外国人観光客を取り込め

外国人が訪れやすい環境づくりと情報発信

外国語観光パンフレット

 日本の地域経済を活性化させる成長分野として、インバウンド観光・インバウンド消費(訪日外国人の観光・消費)が注目されている。外国人観光客のニーズが多様化・細分化し、従来型観光一辺倒ではなく、地方都市に新たなチャンスが生まれている。
 高崎における外国人観光客誘致の現状を探ってみた。

「商工たかさき」 2015/3号より

●東京・大阪・京都がゴールデンコース

 国は観光立国をめざし「ビジットジャパン(訪日旅行促進事業)」の海外プロモーションに力を入れている。政府観光局の2014年暫定値で、訪日外国人観光客は1,341万4千人、消費金額は2兆305億円に上り過去最高を記録した。同局が訪日外国人に行った調査(平成22年)で、都道府県別訪問率ランキングのトップ3は東京60%(外国人観光客の60%が東京を訪問したことを意味する)、大阪26%、京都24%で定番の観光エリアとなっている。群馬県は全国27位となっているが訪問率は0.9%で、1%以下の都道府県はどんぐりの背比べとなっている。
 中国人観光客でゴールデンルートと呼ばれているのが関西空港・大阪・京都・愛知・富士山・箱根・横浜・東京(銀座・秋葉原など)・成田空港の盛りだくさんコースで、大人気となっている。
 ところが興味深い傾向もあり、ニーズは細分化している。台湾人観光客は北海道、黒部・上高地が大ブームで、昨年は航空路線も増便。特に立山・黒部が人気で交通・宿泊の手配が間に合わないほどとなり、台湾は最大の訪日市場になった。北陸新幹線開業により、国際観光都市金沢と中部・北陸地方がポテンシャルを高めることはまちがいない。

●小さなきっかけが大きな集客に

 特定の国の観光客に人気となったり、思わぬ場所が観光スポットになったりと、ピンポイントの外国人観光客の消費を牽引しているのが、インターネットによる情報発信や外国人観光客自身によるブログと考えられている。楽しい体験談や美しい写真などが、地方都市の観光集客に強い影響力を持っている。
 ホームページに英語解説を加えたことで外国人観光客が訪れ始め、人気スポットとなった農園や時速300キロで通過する新幹線の迫力が動画サイトにアップされ見物に外国人が訪れる姫路駅など、ネットがきっかけで何に火が付くかわからない。外国人観光客にランドセルや温水洗浄便座が売れているというのも、インターネットがきっかけになったと言えるだろう。

●外国人向けの情報基盤を整備

外国人向け情報案内端末(高崎駅コンコース)

 国の海外観光客誘致に加え、2020年の東京オリンピックに合わせた外国人観光客の取り込みをめざしている都市は極めて多い。外国人が訪れやすい環境づくり、話題を発信し続けていくことが重要で、2020年が近づくにつれ、都市間競争はますます熾烈になるだろう。
 高崎市は外国人観光客の誘致をめざし、市内の観光情報や困った時に役立つ情報をタッチパネルで表示する情報案内システムを高崎駅など7カ所に設置。また、英語、中国語(簡体字版・繁体字版)、韓国語の観光パンフレットに、新たにタイ語版を追加した。
 観光案内板の掲載情報の検討、観光パンフレットの取材編集は、ともに高崎市内在住の外国人に依頼し、外国人目線の情報発信を重視した。
 高崎の魅力を市民がインターネットで発信する「高崎観光大使」には予定の500人を上回る830人が登録し、活発な活動が行われている。この観光大使の活躍により、旅のご当地情報サイト「ぐるたび」では、群馬県内のみならず全国の観光スポットやお土産の注目ランキングの上位に高崎市の名所やグルメがランクインしている。
 更に高崎市は、外国人向けの情報発信を積極展開しようと、在住外国人や外国語に堪能な市民に「おもてなし通訳・翻訳ボランティア」を募集したところ、予定の60人の2倍を超える応募があった。
 「外国人が訪れやすい」環境づくりと、訪れやすいことを海外に発信し、知ってもらうことが第一歩だ。高崎市が実施しているインド人向け観光体験ツアーは、こうした情報発信の一手となるものだ。

●飲食店の注文も多言語対応

指差し会話ブック

 ホテルや大型量販店などでは外国語に精通したスタッフを配置できるが、まちなかの小売店や飲食店は外国人が来店したら、対応に戸惑ってしまうのも現状だろう。外国語のメニューを用意している店は少ない。料理を外国語に翻訳するのも専門的な知識が必要になる。
 群馬県飲食業生活衛生同業組合では、外国人が来店した際のコミュニケーションツールとして、「指差し会話ブック」を作成し、組合員に役だててもらう取り組みを始めた。
 A3版の両面に料理の種類や食材、味、食べ方などをイラストと日本語、英語、中国語、韓国語、タイ語で表記し、「いらっしゃませ」から支払いまで、「指差し」で対応できる。店から客に伝えたいこと、客から店に伝えたいことの基本的な事項が網羅されており、文化の違いを意識した構成になっている。
 タブレット端末を使って、その場で外国語に翻訳システムを利用したり、メニューをデジタル化して登録しておくなどの工夫も進んでいるが、この「指差し会話ブック」は手間なく誰でも簡単に使え、外国人の立場から必要な情報が掲載されているので、実用的なツールとなっている。

●中国語・韓国語に対応。免税カウンターも

 春節の期間に日本への中国人観光客が増加し、買い物の様子は「爆買い」と評され、一人当たりの消費額は旅費や飲食費などを含めると数十万から百数十万にもなると言われている。百貨店、大型家電店などでの爆買いは更に激化しているようだ。昨年10月に免税制度が改正され医薬品や食料品が免税対象となり、手続きも弾力化されたことで観光における買い物は更に大きな注目市場となっている。
 高崎市内の家電量販店では、以前から売り場で中国語、韓国語に対応しており、免税カウンターも設置されている。百貨店やショッピングモールの求人でも、英語や中国語など外国語を話せるスタッフが優遇されるケースもある。新免税制度では、食料品や飲料が免税対象に含まれたことにより、地場産品の特産品や銘菓、地酒などを外国人観光客に購入してもらうチャンスとなっている。

(商工たかさき・平成27年3月号)