第33回高崎映画祭~受賞理由(1)
(2019年01月11日)
特別大賞・最優秀作品賞・最優秀監督賞
特別大賞
『花筐/HANAGATAMI』 大林宣彦監督スタッフ・キャストー同
映画は時に人生を凌駕する。イマジネーションはどこまでも自由であり、それを表現する映画もまた自由であることを、この映画は教えてくれる。
檀一雄の小説『花筐』を原作に、一人の映画作家|ま戦争の記憶を紡ぎ出す。残酷な現実が次々と襲う中で、若者たちは生への掲望をむき出しにする。かつての時代を生きた若者たちの生命の輝きは眩く、重厚だ。「戦争に殺されるくらいならば!」彼らの意志の強さは色彩となり、空間芸術となって映画の中に立ち現れる。映画の醍醐味を存分に活かしたダイナミックな世界観と、ジヤーナリズムに溢れた作家性に感嘆するばかりだ。美しく壮大な古里映画に最大の賛辞を込めて特別大賞とする。
最優秀作品賞
『斬、』 塚本晋也監督スタッフ・キャストー同
痛烈で強烈な映画体験であるばかりか、崇高で芸術的美しさに満ちた映画である。
武士の本分を理解しながらも、刀を抜けない侍の葛藤は、かの時代から現代まで通じる普遍性を持っている。相手の命を奪うことの前には、自らのもしくは自らが大事に思う人たちの命を守ることが立ちはだかる。授けられた役割を前に人は何をすべきなのか。争いはいかにして起きるのか。報復の連鎖を止めることは巣たして可能なのか。
深淵なるテーマに常に実直に向かい合い、映画が成しうる表現に挑み続ける姿勢に刺激を受ける。
優れた洞察力で人間の様々な側面を描き出し、独特で唯一の世界観を生み出すその手腕とテームワークに賞賛が集まった。
最優秀監督賞
瀬々敬久監督『菊とギロチン』
いつの時代でも、人はその流れの中で泳ぎ生きていく。その運命にはそれぞれのドラマがある。大正末期に生き、その時代に真っ向から対峙した人々の物語が、硬質で骨太な物語として描き出される。あたかも目の前で今繰り広げられているように映るその力強さと躍動感に引き込まれた。それは同時にこれが、現代の物語であることをも証明している。個人の意思はどこまでも自由であり、大きな時代にさえも抗える力があるはずだとこの物語は謳う。
同時に、映画にはその力があるのだとも再確認する。今の時代に風穴を開ける一作であることは間違いがない。
最優秀監督賞
濱口竜介監督『寝ても覚めても』
一度生まれた愛はその後どうなるのか。本作は愛を描いた物語だが、恋愛ドラマと一口に表現し難い装いがこの映画にはある。愛という感情は、喜びに満ちた時には最大限の包容力を見せるが、時にそれは破壊的な暴力性も携える。その双方が、人間の手の中にあり、時には自分でも制御できない愛という力に突き動かされてしまうことを本作は巧みに描きこんでいく。その鮮やかな手法に舌を巻く。
映画的文脈で文学の真髄を昇華させた作家性が高く評価された。
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