石碑之路 散歩風景9

吉永哲郎

 なだらかな山道が少し広がった道脇に高さ99cm、横112cmの大きな碑があります。山本聿水書の万葉仮名で刻された碑です。
 歌は「妹をこそあひ見に来しか眉引きの横山辺(へ)ろの鹿なす思へる」と読み、万葉集巻14東歌の「未勘国相聞歌112首」のうちの一首です。意味は「あなたにお会いしたいばかりに来ましたのに、まるで横山の鹿のように、うるさく思って追い払うなんて」です。
 この地ゆかりの歌ではないのですが、東歌の関連する歌の地でここに建碑されたのでしょうか。


 この歌の歌碑はもう一つ、八王子市鑓水御殿峠老人ホーム近くにあります。歌碑の上にユーモラスな鹿の像があるユニークな碑です。この碑の面に「逢いに来ました横山あたり、逢わせもくれずに、母親は猪みたいに追い払う」と、民謡風な訳が刻されています。
 東歌はそのゆかりの地と感じる人たちによって、歌の意味のとりかたが違います。どちらがいいというのではなく、歌の背景をどのように描くかという感性の問題です。鹿が猪というイメージ、娘に逢わせない母親、この山名の横山(あまり高くない丘陵)では、さて、どのような風景を描きますか。


 万葉時代は、男女同居する者もいましたが、多くは別々に住み、男は恋人を訪ねるのが常。「奥床に母は寝たり外床に父は寝たり起き立たば母知りぬべし出で行かば父知りぬべしぬばたまの夜は明け行きぬ幾許(いくだ)も思う如ならぬ隠妻かも」の歌のように、逢引きは難儀なことであったと思われます。

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