燃料の高騰で存続の岐路に立つトラック輸送

自助努力は限界!

 原油高による急激な燃料の高騰によって、トラック輸送業界が危機に直面している。これまでも運送業界は、国の対策や消費者の理解を求め、ピーアール活動等に取り組んできたが、群馬県トラック協会高崎支部の花澤幸一支部長は「自主努力はもはや限界」と訴える。

 トラック輸送は、産業、経済の基盤であり、国内貨物の9割を担っているという。業界を支えているのは中小零細の下請け事業者。燃料高騰のしわよせをかぶるのも、こうした零細事業者だ。平成17年1月に76円だった軽油価格は平成20年8月は150円台を超えた。「今年8月の運輸業の倒産件数は過去5年間で最多。県内でも17社が倒産した。オイルショックの時でもこれほどひどい事態にはならなかった」と花澤支部長は言う。

運輸業は価格に転嫁できない

 旅客では、燃料サーチャージとして、値上がり分を料金に転嫁しているが、貨物輸送業では運賃の値上げは難しい。「国は、サーチャージを理解してもらうよう指導しているが、荷主さんに運賃の値上げをお願いするには、なかなか言いにくいのか実情ではないか」と花澤支部長は、事業者の心情を代弁している。

規制緩和などにより、県内の運輸事業者は、昭和40年の300社から平成20年は1、450社に増加。事業者の生き残り競争も激化し「他社は安く運んでいると言われれば、お客様に気をつかいながらやらざるを得ない」というのも本音だ。バスやタクシーのように基準運賃を設定することは難しい。運賃の適正化を求めて、トラック協会として取り組んでいきたいと花澤支部長は言う。

トラック輸送の社会的責任と安全確保の重圧

 8月26日に全国のトラック協会が参加した東京日比谷の緊急行動には、花澤支部長も参加し、業界の窮状を真剣に訴えてきた。また9月25日には全国大会が岩手県盛岡市で開催され、危機突破に向けた具体策を求め、大会決議を採択した。大会の骨子は、軽油価格高騰に対応した適正運賃の確保、燃料税・自動車関係諸税の軽減、高速料金の引き下げなど。負担増にあえぐ中小事業者が課題の解決に向けて議論を重ねた。

 花澤支部長は、トラック輸送の公共と社会的責任の大きさを強調している。運賃値上げを要求して、運送業界がゼネストを行うことも、言葉の上では語ることができる。「協会の中では、ストの声もある。トラック輸送が止まれば、日本経済はたちゆかない」と影響は甚大だ。「最近は在庫を抑えているので、時間通りに安全に届けるのは、産業の生命線になっている。原材料、部品が届かなければ、工場の生産ラインも動かない」。輸送に求められる要求水準が益々高まっていると花澤支部長は指摘する。

「首都高の横転事故が記憶に新しいが、安全輸送が何よりの基本。運転者の労働環境の整備、高齢化対策にも取り組まなければならない」と労務問題に悩む事業所も多いと言う。地球環境の保全のため、窒素酸化物、温室効果ガスの削減も重要課題となっている。低公害車、省燃費運転に役立つ設備等の導入にも、苦しい中で努力をしている。「売上は、社員の給料を出すのがやっと」と青色吐息。「負債なく事業をたためれば万々歳」と言う声もある。

 公共輸送機関としての使命を果たすため、「広く国民の問題として、みなさんに物流をもう一度考えていただきたい。物流の基盤が危ういところまできている」と花澤支部長は強い危機感を持っている。「燃料、軽油価格は一日も早く解決してほしい。適正な価格の導入は、みなさんの理解なしには実現できない」と訴えている。

(文/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所 『商工たかさき』2008年10月号

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