イオンの集客力の秘密(2)

 2006年10月、イオンモール高崎はオープンした。2月決算の年間販売額は260億円(推定)とまずまずの出だしのようだ。  飲食系のテナントの販売額は、当初のスタートダッシュが良好で2年目は落着き、物販・サービスの2年目は固定客がつき伸びるというのが定石だそうだが、この通り推移している(栗田ゼネラルマネージャー)ようである。

 順調ではあるが、170のテナントすべてが好調というわけにはいかない。テナントによっては、計画通りいかなかったり、販売不振で損益分岐を下回るショップもありうる。販売不振が回復できないとみれば撤退もありうる。

 現実問題として、2階のワールド系のアパレルショップは、1年と少しで撤退した。社内事情もあっての撤退だそうだから販売不振以外の理由もあるのだろうが、代わりをワールドの別ブランドにそのまま移行することはない。つまり賃貸した区画はワールドという会社に貸したのではなく、ある商品群をもつショップへバランスを考えて貸したのである。商店街で店舗を借りるのと訳が違うのである。

 撤退は3階のフードコートでも発生した。テナント側にもディベロッパー側にも見込み違いがあったのだろう。それにしても、ファーストフードのような充分進化した業態でも見込み違いが起るのだからショッピングセンター(SC)の運営は易しくはないようだ。

 イオンモールへ出店する仕組み、退店の仕組み、賃料の計算はどうなっているのか確かめることにする。

賃料の仕組み

 そもそも、イオンモール㈱はショッピングセンター(SC)専業のディベロッパーだ。間違えやすいのはイオン㈱とは別の会社で、SCを開発し管理運営を専門とする。ひらたくいえば大家さん稼業で自前の小売業は持たない。イオン系スーパー「ジャスコ」が核店舗になっているイオンモールもあるが(高崎の核店舗はサティ)ジャスコですら1テナント扱いとなる。

 当然イオンモールの収入はテナントの支払う営業費つまり家賃ということになり、イオンモール高崎の年間260億はテナントの販売額の総計で家賃収入ではない。

 それでは賃料の仕組みはどうなっているのか。出店条件とある次ページの表は、高崎のものではなく参考資料だが、固定的なものと歩合の組合せで、3%とある歩合の数字が変わったり、固定営業費とあるのが、最低売上保証になったりするが、イオンに限らず駅ビルなどSCは似たような仕組みだ。

 実際の営業費は、それぞれが相対で話し合いで決まる。
 ディベロッパーとテナントは話し合いながら、例えば書籍は粗利率は低いが、SCから見ると欲しい業種となれば賃料を下げて優遇する。賃料収入は下っても集客に役立てばいいいので、このショップは是非に、ということになれば賃料は下げるのが市場原理というものだ。

 商店街との決定的な違いはこの歩合の差だ。そして、表の数字は少し高めだが、仮に交渉して30パーセント下がったとしても商店街と比べるとかなり高めだ。

 テナントはこのような条件で持続し伸ばさなければならないし、かなり高い効率で店舗運営をしなければならない。SCの内部では、1坪あたりの売上げが、坪効と称する数字だが、そのショップの能力を表す1つの重要の指標となっている事は事実だ。

 実は表には出ていないが、賃料が高いか安いかの問題とは別に、SCにはもう一つの重要な条件がある。

商店街との違い

 「定期建物賃貸借契約」だ。SCとテナントが交わす契約で、近頃はこの方式が多い。
 契約期間はそれぞれの事情で違うが「本契約は契約期間満了をもって終了し、更新しないものとする」となっていて、イオンモール高崎の場合は業種によってきまるが6年の場合と3年がある。高崎は残りが4年半あるが、6年を過ぎたイオンモールでは大量の移転とかなりの退店があったと伝えられている。高崎はどうなるのか。栗田ゼネラルマネージャーは、言葉を選びながら「売上げが悪いから退店して下さいとは言わない。悪いのは見込み違いの結果であり、お客様のニーズに近づけるべくお互い努力する」と、必ずしも一方的なものではないと語る。

 同様SCでも首都圏のある駅ビル会社などは「1年で10パーセントのテナントを入れ替える」と公に発言している所もある。
 定期賃貸借といい歩合賃料も、イオンに限らずSCは経済合理性を中心にすえて動いている。当然売上不振のテナントには退店圧力が働くことになる。

 先進地商店街で、土地建物の所有と使用を分けて商店街を構成している所があるが、これは指令塔があるSCを逆に真似たものだろう。ヨーロッパでは土地の所有と使用の分離は都市政策としてあるが、日本では難しい話だ。その点SCは、長くても6年待てば入替え可能だ。
 SCはこうして大きな力を持つ。そのかわりお客様をこれだけ集めますよ、イベントもやります、とテナントに約束してSCはテナントを選別する。

 4年半後の契約が切れた時、イオンモール高崎はどうなっているのか。テナントの入れ替えはどう進むのか。しかし、全く逆に、テナントがSCを選別する事だってありうる。「契約が終りましたので退店します」という逆選別するテナントがあっても不思議ではない。現に、テナントが揃わず、空スペースのまま開店したSCが、最近の話題となっている。
 イオンモール高崎は集客力があるからテナントの効率が高いのか、テナントが高効率だから集客力が高いのか、鶏と卵の関係はとちらが鶏なのだろうか。

(高崎商工会議所小売部会長 根岸良司)

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