映画のある風景

『各駅停車』~威風堂々と登場する高崎第一機関区

志尾 睦子

映画のある風景

 機関車の街・高崎のスタンプラリーが始まって一ヶ月。シネマテークたかさきでは今回機関車にまつわる映画を上映して、このスタンプラリーに参加している。7月には第一弾作品として、鉄道名シーンという観点から、言わずもがなの不朽の名作『ひまわり』(1970年・ヴィットリオ・デ・シーカ監督作品)をセレクトし、多くの方に楽しんで頂いた。8月の第二弾作品はドキュメンタリー映画界の神とも言える土本典昭監督の、デビュー作となった『ある機関助士』。1962年に国鉄が鉄道の安全性をPRするために企画した作品で、常磐線の急行「みちのく」で上野〜水戸区間に乗車する機関士と機関助士の仕事を切り取っている。ドキュメンタリーながら緻密な脚本が施された名作だ。DVDなどにはなっていない貴重な作品だ。

 さて、今回は諸条件が整わず上映まで至らなかったが、機関車の街・高崎を証明する映画がある。1965年製作の井上和男監督作品・『各駅停車』だ。安中市出身の作家、清水寥人による「機関士ナポレオンの退職」を原作としている。主人公のベテラン機関士に森繁久彌、うだつのあがらない助士に三木のり平が扮し、最初は相容れない二人がいつしか友情を築いていく様子を主軸に、登場人物たちが抱える悲喜こもごもの人生をテンポよく快活に描いた人情喜劇だ。

 清水寥人は碓氷峠を走る横川機関区の機関士だったので、原作の舞台は碓氷線。それが映画では、撮影の都合からか旧足尾線が舞台になっている。機関車が走るのは現在のわたらせ渓谷鉄道だと思われるが、拠点として威風堂々と登場するのが高崎第一機関区だ。

 圧巻なのは冒頭に出てくるラウンドハウス。蒸気機関車の向きを変えるためのターンテーブルを中心に、放射状に引き込み線が配され、その先には扇型に車庫が連なる。この全体を見渡せるカットは「美しい」の一言につきるが、俯瞰で撮らなければならないため、相当大掛かりな撮影だったと思われる。ラウンドハウスは蒸気機関車の衰退に伴いなくなっていく訳で、今となっては現存するところはほぼないらしい。歴史的建築物とも言えるそれを映像で、しかもすばらしいアングルで見られるということは貴重というわけだ。また、高崎第一機関区は、給水炭設備にしても全国的に見てもかなり充実した設備だったそう。

 街の歴史と財産が、こんな風に映画におさめられているとはなんとも乙なものだ。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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