高崎新風土記「私の心の風景」

おい そっとそっと 梅の匂いだ

吉永哲郎

高崎新風土記「私の心の風景」

 梅の花といえば、「梅一輪一輪ほどの暖かさ」(嵐雪)の句を思い出します。梅は春の訪れを告げる花として、古くから親しまれてきました。昨年の町村合併によって、高崎は名だたる梅の里となりました。ご存じのように旧箕郷・榛名の梅林が高崎市になったからです。この広大な梅林の風景は柳生街道筋の月が瀬梅林と比べても遜色はないと思います。ただ柳生街道のような物語には少々欠けますが、こちらには、棟高の詩人山村暮鳥の詩の世界があります。

 暮鳥の『雲』という詩集の中に、「こんな老木になっても 春だけはわすれてないんだ 御覧よまあ、紅梅だよ」という詩、「ほのかな 淡い宵闇である どうだい 星がこぼれるようだ 白梅だらうの どこに さいてゐるんだらう」という詩が目をひきます。なかでも私は、「おい、そっと そっと しづかに 梅の匂ひだ」という詩が好きです。呼びかけの相手をさまざまにイメージ化して鑑賞していますと、梅の匂いを静かに愛で愛し合う二人に姿を思い浮かべるからです。そして、日頃あまり気にとめていない季節の移ろいを、一瞬の梅の匂いに感じとる詩的生活を忘れているなと、思わずにはいられません。

 人混みの梅林もよいのですが、時に「おい、そっと そっと・・・」の詩碑をさがしながら、山ノ上の碑から根小屋城址までの「石碑の路」を歩いてみませんか。そっと梅の匂いを求めて。

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