石碑之路散歩風景16

吉永哲郎

 今年の桜は見事でした。寒い冬が花の開花をおさえ、時季がくると爆発的に一瞬に開花しました。「はなのたかさき」を堪能されましたか。特にお堀の桜は水に映り、ライトアップした堀端は誠に優雅でした。コロナで籠りがちな人のこころを、さくらがゆさぶってくれました。


四月は出発の月です。街行く人の歩みがこころなし軽やかに感じます。今年の流行色は「ミドリ」。それにふさわしい服装が目に付き、一層春を感じます。


 木々の芽が目立ちはじめた「石碑の路」を歩きましょう。今回の歌碑は高さ215cm、横116cmの細長い石に額縁のような四角型の碑面に、左から右(下の句から上の句)へ、万葉仮名5行で刻された難解な碑で、大沢雅休の書です。


一番左「由芣闇八」は「夕闇は」と訓み、順に右へと訓みすすめていきます。一首全体を訓読しますと「夕闇は路たづたづし月待ちていませわが背子その闇にも見む」(宵闇は暗くて道がおぼつかのうございます。月の出を待ってお帰りくださいな、あなた。その間だけでもあなたのお顔をみていたいのですもの)


豊前(ぶぜん)の国の娘子大宅女(おおやけめ)の詠んだ歌。大宅女はどのような女性かはわかりませんが、恋人を思う心情があふれた歌です。この巻4にはこうした恋の歌が多く撰せられています。歌碑は難解でなかなか訓みとれませんが、遠い万葉人の恋歌として、自己流に朗詠してみたら、いかが。

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