変わる商業環境/イオンモールと商店街 オープン後1年半以上が経過してⅢ
〝どこのSCも同じ〟を嫌う
イオンモール高崎の計画段階で、当時の川戸イオンモール社長はモールのテナント構成を「ナショナルチェーン、地域初出店の新ショップ、地元企業によるショップが、それぞれ3分の1で構成すると経験的に良い結果が得られる」と高崎での講演会で語った。
厳密に3分割するわけではないだろうが、この方法はとりあえず売れればいいという売上至上の考え方とは少し違うようだ。
イオンだけでなくすべてのショッピング・センター(SC)は効率が命だ。前回のイオン特集(4月号)でもふれた通り、テナントとの出店契約は定期賃貸借で、3年、6年と流行の変化、時流に素早く対応できる体制をとり、坪効率を重視する。定休日はゼロにして営業時間も長いから固定費がかさみ損益分岐点も高くなるのがSCだ。
しかし、SCの常連の手なれていて売上げの読めるナショナル・チェーンだけでテナントを固めることをしないで、新ショップでの話題性とか、地元で信頼されているショップをテナントに組み込むイオンモールの手法は、モールの多様性を睨んでのことだ。経験的とことわりながら、モールの多様性は最終的に利益をもたらすのである。
SCは「どこのSCも似たようなもので同じだ」といわれることを嫌う。他との違いを出す事は小売業の基本であたりまえの話だが、差別化し、お客に受ける特色をいかに出せるかが経営戦略のカギとなり、イオンモールの戦略のひとつが3分割法なのだ。
モール型SCの出現は必然だった
イオンモール高崎は、高崎の既存の商業環境の中に出現した。農地が転用され唐突とも思えるが、SCの出現は流通全体の流れの中必然性があるように思う。
今日のSCが盛んな時代、話題がSCに集まるが、その昔、ダイエーなど総合スーパーが華やかだった頃、日本中がダイエーなどのGMSで埋めつくされるような印象を持った時期もあった。機能的に優れているGMSが決定的な占有率を取ると思われたが、その前にGMSの影響力は限定的なものとなった。そして大型店による占有率も極端に上昇することなく、大型店や大企業による寡占化もそれほど進んでいない。そしてロードサイドの量販店、カテゴリーキラーが郊外へ拡散する時代ともなった。
このような状況下で大型モール型SCが出現したもので、このモール型SCは成熟した今日の消費社会に向いているのである。
大型SCは損益分岐点が高い
イオンモールは商店街に似せて造られたものだ。その昔商店街は自然発生的に形成された。市場が立ち、まちができて商品が効率よく配分されるようになる。商品が少ない時代で何でも売れる時代でもあった。
時代は変り、かつて商店街の構成員だった専門店の一部はロードサイドの専門店へ、スーパーへ、SCの専門店へと役割も変りポジションも変った。
では、SCが強力な力を発揮しているこれからの商店街はどうなるのか。
イオンだけでなく、全てのSCは効率を重視し、テナントは損益分岐点が高いので量を稼がなければならない。ややもすると効率一辺倒の世界にはまってしまう。
イオンモールのテナントの性格を3分割する方法は、量だけでなく多様性を実現する技術なのだが、経済性を重く見る点は変りない。 これに対して、商店街のお店は真正面から効率で対抗することはむずかしい。SCの坪当りの売上は高い。駐車場は無料で3、800台分もある。
損益分岐点も開業コストも低い商店街
しかし、今日のお客の全てがイオンでの買物と食事を最善だと思っているわけではない。 商店街では、駐車場は有料で、お店の配置は自然発生的にでき上ったものだから、てんでんばらばら、SCの計画配置に比べたら劣る。営業時間もまちまち。商店街には様々な業種業態が入り混じり、しもたやあり、おでん屋あり、隣りは高級時計専門店だったりする。この雑多の有様はイオンの演出しようとしている多様性とは比べものにならない。今日のSCを凌駕する消費者ニーズに答えられるSCが出現するかもしれないが、今のところ商店街が不要になるほど占有率が上がるわけではない。
商店街の販売シェアは少しずつ下っておりSCのシェアは上っている。しかし、GMSもスーパーも販売額は上らずシェアは落ちている。ドラッグ系こそ上昇しているが、商店街のシェアは急速に落ちるとは考えにくい。
商店街はSCに比べると賃料が安く、営業時間も短かくすることができるから人件費も少ない。損益分岐点も低く開業コストも低くおさえることができる。こんな条件に合ったビジネスは商店街に向いている。 お客の側からみてもSCでの買物と比べて、さしあたり効率や経済性だけにとらわれないですむ商店街では、お茶をのみながらゆっくり買物もできるし、融通もきき親しみが持てて専門店の専門知識を活かした買物ができる。
本来の専門店は、お客の持つ問題を解決できる専門能力を持つ店のことをいう。
効率よく大量にさばかなければならない仕組みで動いているお店は、お客の問題を解決する点では苦手なものである。
環境変化に対応できるのか
イオンモールの出現によって高崎の商業環境は変った。高崎全体の年間小売販売額は、4、200億円あり、イオンモール高崎のそれは260億円だ。イオンの出店により全体の集客力は増していると思うが、中心市街地の大型店4店を含んだ年間600億円の売上は今後どのような影響を受けるのであろうか。
商店街はこの環境変化にどう対応していくかが課題だ。この環境も次々と変化する。スーパー、ドラッグ、ホームセンターの建設が次々と計画され、ヤマダ電機の20、000平米の店舗の開店も真近である。
小売商業問題はきれいごとですむ問題ではないが、小売業の使命は、いかに豊かな消費生活に役立てるか、なのだ。
それぞれが工夫して、変化し続ける環境に適応するように、それぞれが変化し続けなければならない。