意外と売上が伸びている高崎の景気
発表されている統計で昨年来、国内景気を表す様々な指標が好転し、大企業の景気回復が報道されている。今年の年頭、高崎商工会議所の新年祝賀パーティでは「景気回復を高崎へ、中小企業へ」と来賓の国会議員が強い決意で語っており、早く高崎へ回復の波が届いてほしいと願った会員も多かったことだろう。
また、4月の消費税引き上げは、景気回復の流れを止めるだろうと懸念されていた。消費税引き上げのあわただしさが一段落してみると、高崎でも「悪くはないな」と言う声が聞こえている。「高崎の景気が実際にどうなっているのか」と商工たかさき編集委員会で現状把握の重要性が指摘され、会員企業の聞き取りをしたところ、「実は、去年の年末くらいから良くなっている」、「消費税引き上げで売上げはそれほど落ち込まなかった」といった様子が見えてきた。
「商工たかさき」 2014/7号より
●夜の高崎は景気のバロメーター
「景気の話はタクシー運転手に聞け」と言われる。景気のリトマス試験紙となるタクシー業界に高崎のまちの様子を聞いた。夜の高崎に元気があれば、景気回復は本物と言えるのではないだろうか。
市内のタクシー会社では「お客様を迎えにスナックのドアを開けると、店内の席は埋まっている」と運転手さんたちが話していると言う。高崎市内のタクシーの売上が前年同月を上回ったのが昨年の11月で年末年始は、タクシー業界はかき入れ時で12月以降も好調に推移している。冬期の忘新年会、春の歓送迎会とも業績は良かったそうだ。
「人がまちへ飲みに出ていますね」とタクシー業界は実感している。県内のタクシーの売上の伸びを見ると、太田市が一番で、伊勢崎市、高崎市と続いている。この順位は県内の工業出荷額の順位と同じで、製造業の景気が良さそうだ。「太田は自動車関連が好調だ」という見方も多い。
「業績が良い時には、飲みに行こうという気持ちになる。リーマンショックの頃は、仕事が無くて従業員にも申し訳なく、とても飲みになど出かけられなかった」と、市内の製造業の経営者は語る。
●製造と建築関連が牽引役
製造業の経営者は「実は、売上が伸びています」と控えめな口調で語る。1、2年前ほど前から、受注が伸びているそうだ。「仲間の話を聞いても悪い話は聞こえてこない、当社は輸出関連製品が中心なので、国内の消費税引き上げは受注量には影響しなかった」という。1月から2月は、3月の駆け込み需要に備えて生産量が増え、4月に一服感はあったものの、その後は順調だと言う。「円高やリーマンショックで製造業にはつらい時期が長かった。好転したからと言って声高に話せない。『まあまあだ』と言っている人は、実はかなり伸びているのではないか」と、良い意味で話半分のようだ。景況感は消費マインドにも大きく影響し、製造業が回復の牽引役の一つになっている。
「もうこれ以上受注できない」と悲鳴を上げているのが建設・土木、設備業だ。技術者、職人の不足が東日本大震災の復旧工事によって始まり、土木は2年、建築は1年ほど前から深刻化している。仕事があっても受注がこなせない状況だという。昨年は、消費税引き上げ前の「駆け込み需要」が大きく影響したとされているが、「駆け込みで増えたわけではなく、全体が良い方向に動いている結果」と市内の建築関連会社は見ている。「直接的な効果はまだこれからだが、2020年の東京オリンピック開催は土木建築の見通しを明るくした」と好況の一因になっているようだ。
忙しくて仕事を断っている状況の建築関連業だが、「建築よりも土木のほうが数年早く回復していた」と語る。
●公共事業が景気の下支えに
公共事業は、国の予算を見ると平成9年の9兆7千億円をピークに減少し、平成24年度はピーク時の半分の4兆円台に落ちたが、平成25年度から増額に転じ、政府は公共事業で景気を下支えする方針を示している。
建設業者が受注した公共事業の金額は、県や市町村なども含めて伸びている。大手ゼネコンは昨春から前年同月比がほぼ毎月2ケタ増加を続けており、50%超もあった。
市内の建築・設備会社は、「これまで群馬県内の公共事業は東高西低で、前橋から東側が圧倒的に多かった。今は西高東低に転じている」と話し、西毛の動きが良くなっているそうだ。
公立学校の校舎などの耐震化、普通教室へのエアコン設置、世界遺産・富岡製糸場関連のインフラ整備、富岡市から吉井町にかけて国道254バイパス整備と沿線の活性化など好材料が出ている。
高崎市内では新体育館と新斎場が着工し、高崎駅西口前の大型商業施設、駅東口の高崎文化芸術センターなど大型プロジェクトが動いている。高崎玉村スマートIC周辺工業団地の造成がスタートすれば、土木建築の需要は一層高まる。職人不足が心配されるが、市内の建築設備業者は「高崎の意地にかけてもやりきりたい」と語る。
民間の建築では「以前は医療関係が多かったが、最近は店舗や流通関係も増えている」と話しており、小売業、卸売業への設備投資も好況が波及しているようだ。
●消費税引き上げの影響
小売店や卸売業、飲食店は、消費者の動向にダイレクトに影響を受ける。4月の消費税引き上げで、3月の駆け込み需要とその後の買い控えにより、売上がどのような曲線を描くのか、消費税転嫁による新しい価格の設定は適切だったのか、店主は胃が痛くなる思いだったようだ。
駆け込み需要で3月の売上げが伸びたところは4月に反動があったものの、思ったほどではなく、しかも長期化しなかったという。食品のように、それほど大量に買いだめができない商品や、「食いだめ」ができない飲食店の売上は、3月、4月の変動はあまりなかったという。
打撃の大きさで見ると、前回の消費税引き上げ時の方が大きかったと話す店主が多かった。心配材料となるのは、消費税転嫁の価格設定だ。1円単位の価格を嫌う客層の飲食店は、10円未満を切り捨てで利幅を減らしている。飲み放題やコース料理など、キリの良い五百円・千円単位の価格で客を呼んでいた飲食店は、消費税引き上げ前と後でも、価格を変えないところもあり、「提供する料理で調整するしかないが、質が落ちたと言われないか、お客様の反応が気になる」という。
●新商品やセールで工夫
ランチタイムに女性客で賑わう飲食店
女性の景気感覚が大きく影響
消費税引き上げに対し戦略を立て、売上維持に取り組んだ小売店や飲食店は、一定の成果を得たようだ。3月から4月にかけて新商品を投入したり、売り出しセールを行ったりするなど、魅力づくりでお客様を呼び込んでいる。
市内の菓子店では、「長く価格を維持してきた。利幅が5円、10円のビジネスで値上げをしたいと思っていたが踏み切れなかった。消費税引き上げを機会に価格を見直した。売上にブレーキがかかっても仕方がないと覚悟した」と一大決心で4月1日を迎えた。季節商品をがらりと入れ替え、準備してきた新商品を投入し、お客様に値上がりをさほど意識させないように工夫したところ、失速感は少なく、売上の戻りも早かった。
女性客を中心としたレストランではランチに新メニューを加えた。消費税引き上げ分を価格に転嫁したので「びくびくしていたが来店数は維持しており、お客様にすんなり受け入れられている」と軌道に乗っている。
「外食は景況感に左右されるので、世の中全体に良いムードになってきたのではないかと感じる。女性が外出する機会が増えている」と言う。和菓子店では、スイーツブームの好影響や、得意客である茶会の頻度も増えていると感じており、女性の景気感覚が、消費動向を大きく動かしているようだ。「消費者は、消費税引き上げで食材費を切り詰める一方、旅行やアパレルなどは景気感に影響される。お遣い物などギフト用途は多少の出費は許容範囲。『自分へのごほうび』の買い物も増えている」と、女性心理をつかむのも小売店の重要戦略になっている。
●原材料は値上がり品薄、仕入れに負担感も
業種を問わず原材料費は値上がりしており、消費税値上げを含めた仕入れ金額に負担感を感じている経営者もいる。「毎日の仕入れがずいぶん上がっていると感じている」と現金仕入れの飲食店店主は語る。「忙しいけれど利益はさほど伸びていない。現状が維持できれば上出来」という。
建築設備業でも「メーカーが一斉に値上げした。消費税引き上げと値上げが一気にきた」と苦しい様子だ。しかし「高騰ではない。春に上がって秋に下がる資材もある」と冷静に見ている。困っているのは資材の品薄だ。「資材メーカーは慎重で、生産量を増やすつもりはなさそうだ。納期も長くなっている。今まで発注から1カ月で入った資材が今は3カ月待ち半年待ち。受注生産の資材もあるので工期の見通しを立てるのが難しい」という。
●職人不足、資材不足 企業の実力示す時
東日本大震災の復興予算が土木・建築業界の特需になっていると言われる。復興事業で首都圏から東北へ職人が移動し、手薄になった首都圏の仕事を群馬の職人が手伝いに出かけ、地元の仕事をこなす職人が少なくなっている。
前政権時に国の方針で公共事業が大きく減った時期に、土木・建築業は縮小せざるを得ず、人員整理や新規採用を控えてきた。「急に人手が足りないと言っても、すぐに増やすわけにはいかない」のは当然だ。特に若手の技術者不足は技術継承に関わり、業界全体の大きな問題になっている。「機器メーカーの話では、昨年まではコンスタントに新卒が就活にきたが、今年は来ないと嘆いている」、就活も売り手市場に変わってきているという。「今がチャンスだが、会社を伸ばそうと思っても人材が集まらない」とジレンマを抱えている。
建築、設備業では、職人、技術者の不足を企業同士の協力で補っているが「工期にあわせて、必要な職人の数を揃えるのは自社の力」という。基礎工事から完成まで、予定通りに作業を段取り、遅れを出さないように監理することが生命線だ。建物建築の工程が遅れると、電気や設備、内装の工事ができない。今は、職人不足で全般的に工事が遅れる傾向にあり「いつになったら現場に入れるのか、気が気ではない」と設備会社は語る。「職人が売り手市場になっている。困った時だけ頼んでも仕事を請けてくれない。これまで苦しかった時にお互いに助け合ってきた実績が大切だ」。職人不足、資材不足の中で、責任を持って工事を完成させることが企業力の表れだ。
●成長のチャンス、賃金引上げは不安も
手をこまねいているばかりではなく、取材した製造業や建設業の企業では受注が増え、売上が上がっている今こそ成長を図ろうと、従業者を増員している。正規雇用、パート、派遣社員など形態は企業の状況によって様々だが、「時期を逃してはいけない」と従業者を1割程度増やしたケースもあった。新卒採用に力を入れた建築会社は「一人前になるまで5年をかけて育てたい」と語る。製造業では「今が設備投資のしどころで、ものづくり補助金などの施策もあり、全般的に投資意欲は旺盛になっている」。
売上が上がった分は「苦労もかけたので賞与で従業員にこたえたい」と考えている経営者が多かった。しかし賃金の引き上げについては控え目な様子で「この景気がどこまで続くか」と将来的な人件費負担に不安はぬぐえないようだ。建築関連では「東京オリンピックまで好景気は続くだろうが、その先は」と顔が曇る。「景気はムードだけで実感がない」と半信半疑の見方もある。「あとで振り返ってみると、なんとか景気と呼ばれるような歴史的な景気になるだろう」と言う。
「会社は人が命だ。会社に体力がある今こそ人材を育て、力を蓄えて10年後に備えたい」と、この景気を企業将来に活かしたいと考えている経営者もいた。
景気を読む「条件に恵まれた高崎」
群馬県内、高崎市内の現在の景況について経済ジャーナリストはどのように見ているか、経済記者のS氏に話を聞いた。
●最近の景況について、どのようにとらえているか。
3月まで予想よりも良かったという企業が多い。4月の消費税引き上げの影響を大きく見ていた企業が多かったようだが、予想よりも影響が少なかった。予想よりも回復が早かったと言えそうだ。
●業種別の動きに特徴は
4月以降の谷が長引いている業種もある。4月以降の住宅ローン減税は4千万円よりも高ければ恩恵があり、それ以下は消費税引き上げで負担が増えるという試算もある。都内のマンションは良いが、群馬は好調だった去年の反動を受けている。
消費税引き上げの影響では日用品は影響が終わっているようだ。財布を締めるだろうと言われていた外食産業は心配するほどの影響はなかったようだが、構造的な厳しさは変わっていない。百貨店の売上は4月に落ち込み、まだ回復しているとは言えず、夏のセールの結果が注目されている。家電はパソコンのウインドウズXPの乗り換え需要があったことや、ワールドカップを見込みテレビや録画機器の商戦もあって、早い企業では4月中旬に回復している。
ガソリン価格が高騰し、車社会の群馬では買い物頻度が下がるとの懸念もある。
●製造業が好調となっているようだが
群馬は太田の自動車メーカーの北米輸出が伸びており、当面の間は増産が続くと見られている。全般的に県内の製造業は好調と言え、県内の好況感を引っ張っているようだ。
●賃上げの動きは
大手企業から下請けにも賃上げの動きが見えてきた。少なくとも今年のボーナスはよさそうだ。製造業では残業手当で手取り額が増えているので消費を押し上げているのだろう。
●今後の高崎の展望は
新体育館、西口の商業施設の計画、北陸新幹線金沢延伸など高崎は全国的にも条件に恵まれており、特に高崎駅東口エリアは注目されている。圏央道が東名高速道と直結した効果がこれから大きく出てくるだろう。群馬に国内の物流や生産拠点を移す動きにも注目したい。富岡製糸場の世界遺産登録も好影響となり、観光客、宿泊客を高崎に誘致することも重要だ。全国的に見ても群馬、高崎は条件に恵まれ景気回復にも表れているようだ。