高崎新風土記「私の心の風景」

アカシアの花咲く

吉永哲郎

高崎新風土記「私の心の風景」

五月は白い木の花が咲く季節です。さて、五月になりますと、アカシアの白い花が、和田橋上流の河原、乗付町から鼻高町にかけての山裾に咲き、甘味な薫りあふれた里風景が見られるようになります。この風景を橋の上から眺めるのもよし、また山裾を散策しながら甘い香を見にしみこませるのもよし、一年のうちで自然の恵みを一番感じさせます。

アカシアは外来の木で、街路樹として用いられることが多いのですが日本では荒地によく繁っています。葉や木の形が槐(えんじゅ)の木に似ていて、枝や幹に鋭い刺があるところから、刺槐(はりえんじゅ)ともいいます。小さな白い蝶が房状にとまっているような花ですが、これを天ぷらにして季節を楽しむ人もいます。

さて、今年は堀辰雄没後60年、私が高校二年の17歳の時でした。5月28日に亡くなりました。アカシアが咲く季節だったと、青春の一頁に鮮明に残っています。そして堀の作品『美しき村』の「あのかよわそうな枝ぶりや繊細な楕円形の軟らかな葉(中略)誰かが悪戯をして、その枝々に夥しい小さな真っ白な提灯のようなものをぶらさげたのではないかと言うような、いかにも唐突な印象を受けたのだった。」という一節を口にし、アカシアの花の下で堀辰雄を偲びます。

さらにこの白い花を追って、六月の「美しい村」軽井沢を歩いてきます。

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