映画のある風景

成長をとらえる街角

志尾 睦子

映画のある風景

 先月、全国コミュニティシネマ会議が沖縄で開かれた。全国のミニシアター、上映団体、公共ホールの映像担当者など、コミュニティシネマ活動を行っている上映団体が集まる全国会議だ。開催会場は毎年変わり、ホスト役を各地域の加盟館が担当する。各地域に出向き、そこの風土や町並み、そして文化状況、地域の取り組みを肌で感じる事は何よりの英気になる。

 この全国会議ではその年々の問題点や恒久的な課題について話し合われる訳だが、各地の取り組みも発表される。映画監督中江裕司さんが作った沖縄・桜坂劇場の取り組みも目を見張る実績と面白さがあったが、ひと際心引かれたのが静岡県浜松市の映画館が取り組んでいる映画製作についてだった。地方発の映画製作がこれまでなかった訳ではないが、観客の映画離れ、映画業界の低迷を受けての今だからこそ、次の一手は近しい人たちと、場と志と楽しさの共有から始めたいというのは、自然な流れなのかもしれない。

 浜松出身の映画プロデューサー、監督、俳優が多数参加するのは中沢けい原作『楽隊のうさぎ』の映画化。中学校の吹奏楽の話だ。主人公を始めメインとなるのは中学生で、実際の13歳から15歳までの子どもたちがオーディションで選ばれたそう。30年後もその先も皆に愛される映画を、そして子どもたちの成長をスクリーンにそのまま焼き付ける映画を、という想いで今夏クランクインし1年間じっくりと撮っていくそうだ。子どもたちの成長をスクリーンにそのまま焼き付けるという言葉が心に響いて、思い出されたのが高崎で撮影された『神童』(2008年公開・萩生田宏治監督)だった。

 主演が松山ケンイチさんと成海璃子さんで音大受験を目指す青年と、天才児ゆえに苦悩する少女との物語。主要シーンは高崎で撮影されている。少女が通う中学校のシーンは高松中学校で撮影され、私はこの撮影にお邪魔した。公立中学校が全面協力とは本当に理解があるなぁと思ったものだ。生徒たちもエキストラで多数参加されていて、瑞々しい感性と彼らの躍動感がフィルムに焼き付けられた。ああ、こういう思い出作りも素敵だなと当時思ったものだった。撮影が2007年だからあの時の生徒たちはすでに高校生。体も内面も著しく変化する時期を、スクリーンに焼き付けておけるのは素晴らしい機会だったなと思う。

 いつかはシネマテークたかさき発信の、そんな映画が撮れたら、と夢をまた膨らませてしまった。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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