大林監督が作品への思い切々と
(2015年3月22日)
感動の映画祭授賞式
第29回高崎映画祭が20日に開幕し、授賞式が22日に高崎市文化会館で行われた。授賞式には12人の受賞者のうち、10人の受賞者が登壇した。特別大賞を受賞した『野のなななのか』には大林宣彦監督らキャスト、スタッフ10人と北海道芦別市の「星降る里映画学校」より5人の関係者が駆けつけ、大林監督は受賞作品や震災復興、戦争体験や平和について来場者に語った。
高崎映画祭総合プロデューサー志尾睦子さんは「2014年に公開された600本を超える邦画の中から選りすぐりの6本。今回は抜きんでた力のある突出した作品があった」など今回の受賞作品について述べた。
高崎映画祭の須藤賢一委員長は「高崎映画祭は、映画界や映画関係者に評価されている。今回はホロコーストの関係者のインタビュードキュメントやインド映画、ポーランド映画などめったに見る機会のない映画も予定しており、映画祭に足を運んでもらえることを願っている」、富岡市長は「受賞した監督や俳優が毎回出席してくださり本当にありがたい。映画祭の皆さん、シネマテークたかさきで長い間、運営に苦労しながら優れた映画の上映を続けている皆さん、ボランティアの皆さんが、高崎の文化を支えてくれている」とあいさつした。
高崎映画祭は、4月5日まで行われ、会期中に49本の映画が上映される。受賞者のコメントの要旨は以下の通り。(編集部まとめ)
●新進監督グランプリ=安藤桃子監督『0.5ミリ』
(出産間もないため、妹の最優秀主演女優賞の安藤サクラさんが手紙を代読)
生まれたての赤ちゃんを抱えて駆けつけたかった。本当に映画が好きな人が集う高崎映画祭で天使のトロフィを頂けるのが嬉しい。主演のサクラはじめ関わった人すべての魂がこもった映画。この映画を見てくださった方々、高崎映画祭の皆様に感謝したい。
●最優秀新人男優賞=村上虹郎さん『2つ目の窓』
「2つ目の窓」とは、魂が人の体を借りて生まれた時が1つ目、死後の世界に行く時が2つ目の窓が開くという意味があります。傷つくことを恐れる思春期の主人公・界人が、葛藤から踏み出した時に2つ目の窓が開いた。僕も両親から逃げていた部分があったが、この作品と河瀬直美監督が両親と向き合わせてくれ、僕自身この映画で窓が開いた。壁をぶち壊した瞬間に何かがあるし、僕自身楽しく人生を生きたいと思いました。高崎映画祭に関わらせて頂いて本当にうれしい。ありがとうございました。
●最優秀新人女優賞=吉永淳さん『2つ目の窓』
(スケジュールの都合上、欠席)
●最優秀新進女優賞=玄里(ひょんり)さん『水の声を聞く』
会場に駆けつけてくれた父に、俳優という仕事に出会えて、幸せだということを伝えたい。初めて主演させて頂いた映画でベルリンにも高崎にも来られた。映像は言語や国境を超えるものだとベルリンに行って感じた。これからも壁を超える作品に出ていきたいし、人の心を動かす女優でありたい。素敵な場所に呼んでいただき、ありがとうございます。
山本監督と村岡プロデューサーがサプライズで登場、玄里さんは「監督とプロデューサーにありがとう、大好きと伝えたい」と涙ぐみながら話し、山本監督からは「手の届かない存在になりつつある玄里さん、そう思いつつもっとつき上がれとも思っています。いい映画です、ぜひ見てください」と話した。
●最優秀助演男優賞=菅田将暉さん『そこのみにて光り輝く』
22歳の若輩者の僕が、高橋和也さんと同じ賞を頂けるということ感謝しています。見た方から「菅田くん、良かったよ」と言って頂けるのだが、この映画のタイトルを言える人がなかなかいないので今日はこの映画のタイトルを覚えて頂きたいと思いつつ、人間の活動をエンターテイメントとして描く映画を、楽しく、美しく作り続けたいと思います。ありがとうございました。
●最優秀助演男優賞=高橋和也さん『そこのみにて光り輝く』
今日はとてもうれしいです。最優秀助演男優賞を菅田君と分け合ったのですが、本当はどっちが最優秀なのか、とっても気になるんです。俳優に転向して21年。今まで色々なチャンスがある中で、その度に逃してまいりました。涙を飲んでまいりました。この高崎映画祭で選んでいただき、心の底から感謝しています。ありがとうございます。たくさんの方に感謝申し上げます。ありがとう、高崎。
●最優秀助演女優賞=池脇千鶴さん『そこのみにて光り輝く』
高崎映画祭で今まで2度賞を頂きました。たった17年間で3度も頂け、びっくりしていて感謝しかありません。私のお芝居を引っ張ってくれた綾野さんや菅田さん、高橋さん、そして監督、スタッフの皆さんに心から感謝しています。高崎映画祭の皆さんにはいつも温かいメッセージや美味しいお土産を頂き、本当に応援してもらっているなというのが伝わってきます。これからも応援してください。今日は本当にありがとうございました。
●最優秀主演男優賞=綾野剛さん『そこのみにて光り輝く』
(スケジュールの都合上欠席のため、永田守プロデューサーがメッセージを代読)
栄誉ある高崎映画祭で最優秀主演男優賞を頂き、感謝します。この映画を愛してくれた人達の結晶だと自負しています。キャスト、スタッフ一同、よどみなく表現をあきらめず向き合った結果、我々は映画そのものに愛されたのだと思います。こうして映画と人は生き続けていく、ある種の形を皆様に教えて頂けた。改めて、感謝申し上げます。
●最優秀主演女優賞=安藤サクラさん『百円の恋』『0.5ミリ』
5年前、新進女優賞を頂きました。2014年はこの二つの映画を撮る中で、真っ黒い映画の魔物がいて、それと闘っていました。年末はくじけそうになっていたのですが、たくさんの方と出会い、作品を見て頂き、賞を頂いて、その魔物は「なんだかとても素敵なものなのかもしれない」そう思っています。そう思った時とても幸せに感じました。この受賞もとっても嬉しい試練だと思って、健康に頑張ります。ありがとうございました。
●最優秀主演女優賞=常盤貴子さん『野のなななのか』
この映画を製作した芦別の「星の降る里映画学校」とは、故・鈴木評詞さんという方が15歳の時に大林監督の映画に憧れて、いつか自分の故郷で監督に映画を撮ってほしいと考え、芦別の観光課で働き、大林監督を招き映画学校を作ったそうです。その後、病気で亡くなられてしまったのですが、スタッフ達が遺志を継いでこの映画が作られました。ここに導いてくれたのは評詞さんだと思っています。多くの方々に評価して頂けたのも、評詞さんのお陰であり、映画が好きな高崎の方々にはそれが分かるんだな、映画の力ってすごいなと思いました。常盤貴子の裏に、鈴木評詞さんを感じて頂けたらと思います。ありがとうございました。
●最優秀監督賞=呉美保(おみぽ)監督『そこのみにて光り輝く』
企画から台本作りと資金がなかなか集まらず諦めかけた時、出資、キャスト、スタッフが決まり、ようやく完成しました。たくさんの人達が見てくれて、国内外でも評価され、映画祭に招いていただき、その都度、キャスト、スタッフ、プロデューサーにまた会えて、絆が深まっていくことが嬉しいです。高崎映画祭に来ることがとても楽しみでした。「最優秀助演男優賞は本当はどっちなんだ」と言ってましたが、「私の映画で2人も選んで頂けて、こんなに幸せなことはない。どっちでもいいじゃない」と思っています。ありがとうございました。
●最優秀作品賞・特別賞=『野のなななのか』大林信彦監督、キャスト、スタッフ一同
大林監督=芦別はかつて炭鉱のまちとして栄えました。この映画は芦別の皆さんが「死んだ時には香典はいりませんから、今、ください」と製作費を集めたんです。思い出すのもつらい戦争や炭鉱のことなど、語りたくないと封印してきたことを若い人に伝え残していこうと、芦別の人たちの心が描かれています。
小学生と同じ機材で作ろうと決め、家庭用のカメラで撮影しパソコンで編集しました。
誰でも映画が作れる時代になりました。みんなで作って、みんなで見せ合って、みんなで語り合っていきたい。映画は違う意見を持っている人を理解する力を養ってくれる。私たちが作った映画は、皆さんの心にスクリーンに写って初めて映画になるのです。映画は心が見えるから感動するんです。
3・11で私たちの気持ちは真っ白になってしまって劇映画もドキュメンタリーも作ることができなくなってしまいました。被災地に寄り添ったエッセイのつもりでこの映画を作ったのです。これからは物とカネの復興だけではだめだ、日本のふるさとには美しい人の思い、いっしょにつながって生きていこうという日本人の魂が残っています。
芦別市のみなさん=この映画はすばらしい宝物、財産です。高崎の皆さんにいただいた賞で増えた私たちの心の財産を大事にしながら一生懸命生きていきます。