石碑之路散歩風景23
吉永哲郎
今回は根小屋城址近くのひだまりにある郷土の詩人山村暮鳥の「梅」の小さな詩碑。
おいそっと そっと しづかに 梅の匂ひだ
近くに梅林はありませんが、どこからか梅の香がしてきます。藪の中をすかしてみると、離れたところに梅の花が咲いていました。野鳥が運んだ種からか、それとも「おむすび」の梅干しの種からか、思いもよらない藪の中に生えた梅。暮鳥ではありませんが、「そっとしづかに」、梅の香りを聴きませんか。香道ではありませんが、「聞香」の世界にしばし誘われましょう。
当然、春先の暖かい日の午前中の散歩です。まだつめたい北風が吹きますが、この詩碑のあたりはひだまりで暖かく、散歩の一休みによい所です。
暮鳥は群馬町の旧棟高村に生まれ、北原白秋や三木露風らに続く大正期の異才をはなつ詩人です。朔太郎、犀星らと「人魚詩社」を結社、そこから第二詩集「聖三稜玻璃」を刊行しています。平面的な時空観念を離れた意識のもと、その時その時に描かれる幻想の世界を言葉に表現。第一次大戦後のヨーロッパにおける実存主義的傾向と日本にはなかった宗教的な象徴主義の傾向を表していました。
分かりにくいことを少々書きましたが、暮鳥の「風景」、ご存知の「いちめんのなのはな」をここで朗誦すると、暮鳥詩の世界に導かれるような気持ちになります。
- [次回:石碑之路散歩風景24]
- [前回:石碑之路散歩風景22]