高崎精器株式会社

(2009年5月)

高崎精器株式会社事務用手動式簡易断裁器

高崎精器株式会社業務用ロッカータイプ乾燥機。県内ゴルフ場に導入されている

高崎精器株式会社半澤健社長

ニッチな市場 零細企業だから生き残れる

高崎精器株式会社

 

  高崎は商都と呼ばれることが多いが、製造品出荷額も県内では上位に位置している。東毛地域のように自動車や電機などに一極集中するのではなく、食品や化学、金属、機械など幅広い製造業ががんばっている。


 今回は、先月号に続き「勝ち残る製造業」を、4月に「高崎青年経営者協議会」の理事長に就任した荻野修さん(荻野製作所業務部長)に同行していただき、事務用手動式簡易断裁器のシェア100%を誇る「高崎精器株式会社」半澤社長に勝ち残るための苦労とノウハウを伺った。


●危機を転機にシェア100%を獲得

 「高崎精器」は、昭和27年に寄合町で事務機製造業として創業した。紙を切る手動式の事務用断裁機、穴を開ける穿孔機を事務用品メーカーに納めていた。断裁器は学校や官庁、比較的大きな企業の事務部門で使われるが、さほど数を必要としない小さな市場の商品だ。


 メーカーと製造業者との関係は同じ製品を複数のメーカーに提供することが出来なかったが、10数年前にそのメーカーの社長が交替し、今後は同一製品でも複数の製造業者との取引に切り替えるとメーカー側から言われてしまう。高崎精器にとって見れば、今まで安定していた取引が変わる危機とも言える状況だったが、半澤さんは今までの縛りがなくなる今こそ他のメーカーとの取引が出来るチャンスだと考えた。


 自社内で設計から製造まで全ての工程を行っていた高崎精器はコストを抑えて価格競争に耐え、数年後には2社目の事務機器メーカーとの取引に成功する。その後も大手事務用品メーカーからOEMの受注を受け、手動式の「簡易断裁器」のシェアは、現在ほぼ100%となった。


●2度目の転機はインターネット

 事務機器の販売方法は、事務機器店を経由する販売方法が減少し、「カタログ販売」とりわけインターネットを使った販売方法に変わっていった。


 半澤さんは、インターネットの普及が2番目の転機だと言う。例えば断裁器の一番小型のタイプで5万円前後のものが、以前の30倍ほどの売上げとなった。これはビジネスユースではなく、雑誌や本をデジタル化する際に断裁器を個人でも利用するようになったからだそうだ。個人ユースはインターネットの口コミがすごい。「この断裁器でこんなものを切ったら、良かった、悪かった」と言った話題がネットを飛び交う。


 また、クレームや意見などがホームページやメールを介して届く、電話やはがきなどよりも気軽に利用ができるのがネットの効果なのだろう。この口コミやクレームがお客の声として製品の改良やメーカーへの提案に役立つ。


 「断裁器で“こんにゃく”や“魚”を切ったらうまく切れなかった」などの声には驚かされた。社員たちは、断裁器は紙を切るものと言うが、「えっ!と思う発想が大切で重要だ」と半澤さん。〝こんなものを切りたい〟というニーズがあるのだと、鉄やプラスチックを切る断裁器なども開発した。


●競争相手は海外メーカー

 設計から製造までを自社でこなす高崎精器は、OEM以外にも自社製品として断裁器をネットのみで販売をしている。各事務機器メーカーで販売されている手動式簡易断裁器もみんな高崎精器の製品だ。シェア100%になるということは競合がない分、今までメーカーにあった主導権が高崎精器に移る。これに甘えてあぐらをかいてはいけないと、品質の高い刃物の技術を持つドイツを意識して海外へ目を向ける。東南アジアを中心に海外へ進出、マレーシアのクアラルンプールには現地提携工場があり東南アジアの営業拠点となっている。良い刃物の部品は日本製に限ると、部品は高崎精器で製造し組立を提携工場で行う現地生産方式を取っている。


●他分野の製品開発に力を注ぐ

 半澤さんは断裁器の需要がこのまま右肩上がりになるはずがないと予想して、事務機器以外の分野の商品「業務用ロッカータイプ乾燥機」を開発し、最近では断裁器の売上げと二分するまでになった。


 この乾燥機は、ゴルフ場、消防署や空港など雨の中で作業をする人の雨具や衣類を乾燥させることに利用され、この製品も設計から製造までを自社で行う。断裁器とは異なり環境や省エネを考慮して価格競争ではなく機能で勝負している。成田空港で導入されたのは、クリーンで省エネの高崎精器の仕様が採用の決め手となった。この仕様がスタンダードになれば他社に負けない。


 ここでもお客のニーズは衣類以外の乾燥は出来ないかなどの問い合わせもあり、今後の展開に期待が持てる。


●零細企業から抜け出さない

 「業績が良くなると身の丈以上に、会社を大きくしようと考える経営者がいるが、それは錯覚です」と半澤さんは持論を話してくれた。


 良いものを作れば売れると考えるのは、作り手の論理でおごりでもある。本当に売れるものはお客が欲しているもの、常に変わるお客の声に耳を傾け商品を作るべきだ。


 高崎精器の製造する製品は小さな市場の分野、取引先に技術は誇れるがしょせん高崎の町工場「零細企業」ですと話す。「あえて零細企業から抜け出さず、零細企業だからこそ生き残れると考えている」。会社を大きくするより、57年続いた会社をこれからも永く続けていきたいと熱く語ってくれた。


高崎精器株式会社
所在地:高崎市八幡町370-1
電 話:027-343-3781
URL:http://www.tpmc.jp/


高崎商工会議所『商工たかさき』2009年5月号

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