店長の岩渕龍仁さんは「みんな興味と歓迎の意向を示して下さっています」と手応えを感じている様子。
そのほか、物流の観点からも群馬県はメリットがあるという。同社は、品揃えや販売戦略を標準化するのではなく、その地域にあった商品展開を行うのがモットー。「地産地消」を重視している。群馬県は、山間部も平野部もあり、標高差が大きく、たくさんの種類の野菜が採れる。畜産も盛んで「榛名地鶏」「もち豚」「赤城牛」など、良質な肉が手に入り、食品で有名な企業が数多くある。そのため、種類に富んだ売り場展開ができる。
以前から群馬県の食材は良質で豊富であった。しかし、県民がこのことを認知していないと言われてきた。そのような食材は、都心に出荷されてしまい、県民が手にするのが難しかった。同店の売り場に群馬の良質な食材が並ぶことで、群馬の飲食店でそれらを使ったメニューが提供される。つまり、簡単に群馬の消費者がそういうものを食べられる機会が増えることになる。
「地元の良質食材が地元の人によって食べられ、それにより、経済効果が生れれば、地域活性化につながるのではないでしょうか」と石田さん。同店出店による地域の活性化は、社の目標になっている。
今、地域の飲食店は景気後退のあおりを受け、安価で外食を楽しもうという消費傾向が強まり、経営が低迷している。また、大手外食産業は寡占化が進んでいる。このような状況の中で、メトロ高崎店オープンが、食品卸や飲食業界に、どのような変化や影響をもたらすのか、注目される。
地元飲食業者の反応は?
箕郷町の60代女性オーナーは、1人で店を切り盛りする。メトロの業務案内書が郵送されてきたあとに、飲食の仲間からメトロのメリットについて聞き、入会した。仕入れで何カ所も回っていて、体力的に辛かったので、オープンに期待している。包装材や割り箸などを購入したいと語った。
高崎市街地でも、会員登録をした飲食店は多数。他県メトロの視察の話もきており、積極的に情報を入手しようとする姿勢が見られる。
文責/菅田明則・新井重雄
高崎商工会議所『商工たかさき』2010年7月号