中核市移行で高崎はどう変わる

大きな比重の保健所業務

 平成23年4月の中核市移行をめざし、高崎市は準備を進めている。
 中核市は、平成7年に創設され、現在の要件は人口30万人以上。高崎市は合併で人口要件を満たした。中核市は、県とほぼ同等の権限を持つ政令指定都市(政令市・指定都市とも言う=人口50万人以上)に準じ、文字通り地域の中核都市として地方分権を担う。

都市の存在感を示す中核市
市民生活に密着した事務が県から委譲

 都市制度には政令市、中核市、特例市があり、全国1、787市町村(783市、811町、193村。平成20年8月末現在)のうち、政令市は17市、中核市は39市、特例市が43市(平成20年4月1日現在)。高崎市は平成13年に特例市に移行しているが、中核市移行に求められる行政基盤、行財政力は、特例市の時とは比較にならないほど大きい。

 中核市には、保健や福祉、環境、都市計画など、法令で定められた事務が「法定移譲事務」として県からワンセットで渡される。その数はおよそ2、000項目。また法定移譲事務に関連する事務も「任意移譲事務」として移譲され、約400から500項目。ひとくちに2、500の仕事が新たに生まれる。県から渡される仕事は、市民生活に密着した分野が多く、きめ細かい市民サービスが可能になる。特に県庁所在地でない都市では、県によって行われていた事務が身近な市役所で行われるようになるので、住民に大きなメリットがあると言われている。

権限移譲事務の半数を占める保健所業務
経験を持った専門職が必要

 中核市に移行する上で、最も大変な仕事とされているのが保健衛生行政のための保健所。保健所は中核市の必須条件で、必ず設置しなければならない。施設はJT跡地に建設が予定されている医療保健センター(仮称)、新図書館の複合施設内に設置され、中核市移行と同日の平成23年4月1日に開所される。高崎市医師会・歯科医師会、医療センターと保健所が同じ施設内にあることで連携が深まり、質の高い市民サービスが期待できる。

 高崎市の場合、中核市移行によって群馬県から移譲される予定の事務はおよそ2、300項目あり、そのうち保健所に関わるものが約1、000項目。飲食、社交、理美容、興行場など保健所の所轄は広い。市は、中核市推進室とは別に、保健福祉部内に保健所準備室を設置して準備を進めている。

 保健所職員には医師、獣医師、薬剤師などの専門職が必要とされるが、現在の高崎市では職員採用していない職種も多い。

 高崎市保健福祉部・高齢医療担当の坂井和廣部長は「県が所管している高崎市関係の業務量から新たな職員数は専門職、一般職あわせて50人程度と試算しているが、他市の状況を調査の上、この人員で十分かどうか今後検討を進めたい」と言う。保健所準備室の谷川浩室長は「保健所業務に精通し、現場経験を持った人材が必要だ。また保健所長は、公衆衛生の実務経験を持った医師であることが定められている」という。人材面のハードルは高い。

 手始めとして、来年度は5人の獣医師を採用し、県で実務を研修させる予定。専門職については計画的に採用を進めていく方針であるが、業務内容の専門性を考慮すると県との連携を十分にはかっていかなければならないと坂井部長は考えている。

「食の安全」検査と取り締まり
危機管理を担う保健所

 保健所の仕事は、生活全般に関わり、食の安心、安全は特に市民の関心の高い分野だ。
 「高崎市が保健所を設置すると聞いて、本当に責任重大な仕事を市が引き受けたなと感じている」と全国飲食業生活衛生同業組合連合会の加藤隆会長は話す。「鳥インフルエンザや餃子事件のような問題が、いつ高崎市で起きるかわからない。悪いことを考えればきりがないが、こうした問題の最前線に立つのが保健所」と、緊急時に求められる危機管理体制は、消防と同じだという。

 加藤会長は高崎食品衛生協会の会長もつとめているが、「過去6年間、市内で食中毒事故がゼロだったのは、たった一年だけ」。原因を検査し、感染の拡大を防ぐのも保健所の仕事になる。患者全員を追跡するのも保健所。極めて短時間で対応をしなければならない。高崎の交通拠点性を考えれば、首都圏、全国に被害が拡大することも想定する必要があるという。

 群馬県食品安全局の長井章局長は「保健所は、安全な食品を提供するため、規制の分野を担当していると考えればわかりやすいかもしれません」と言う。保健衛生の警察的な役割だ。施設への立ち入り検査、食品検査などを行い「未然防止のため、法に従って違反があれば規制しなければならない」。県が行った19年度の立ち入り検査は、2万2、942件、食品検査は4、078件。高崎市は都市集積が高く大きな割合を占めており、高崎市保健所に移管される業務量が推測される。

 市内に流通する農産物や輸入食品なども保健所で検査を受ける。検査項目は180から200に及んでいる。

 食中毒が発生した飲食店への業務停止、残留農薬が基準値を超えた農産物の回収命令も高崎市保健所が行う。

 高崎市の坂井部長、加藤会長、長井局長ともに重視しているのが、牛や豚の「と畜検査」と「食鳥検査」。検査員は獣医師の資格を持った職員。と畜場では食用肉にするため、牛、豚等は一頭ずつ検査員によって精査されている。鶏も同様に検査や食鳥処理施設の監視・指導を実施し、合格したものだけが市場に流通する。検査員の養成には、現場での実務研修が必要だ。

高崎市型の保健所を

 平成22年4月に前橋市、23年に高崎市が中核市に移行すれば、県央の70万人、県人口の約三分の一に対する保健所業務が県から市に移管されることになる。「県としても組織の見直しは当然必要になるだろう」と長井局長は言う。

 保健所の実務は、県から学ぶしかない。専門性の高い保健所業務を遂行するために、立ち上げ時は、県との連携が不可欠だ。市が保健所の体制を確立させるには、中核市移行後3年から5年はかかるだろうとも見られている。長井局長も「人材の確保は県でも悩んでいる。高崎市から要請があれば、県も協力を惜しまない」と話している。

「これから高崎市としての計画をつくり、目標を立て、検査機器なども含め実情にあった体制を整備していくことが重要」と長井局長は指摘する。加藤会長は高崎市保健所(仮称)設置懇話会(長坂資夫会長)の委員もつとめ、「これまで県の広域的な保健所行政に慣れてきた。現段階では、高崎市の保健所の姿がはっきりと見えていない。市が設置する利点を明確にしていきたい」と考えている。

 高崎市では、保健所と現行保健業務を結び、保健所を核に、支所保健センターと連携させ、市民が利用しやすい運用をめざしている。準備室の谷川室長は「保健衛生の拠点として、しっかりと準備をしていきたい」と取り組んでいる。

(文/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所 『商工たかさき』2008年9月号

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